さあ、頂へ
「女のくせに」
そんな風に言われるのは、不愉快だわ。わたし、男の子にだって負けないくらい、速く走れるのよ。
格が高いとか、伝統だとか、そんなの関係ある?一番早くゴールしたもの勝ち。全部そうでしょう。
わたしが出るくらいで格が下がるなら、下がるだけ下がったほうがいいんじゃない?だってないのと同じだわ。
でも、そう言われるのはわたしだけじゃないのね。
私のお世話をしてくれるヨーコちゃん。相棒のさくらちゃん。ほかの女の子たち。
みんな、そう。女のくせにって、言われる。変よね、一生懸命頑張るのに、男も女もないわ。
そういうの、気にしてたら結果も着いてこないわよね。だから、わたしは走るだけ。
時間が近づいてきた。先生とヨーコちゃんが、心配そうにわたしを見る。平気よ、と首を振って返事をした。
そしたら、さくらちゃんが、わたしの首を撫でてきた。がんばろうね、と声をかけてくれる。そうだ、わたしはひとりじゃない。さくらちゃんと一緒に走る。さくらちゃんと一緒に、頂点を目指すの。
ゲートが開いた。わたし、この音嫌いなのよね。でも仕方ない。最初はゆっくり、前を走る子をマークするように見る。経は長ーい距離を走らないといけないから、温存しなきゃ。
チャンピオンの椅子は一つだけ。勝負の世界じゃ、甘えたことなんか言っちゃダメ。勝ちたい、ただそれだけ。女の子のままごとなんて言わせない。わたしはいつだって本気よ。
先生やヨーコちゃんにつけてもらったリボンも、もふもふの飾りも、バンテージもはねた泥で汚れちゃった。でもそんなの気にしない。
さくらちゃんの手が軽く動いた。ここからゆっくりスパートね。わかった。ここ、下り坂だから、スピードがついてちょっと楽しいかも!
カーブを曲がったときには、前には誰もいなかった。でも後ろからついてくる。突き放さなきゃ!
さあ、もうゴールまで後少し。一直線に、ここを誰よりも速く駆け抜ける。バチン、と身体に痛みが走る。痛い、でも、これは合図よ。ゴールまで、全力で走れ。分かったわ、さくらちゃん。
結構突き放したつもりだけど、どうかしら。もうわたし私は前しか見ていないの。
地面を蹴り上げて、前へ、前へ。もう少し!その先は、どんな景色かしら……。
「先頭はステラフェアリー、スカイライナーが追い上げて、さらに外レコードホルダーも追い込んでくる!しかし差はつまらない、以前ステラフェアリーが先頭、スカイライナーとレコードホルダーが併せ馬で迫ってきますが、先頭は、ステラフェアリーだ、ステラフェアリー一馬身リード、ステラフェアリーゴールイン!六十八年ぶり、牝馬による春の天皇賞制覇です!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます