やらかし女神様と始めるスキル農園。~収穫したスキルは新鮮なままお送りします~

ナガワ ヒイロ

第1話 まぼろしの百姓『ヨイチ』の子孫、山村





「おい、タツキ。ランク5以上のスキルはあたしに寄越す約束だろ?」


「ヤマムラ、他の女神なんて無視して私にスキルを譲ってください。譲ってくれたら、沢山イイコトして差し上げます」


「二人ともやめないか!! スキルは平等に分配する予定だろう!!」



 右を見ても美女、左を見ても美女……。


 しかも全員おっぱいが大きくて長身で大変眼福な光景ではある。


 でも、素直に喜べない。


 というのも彼女たちの目的は俺ではなく、俺がスキル農園で作ったスキルだから。

 俺はふと神域ここに来る前の出来事を思い出すのであった。












「――です、目覚めるのです。山村やまむら竜季たつきよ」


「……」



 俺は耳元で囁きかけてくる知らない女性の声を無視していた。


 俺の名前は山村竜季。


 社会経験皆無のしがないニートであり、金持ちだった親の遺産で生涯を食い繋ごうと決めた生粋のダメ人間。


 面倒事は極力避け、可能な限り楽な人生を歩むようにしていた男。


 では今、この状況は何なのか。


 目を開いたらすぐ答えが分かる気がするが、それをしてしまうと後戻りできないとヒキニートの直感が語っている。 



「――さあ、そろそろ目覚めるのです。もう小一時間ほどこうしています。早く目覚めるのです」


「……」



 そもそもここはどこなのか。


 俺は散歩がてらコンビニまで夜食を買いに行く途中で居眠り運転の車に轢かれてしまったはず。


 その後、大型バイクにも轢かれて……。


 最後にはクレーン車のタイヤに巻き込まれてぐちゃぐちゃになったはずだ。


 なまじゴキブリ並みの生命力を持つニートの俺でも流石にその状態で意識があったことには疑問を抱いていた。


 分かってることは、俺は確かに死に、神様っぽい誰かがずっと話しかけてきてることのみ。


 どうして神様っぽいと思うのかって?


 なんかね、光ってんのよ。瞼を閉じていても分かる感じ。

 太陽の方を見ながら目を閉じると、白っぽいような赤っぽいような色になるアレ。


 思わずまた眠りたくなるような心地よさもあるし、いっそもうこのまま謎の声を無視して眠ってしまおうか。


 そう思った矢先の出来事。



「いい加減に起きるのです……あのー、そろそろ起きてくれないとキレますよ? 私、キレると泣きながら暴れるので厄介ですよ?」


「……」


「ちょっと!! 本当に起きてくださいって!! 起き、起きて、おい、起きろコラ!!」


「へぶっ!?」



 無防備な腹に肘鉄が突き刺さり、俺は悶絶してうずくまった。



「やっと起きましたね」


「あの、せめて揺するとか、そういう段階を経てから暴力を振るう選択をしてくれませんかね?」


「あら、私は何もしてませんよ? 貴方が急に悶え始めたんです」



 こ、この女!! 俺が目を閉じていたのをいいことに暴力はなかったことにしようとしている!!


 いやまあ、無視し続けた俺が原因だけど。



「……あの、ところでここは?」



 目を開いてしまった以上、もう後戻りすることはできない。


 周囲を見渡すと、そこは真っ白な空間だった。


 学生時代からライトノベルやネット小説サイトを読み漁っていた俺は知っている。


 ここ、不慮の事故で死んじゃった人が神様からチート能力をもらう空間だ。俺は詳しいから間違いない。


 そして、目の前の人物こそ神様だろう。


 後光が差してるし、人類では有り得んくらいの超絶美女でスタイルも抜群だし。


 つーかおっぱいデカすぎだろ。


 あと腰も細すぎる。

 太ももムチムチでそれら全てを強調するような衣が叡知すぎだ。眼福眼福。


 金髪碧眼の王道美女って感じも最高だと思う。




「ふっ、ついに俺も異世界デビューですか」


「え? あ、違います」


「違いますか。……それが間違いである可能性はあったり?」


「ないです。別に貴方を異世界転生させようと思ってここにお呼びしたわけではないです」


「あ、ハイ」



 俺は心の中で舌打ちする。


 ちぇー、俺もチート能力を貰って異世界無双しながら美少女ハーレム作りたかったなー。


 チラッ。チラチラッ。



「そんな目で見ても違うもんは違います。本題に入りますね」


「……はい」



 とりつく島もないらしい。



「私は第八世界の十二神柱の一角、女神エルテンシアと申します。エルちゃんで結構ですよ」


「エルちゃん様はどういうご用件で俺をここに?」


「……自分で言っておいてなんですけど、やっぱりエルちゃんはナシでお願いします。威厳が無くなりそうなので」


「了解です、エルテンシア様」



 俺がそう言うと、エルテンシア様がくすくすと笑う。


 めちゃくちゃ可愛いな、おい。



「エルテンシアでいいですよ」


「え、さっき威厳気にしたばっかりなのに?」


「堅苦しいのは苦手なのです」


「……遠慮しておきます。死んだ親父の遺言が『目上の人にはとにかく媚び売っとけ』なので」


「そ、そうですか」



 死んだ俺の親父は胡麻すりだけで大企業の専務にまで成り上がった胡麻すりの天才だからな。

 何もしないで稼いだ金で食う飯は美味い、が口癖の親父だった。


 うむ、働いてるだけのニートの俺よりは偉いが、立派なクズである。



「村山竜季さん、貴方にはお願いがあってお呼びしました」


「ほほう? それはあれですか? やっぱり異世界の危機的なものを救ってほしい、みたいな――」


「いえ、違います。さっきも言ったじゃないですか」


「……夢くらい見させてくれてもいいじゃないですか」



 余計な口を挟むのはここまでにして、俺はエルテンシア様からお願いの内容を聞く。



「実は、スキル農園を作ってほしいのです」


「……ふむ、なるほど。……え、スキル農園? スキルってラノベの主人公が異世界転生する時にもらうスキル?」


「はい、そのスキルの農園です。うちはスキルが畑で採れるんです」


「斬新な設定でびっくりしてます」



 どんな畑だよ。


 え、もしかしてスキルが土の中に埋まってたりするのかな? というかスキルって固形なのか?


 めっちゃ気になるわ。



「そのスキル農園が先日、ある神の悪戯によって消滅してしまいまして」


「わお」


「今のところは貯蓄しておいたスキルを配っているので問題はないのですが……」


「スキル農園を作り直さないとスキルが補充できない、と」


「はい。このままでは第八世界、私たちの治める世界の人々にスキルを授けることができなくなってしまうのです」



 更に話を進めると、その第八世界には魔物が生息しているらしい。


 スキルは人類が魔物へ対抗できるようエルテンシア様を始めとした十二柱の神々が授けているものだとか。



「で、なんで俺なんです? 神様たちだけじゃ直せないんですか?」


「それがスキル農園はお母様――あ、第八世界の創造神様が第一世界『地球』のさる御方とお造りになったものでして」


「地球の、さる御方?」


「はい!! まぼろしの百姓『ヨイチ』様です!! かの御方と創造神様はお二人でスキル農園を作り上げたのです!!」



 うわー、急に日本人っぽい名前が出てきたな。



「で、そのヨイチ……与一? さんと俺に何の関係が?」


「ふっふっふっ、驚かないでくださいね。貴方こそまぼろしの百姓『ヨイチ』様の末裔!! スキル農園を作り得る存在なのです!!」



 え、どうしよう? 全然ピンと来ない。


 まだ現状を飲み込めていないだけなのか、それともシンプルに飲み込めない内容からか。


 困ったことになったぞ。


 しかし、こちとら二十数年ずっと働かないでいるニート!!

 今さら働けと言われて頷くようならニートなどやっていない!!


 俺はノーと言える日本人!!



「丁重にお断りします」


「そうですか……残念です。地球の神様にバレると厄介ですし、口封じを――」


「なーんて言うわけないじゃないっすか、へっへっへっ。俺みたいなクソカスゴミニートがエルテンシア様みたいな超ド級美女のお役に立てるなら本望でさあ!!」


「んもう、褒めても何も出ないですよ?」



 アカン。アカンわ。


 断ろうとした瞬間にエルテンシア様の目から光がなくなった。


 断ったらガチで消されてたな。


 ていうか言動から察するに地球にも神様がいて、更にはその神様に無許可で俺をここに連れてきたのだろうか。


 やべーやっちゃでホンマ。



「ありがとうございます!! では早速、スキル農園へご案内しますね!!」



 ……でもまあ。


 冷静に考えたらこの超ドえろい女神様と頻繁に顔を合わせるわけだよな。


 歩くだけで激しく揺れるおっぱい……。


 うむ、そうだな!! これは断らない方が色々と正解だよな!!


 俺は細かいことは気にしないことにした。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「書いてて面白かった。人気出ろ」



「ヨイチ誰やねん」「面白そう」「続きが気になる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る