第2話 スキルの種ってドラ◯エでしか聞かないよね





 俺はエルテンシア様の後ろに付いて歩き、真っ白な部屋を出た。

 すると、目の前にはファンタジーな光景が広がっているではないか。


 雲海の上に浮遊する十三の島々。


 空は青く澄み渡り、清涼な空気で満ち溢れている世界だった。



「お、おお!! 何これ凄い!!」


「ここは神域。私を始めとした十二柱の神々が暮らし、世界を管理する場所です。空の上にあるように見えますが、実際は異空間にありまして――」



 スキル農園に向かう移動がてら、俺は神域についてエルテンシア様から色々と聞くことができた。


 ちなみに移動方法はエルテンシア様の不思議パワーだ。

 どういう仕組みか、光の幕に包まれて空中を等速で動いている。


 しかもそれなりに速度がある。


 更には半透明で足下が見えるから絶妙に怖くて仕方がない。


 俺はできるだけ下を見ないよう細心の注意を払いながら、エルテンシア様の話に耳を傾けることにした。



「ほぇー、神様同士で仲が良いわけじゃないんですね」


「ええ、基本的に私も含めて信者の数でマウントを取り合いますね。私たち十二神柱の力は信者の数に比例するので、皆してお母様――創造神様の後釜に収まろうと躍起なのです」


「……ふむ」



 感覚的にはSNSのフォロワーでマウント取り合う感じなのだろうか。


 いや、神様相手に流石に失礼な例えか。



「あっ。それから大事なことなので、これは覚えておいてください」


「あ、はい。……何です?」


「沢山浮島があるのが見えますが、あそこには極力近づかないことをおすすめします」


「なぜに?」



 エルテンシア様の話によると、あの島一つ一つにそれぞれ神様が暮らしているらしい。


 浮島は各々の神様の好みがそのまま影響しており、中には近づくだけでヤバイ浮島もあるので気を付けろとのこと。


 放射線を放ってる島もあるとか……。激やば。


 ん? というか十二神柱ってことは神様の数は十二人のはずだよな。


 でも浮島の数はひぃ、ふぅ、みぃ――



「浮島は十三個あるんですね」


「あら、鋭いですね。浮島の中でも中央にある一際大きな浮島があるでしょう?」


「あ、はい。もしかしてあそこが?」


「その通り。今私たちが向かっているスキル農園であり、私たちをお造りになられた創造神様がかつておわした島」



 さっきの神様同士で創造神の後釜を狙って争っているという話で薄々思っていたが。


 かつて、ということは……。



「もしかして、創造神様は?」


「……はい。地球にバカンスへ行ってくると書き置きを残してちっとも帰ってこないのです」


「あ、そうですか」



 てっきりお隠れになったとか、そういう重い話かと思った。

 いや、本人たちにとっては重要な問題なのかも知れないけどさ。



「これを機に創造神の座を得て、一気に信者をゲットするのです!! ……あっ」


「……俺は何も聞いてないです」



 創造神がいなくなったこと自体はあまり気にしてなさそうだな。



「コホン、そろそろスキル農園です」


「ここが……」



 俺とエルテンシア様が降り立った浮島は、かなり広大な土地だった。


 他の島の大きさを1とするなら10くらいか。


 とにかく広くて島の中心に大きな湖があり、更にその周りを森に囲まれている。


 湖の中心には城が建ち、どこか神聖な雰囲気を放っていた。

 俺は思わず城に目を引かれて、エルテンシアに問う。



「エルテンシア様、あのお城は何です?」


「あそこは創造神様が暮らしていた家ですね。今は無人で、神々が集まって話し合いをする際に使っています」



 ほぁー、雰囲気あるなあ。



「スキル農園はこちらですよ」


「あ、すみません」



 俺はボーッとお城を眺めるのをやめ、再びエルテンシア様の後ろを歩く。


 しばらくして辿り着いたのは、お城が浮かぶ湖を囲む森の更に外周、見渡す限りの広大な農地だった。


 社会の教科書で見るアメリカの大規模農場みたいな広さをしてやがる……。



「ひ、広くないですか? 俺のご先祖、この広さの農園を管理してたんですかね?」


「いえいえ、流石に限界がありますから。種蒔きや水やりは天使に任せていたそうですよ」


「天使、ですか?」


「はい。あ、ちょうどあそこにいますね」



 エルテンシア様が指差した先には、光沢のある金属と思わしき物質でできた人型の何かが鎮座していた。



「あれが、天使……?」


「はい。蒔いた種に異常があったら知らせたり、育ったスキルを収穫するのです」



 天使……。


 俺にはどう見ても近未来映画に出てきそうな人型ロボットにしか見えないのだが。


 もっとこう、表情がクールだけど俺にだけはデレてくれる美少女を期待していたのだが。

 世の中ってのはどうしてこうも期待を裏切ってくるのか。


 というか全く動かないな、あの天使。


 そう思って天使に近づいてみると、何とビックリ。

 天使はまるで巨大なハンマーで殴られたかのように無惨に破壊されていた。



「うわ、酷いですね。誰がこんなことを?」


「……」


「……エルテンシア様? なんでこっち見ないんですか?」


「い、いえ、その、ちょっとした出来心と言いますか、わざとではなくて」


「へぇー」


「ほ、ほら!! スキルは人々の魔物に対抗する手段でもありますが、信仰を集めて私たちを強くする手段でもありまして!! 信者を増やすためには強力なスキルが必要だったのです!! それでこっそり農園の隅っこで育ててたスキルを収穫しようとしたら警備用天使に見つかって、抵抗したら壊してしまって……はい、私がやりました」



 最初の説明の時に言ってた農園を壊した『ある神』ってエルテンシア様のことかよ。


 流石に引くわー。


 自分の尻拭いを俺にさせようってわけか。凄い図太くない?



「……」


「し、知らなかったんです!! まさか私の破壊した天使が他の天使に指示をしている上位天使だとは!!」



 つまり犯人はエルテンシア様と。



「壊しちゃったなら直せないんですか? それか新しく作るとか」


「創造神様の造り出した存在ですから、天使を直すことも作ることももうできないのです」


「……そんな代えの利かない大事なものを……」


「は、反省はしてますから!!」



 まあ、スキル農園をやらされると言っても所詮は部外者の俺にとやかく言う資格はない。


 断ったら消されそうだし、俺に拒否権はそもそもないのだ。



「ということは、俺一人でこの広さの農園を……」


「い、いえいえ!! 流石にいきなりこの広さを管理しろとは言いませんよ!! 最初は小さな範囲からで構わないので、慣れてきたら拡大してください」


「……まあ、頑張ります」


「はい!! 頑張ってください!! 私も可能な限りは応援しますから!!」



 絶対に大変だろうなあ。

 

 まあ、ユーチ◯ーブで暇な時に農家さんの動画とか見てたし、何となると思いたい。


 ……流石に本物の農家さんに失礼か。



「あの、じゃあ分からないことだらけなんで色々と手伝ってくれるとありがたいんですが」


「はい!! あ、でも、えっと。そのぉ、直接お手伝いするのはちょっと……あ、ち、ちちち違うんですよ!? ちゃんと理由がありますから!!」



 そう言ってエルテンシア様は大きなおっぱいの谷間から幾つかの粒を取り出した。


 お、おう、そこから取り出すのか。


 アニメや漫画に出てくるお色気枠の女性キャラしかやらないものと思っていた。


 っと、雑念は一度横に置いておこう。



「これはスキルの種と言って、これに魔力を込めて土に植えるとスキルを宿した果実が実るのです。しかし、私が魔力を込めると……」



 一瞬、エルテンシア様が手に持ったスキルの種が眩く光った。


 今のは魔力を込めたのだろうか。


 というかスキルの種って安直だな。ド◯クエでしか聞いたことないぞ。



「これを土に植え、水を与えてしばらく待つと実が育ちます。実が育つまで通常は一週間から半年はかかりますが、今回は私の権能で時間を早めますね」



 さらっと凄いことを言ったエルテンシア様。


 エルテンシア様って時間を操れちゃう系の神様だったのか。凄い。


 と、感心してる間にスキルの種を植えた場所から小さな芽が生え、みるみるうちに大きく育っていく。


 成長したスキルの種は、大きな木になった。


 そして、たった一つだけ虹色に輝く果実を実らせ、それが熟して地に落ちると木は枯れてしまう。


 落ちてきた虹色の果実をエルテンシア様が拾う。



「これを鑑定してみてください」


「鑑定?」


「あ、すみません!! またうっかり説明し忘れていました!! 竜季さんにはどういうスキルかを調べるために〈神の眼〉というスキルを限定的にお貸ししているのです。スキルの実を見て強く念じてみてください」


「きゅ、急にそう言われてもな……。んむむむ、ぬぅー!! ふん!!」



 俺は目をカッと見開いて、便器に座ってうんこをする時みたいにお腹の下の方に力を込めてみた。


 そうしたら、何か見える見える。






◇神級スキル〈惑星崩壊〉を宿した果実


◇ランク 10+


◇効果 惑星を破壊するスキル。時空の女神エルテンシアの祝福を受けた力。相手は死ぬ。ついでに自らの住まう星も死ぬ。







 凄いけどクソスキルだわ、これ。



「なんでこんなスキルに……って、あー。分かりました。エルテンシア様が魔力を込めたからですか」


「その通り。神の魔力が込められたスキルは、世界のバランスを壊しかねません。スキルの種に触れるだけならともかく、成長段階にある芽や木の葉に私が触れてしまったら魔力を勝手に吸い取ってしまうので……」


「直接的に手伝うことはできない、と」



 だから今まで天使に任せてたわけで、その天使が壊れてしまったことも俺をここに招いた理由にも繋がるのね。


 ん? ということはエルテンシア様がこっそり育ててたスキルって……。



「エルテンシア様。参考までに、信者に与えようとして天使が収穫を妨害してきたスキルってどういうのだったんです?」


「……てへっ★」


「あ、もういいです。聞くの怖いんで。あとそれ絶対にバランスブレイカーなスキルなのでやめた方がいいと思います」


「さ、流石にそこまではしないですよ!? たしかに強力なスキルの方が信者ウケがいいので多少は強くなるように育てましたが、普通のより少し強いくらいです!!」



 本当だろうか。


 俺はエルテンシア様が色々とやらかしていそうでとても怖い。



「そ、そういうわけですので、種はありったけお渡ししておくので好きなようにスキルを作ってください!! 人手が足りない件はそのうちどうにかしますので!! では!!」



 そう言って逃げるように不思議パワーで飛び去るエルテンシア様。


 ……さて、どしたものか。


 文句を言ってもどうしようもないし、気ままにスキルを育てようかな。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「思ったよりやらかしてんな、この女神」


山村「でもおっぱいデカイと許しちゃう」



「惑星崩壊……相手は死ぬ」「大体エルテンシアが悪い」「主人公正直でよろしい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る