第12話 忘れえぬ風景

は 大なり小なり「忘れえぬ風景」を持っているでしょう。自分も「忘れえぬ風景」を持っております。


幼い頃懐かしい光景や楽しさのヒトコマではなく、ある意味 何処にでも有る 日本の原風景ですが、言い知れぬ怖さが感じられた時間でした。


只見線を知っていますか。小出から会津を結んだ鉄道で、最近では渓谷を結んだ鉄橋を走る列車の風景が 話題になりました。しかし、昔は 無名で、昼間は田子倉ダムに遊びに行く車がちらほら程度でした。ちなみにR252が只見線に沿う様に走ってます。


今から40年前になります。8月15日に田子倉ダムを越えて会津まで、一人でドライブした時のはなしになります。


会津を出た時点で18時を廻っており、途中渋滞に巻き込まれ、只見川渓谷の入り口に入ったのは、19時を過ぎており 周りは暗く その上、白い川もやが 溢れて壁となり、視界を狭めるかたちとなっていました。道路は、小さな電柱の電灯のみが灯り、ヘッドライトが唯一の頼りで走らせていました。


暗い闇と漂うもやの中で、遠くに か細い火の小さな群れが見えてきました。村の外れに入ったのが分かりました。小さな火は、村外れの地蔵に灯したローソク。炎は風でゆらゆらと揺れ、カラカラと小さな風車が回る。ちょうちんの中で炎が揺れている。懐かしい様な風景だが、暗闇の中では、言い知れぬ恐怖だけが心に溢れてくる。


村の中は ほのかな電灯が灯っているが、村をでると闇の中、しばらく走ると次の村でローソクと風車の音が出迎えてくれる。怖さで参ってしまった頃、田子倉ダム入り口に着いた。20時を回っていた。これからはダム湖の山ひだを走る事が憂うつと思っていたが、幸いにも同じく躊躇していたライダーがいて、何となく共に走って行きました。


山を越えて 入広瀬の光を見て、ほっとしました。


自分の「忘れえぬ風景」は、只見の村々の闇に浮かぶ、地蔵は灯した灯りとなります。旧盆の日だからかも知れませんが、二度とあの中を走りたくは有りません。


ちなみに、司馬遼太郎先生「峠」の主人公、河井継之助の墓が只見町に有ります。

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