第5話 学級委員長と親友
「おはよう、久しぶりだからびっくりしちゃった」
「そ、そうなんだ」
話しかけてきたのは、美しい黒髮を肩まで伸ばしたザ・正統派美少女。ほのかによると去年も俺と同じクラスだった人物で、学級委員長をしているらしい。
「それにしても今日は早いのね」
「妹といっしょに来たから」
「あぁ、妹ちゃん。久しぶりで負担も大きいだろうし、無理しないでね」
「ありがとう」
「いーえ。さてと、私は日直の仕事やらなくちゃ」
黒板の右端に書かれた日直の欄には、西小路智恵の文字。
いかつい名前だけど、本人も名前負けしない品のある女性だ。
「そうそう、嶺脇くんの席は一番後ろの端だよ」
西小路が指差す先は、窓際の席。
一部では主人公席なんて呼ばれたりもするポジション。
席についてすることもなく机に突っ伏していると、外から少年たちの声が聞こえてきた。
「いーっち、にー、さん、しー」
「にー、にー、さんっ、しー」
声のするほうを見れば、校庭でどこかの部が円形になって体操をしていた。格好からしてサッカー部かな。
あと15分で始業だから、たぶんクーリングダウンなんだろう。
(朝っぱらからたいへんだなぁ)
でも、なんだかあの子たちが眩しく見えるのは気のせいなのか。
(ダメだ、ついつい思考が暗くなる)
そんな考えすら断ち切るように、俺はまた机に突っ伏した。
――――――――――――
「おい、一緒に帰ろうぜ!」
「ん?」
授業やらなんやらが全て終わって帰り支度をしていれば、成田が声をかけてきた。
「お前んちまで送るからよ、良いだろ?」
「う、うん」
それは別に構わないけど、だったらほのかに連絡しておこう。
生憎家がどこだったかも忘れてしまったので、帰りも一緒に帰ってくれるはずだったから。
「っておい、スマホ買ったのか!?」
「え?」
「ほら、お前ずっと携帯持ってなかったじゃん!」
「そう……なのか?」
「あぁ、そっか覚えてねぇんだもんな」
今どき携帯持ってない高校生なんているんだな、とか思いながらほのかにメッセージを送っておいた。
「お前携帯持ってねぇくせにマネさんの話聞いてないからすげぇ怒らせてたじゃねぇか」
「なんだよそれ」
「大事な書類も何も出さないで、マネージャーさん大変だったんだぞ」
「へ、へぇ……」
前の俺を聞くたびに、俺のろくでもない人間性が明らかになっている気がする。
嶺脇悠という人物に少し恐怖を感じながら、俺たちは学校を後にした。
「ところでよ、悠」
二人して自転車を押していれば、成田がふと思い出したように口を開いた。
「なに?」
「お前、あれはできたのかよ」
「あれって?」
「……ほら、あれだよあれ……」
「あれじゃ分からないよ」
「んんもう、お前言ってたじゃん!全国とったら好きな子に告白するって」
またその話か。
あんな分かりづらいところに置いてあったから、てっきり誰にも話していないと思っていたけど成田には聞かせていたらしい。
いや、それだけ成田とは親しかったということか。実際今も、変わってしまった俺と仲良くしてくれてるし。
「まあその様子だと、まだみたいだな」
「……ないんだ」
「ん?なんか言ったか?」
「分からないんだ。誰に恋していたのか」
「……そうか」
俺の言葉を聞いて、成田はひどくきまり悪そうに呟いた。
「ごめんな、こんな話して」
「別に成田は悪くないよ」
「…………正直な、俺や学校のことは忘れてもそれだけは、それだけはって……」
「うん、分かってる」
「はぁ、朝にも同じ下りやったばっかなのにな」
たぶん、俺と成田は親友だったんだろう。
親友が何もかも忘れてショックにならないはずはない。それでも変わらず関わってくれる成田は、とっても優しいやつなんだ。
「はぁ……その女の子が可愛そうでならねぇな」
「ん?成田も知らないのか?」
「知らねぇよ!あんだけ聞いたのに全く教えてくれなかったんだから!」
「そうか……」
親友にも話さないとは案外口の固いやつだったらしい。
「まぁ先生もいずれ記憶は戻るって言ってたし、そのうち思い出すよ」
「そうか、だったら早く戻るといいな」
その後も色々前の俺の話や学校のこと、部活のことなど色んなことを成田から聞きながら、その日は家まで送ってもらった。
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