第19話:ニンフちゃんの無銭飲食。

とりあえず健斗の母親は不本意ながらでも納得して田舎に帰って行った。


それから数日後のこと。

ある日、健斗が大学にいる時、警察から呼び出しをくらった。


健斗は家にひとり残して来てるパンのことがすぐ頭に浮かんだ。

何かあったかパンに・・・それしか思い当たらなかった。


それはこういうことだった。


ひとりで留守番をしてたパンは退屈を持て余してとうとうアパートの外に出た。

前に一度健斗と出たことがあったので外は怖くはなくなっていた。


とりあえずこの間、健斗に連れて行ってもらった商店街に出た。


あちこちキョロキョロしながら歩いてると食堂の前でラジオ体操をしている

オヤジと眼があった。


「お嬢ちゃん、まだ昼前だけど飯食っていきなよ」


オヤジは気軽にそう言った。

そういうのが習慣になっていて、そうやって通りがかりの人、誰でも声をかける。


パンはお腹が空いていたので素直にオヤジの誘いに乗った。


「はい、お腹ペコペコです」


そう言ってパンはオヤジの食堂に入った。

店の名前は「満腹食堂」・・・いわゆる一般大衆食堂だ。

店の中は、すでにお客が何人かいた。


適当に椅子に腰掛けるとオヤジは水が入ったコップをテーブルの上に置いて

パンに聞いた。


「お嬢ちゃん、外人さん?」


「みたいなものです」


「その耳・・・どうしたね、尖ってる?」


「生まれつきです」


「あ〜そう・・・?」


「まあいいわ・・・ところでなに食べるね」


「カップ麺・・・」


「うちは本格料理の店だから・・・そういうのはスーパーで買って食いな」

「食いたい物はそこのメニューから選んでよ」


メニューを逆さまに見たワインが言った。


「分かりません」


「メニュー逆さま・・・面白いお嬢ちゃんだね」


「あ〜外人だから分かんないのか・・・」

「なんだそれ、今日の日替わりはコロッケ定食だな・・・それでいいかね」


「はい、それでお願いします」


しばらく店の中をキョロキョロ眺めていたら、おじさんがコロッケ定食を

持ってきた。

パンは出されたコロッケ定食を、あっと言う間に綺麗に平らげた。


「ごちそうさま・・・とっても美味しかったです〜」

「お腹いっぱい・・・」


そう言ってパンが店を出ようとすると、オヤジが


「お嬢ちゃん・・・お金、飯代・・・」


「はい?」


「だから、コロッケ定食代、払ってもらわないと」


「そんなものがいるんですか?」


「ただ食いするつもり?」

「いくら外人だからって食い逃げはよくないね〜」


「おじさんが飯でも食ってけって言うから、お言葉に甘えただけですけど」


「そりゃ、あんた・・・建前の挨拶だよ・・・親切で言ったんだから」

「今時、ホームレスじゃないんだから金持ってないなんて誰も思わないわな」


「お金なんてもの持ってないです」


「困ったね・・・誰か知り合いとかいないの?」

「お金代わりに払ってくれるようなさ」


「いますけど、今はここにはいません」


「大丈夫かね・・・右も左も分からん子をほうってどこへ行ってるんだか・・・」

「じゃ〜さその人に連絡とって、お金払ってよ」


「連絡取れません」


「しゃ〜ないね・・・んじゃ〜とりあえず警察、行こうか」


「お嬢ちゃん、悪いね、おじさんも食っていかなきゃいけないからね」

「タダで飯食われちゃ店が上がったりなんだわ」


ってことになってパンは今、商店街の派出所に世話になってるらしい。


で、パンの情報から曽我部 健斗と言う名前が出て、そして大学に連絡が入った

・・・とそういうわけ。


慌てて大学を早退した健斗はすぐに商店街の派出所に向かった。


つづく。



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