第22話:大家と意気投合するパン。

さて、用事を済ませた健斗が帰ってきた。


「ただいま」

「パン?・・・ただいま」


ほんとなら


「お帰りなさい曽我部っち〜」


ってパンの声が聞こえるはずだったが・・・部屋は静まり返っていた。

狭い部屋をぐるっと見渡したが人の気配がない・・・。


「あれ?」

「パン?・・・いないのか?」


「まさか・・・?」


狭い部屋の中を何度も見渡してもパンの姿がない。

もしかしたらと、トイレに声かけしてみたが返事はなかった。


また外に出てったのかと思った悠生君はひときわ憂鬱になった。


「あれだけ言ったのに、またかよ」

「勘弁してくれよな」


まあ、今もし外に出たとしても服はちゃんと着るようになっかたらそこは

まあ安心ではあった。


どうしたもんかと思った健斗。

すぐにパンを探しに行こうと思ってふと思い出した。


そうだ・・・今日は家賃の集金日だ・・・健斗は、もしかして

大家が集金に来てパンがいることがバレて大家に人質に取られたとか?


健斗は家賃を持って、あわてて大家の部屋に向かった。

大家の部屋を訪ねると、案の定そこにパンがいた。


「やっぱり・・・」


パンの居所が分かって健斗はホッとした。


「パン・・・何やってんだ・・・おまえ?」


「やっほ〜曽我部っち」


「あっ曽我部君」


「大家さん・・・これには深いわけが・・・」


「曽我部君、この子面白いわね」


大家がそう言った 。


「この子からいろいろ聞いたわよ」


(え〜何をどこまでしゃべったんだよ)

(まあ変わってる大家ならゴミ箱ら出てきたって言っても驚かないかもな・・・)


「あんたの部屋に集金に行ったらさ、この子がいたからびっくりしたわ」

「部屋を間違えたかと思って・・・」

「あのね、私ね、ひとりでゲームに夢中になってたんだけど」

「この子が対戦相手になってくれて助かってるのよ」


「本当はさ、うちは女性の連れ込みは禁止なんだけど・・・曽我部君ちだけ

大目に見とくわ」

「特例よ、特例・・・この子に感謝しなさい」


大家さんは何も聞いてないのに、ひとりでベラベラくっちゃべった。

そして、なんだかパンのことは普通にスルーされた。


「大家さん、ゲームなんかするんですね?」


「年寄りはゲートボールとカラオケしかしないと思ってるでしょ」

「私はそこらのじじばばとは違うんだよ・・・」

「ゲームが趣味だからね」


「でね、この子いろいろ話してくれたんだけど、この子の話突拍子もなくて

面白いったら・・・」

「私、とんでもない不思議な話とか好きなのよ・・・UFOとかオカルトとか

ファンタジー物とか・・・ユーマとかね 」


「この子異世界からゴミ箱通って出て来たって言うじゃない・・・」

「ファンタジーよね・・・そういうの」


「ああ、そういうのが好きなんだ・・・人は見かけによらないんですね」


(見かけ通りだけどな・・・怪しいばばあだし・・・)

(昔、なにやってたかは知らないけどただのボケ老人じゃないとは思ってた・・・)

(裏で暗殺の請負とか拳銃とか売ってそうだし・・・部屋の中もジャンクだし)


「ねえねえ、あんたこの子、耳が尖ってるけど・・・これって?」


「だからファンタジーなんだって」


「そういうのに詳しいなら分かるだろ・・・ファンタジーに出てくるエルフ

とかってみんな耳尖ってるのが定番だろ?」

「この子もそういう世界から来たみたいだからさ・・・」


「あ〜あるあるだね、ロードス島戦記のディードリットとかね、あと

ロード・オブ・ザ・リングとか・・・」

「本当にあるんだね、そういう世界って・・・一度行ってみたいわ・・・」


なんと意外や意外、異世界に夢をはせる大家さんだった。


(ばばあのくせにめちゃ詳しいじゃん)

(それに夢じゃないんだよな・・・こればっかりは事実みたいだし・・・)


「ねえ、曽我部っちもおいでよ・・・一緒にゲームしましょ」


パンが大家さんと丸く収まってるのを見てとりあえず安心する健斗だった。

大家に見つかったら、やっかいだと思っていたから・・・。

でも大家がパンの言うことを信じたことが予想外の出来事だった。


まあ、最近は金髪でカラコンしてる女子なんてどこにでもいるしコスプレしてる

子も山ほどいるし耳が尖った女だって珍しくはないのかも・・・。


健斗はパンに誘われるままに、大家さんお部屋に上がり込んでゲームを素直に

楽しんだ。

一時は、またパンが外に遊びに出たと憂鬱になっていたがこれで、すべて丸く

収まったことに健斗は胸をなでおろした。


パンとは時々、自分が外に連れ出して少しづつ環境に慣らしていけばいいと思った。

パンはパンで健斗が大学とバイトに行ってる時は大家さんの家に入り浸っていた。

大家さんの歳の人のうんちくはパンにも、なにかと役に立ってくれたようだ。


大家から余計なことを吹き込まれた可能性はあったがうまくコミュニケーション

が取れてるならほうっておいてもいいと思った。

パンはこの時代の社会の常識をお年寄り「大家」から学んでいった。


あとはめでたくパンとセックスできるかどうか健斗にかかっていた。


つづく。

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