第4話 県立明美ヶ原高校

「悠くん、こっちだよ」


 少し錆びた校門を抜けて学校へ入ると、そこにはとってもありきたりな高校があった。


「悠くんは2年生だから、あっちの駐輪場ね」

「お、わかった」


 駐輪場にチャリを停めていると、けっこう周りからの視線を感じる。

 あれだけ賞状やらトロフィーやらを取ってくる生徒なわけだから、高校内でも有名人だったみたいだ。

 


「じゃ、わたしは上の階だから。困ったことがあったらすぐに呼んでね」

「うん、ありがとな」


 2人で校内の階段を3階まで上がれば、そのまま廊下で別れる。

 ほのかに教えてもらった情報によれば、俺のクラスは2年8組。

 その文字が記された札を掲げられた教室まで歩き、建付けの悪いドアを開けるや否や。


「嶺脇〜!!」

「ぶ!?」


 誰かに首をとっ捕まえられた。


「久しぶり!元気してた?」


 制服を着崩して気さくに話しかけるその姿は、陽キャそのもの。だとすれば、これはおそらく俺が以前親しかった成田という人物だろう。

 これもほのか情報。ありがたや。


「本当に無事で良かったぜ。全く心配させやがってよぉ」

「あぁ、ごめんな」

「お前の乗ったタクシーが事故ったって聞いたときは本当にビビったぞ。おまけに3ヶ月も目を覚まさないと来たらなぁ」

「そ、そうか、ごめんな」


 まさかそんな事があったとは。俺としては起きたら全部忘れてたってだけだから、余計にびっくりだ。

 意識が戻らないまま3ヶ月はそりゃあ心配するわな。


「お前、これからどうすんだ?部活戻るのか?」

「いや、しばらくは安静にと先生から言われてる」

「そうか、お大事にな」

「うん、ありがとう」


 嶺脇家の時も思ったけど、周りに良い人が多い。どうしても少し不安だったけど大丈夫そうだ。


「それにしても……悠」

「うん?」

「お前、本当に全部忘れちゃったんだな」

「え?」

「前はそんなハキハキ喋るやつじゃなかっただろ」

「そうか?」

「ごめんな、ちょっとカマかけたんだ。お前が記憶喪失だってのが信じられなくて」

「ううん、いいよ」

「うん……ありがとな。ま、俺はいくらでも待つからゆっくり思い出せよな。あと、困ったら妹だけじゃなく俺にも頼るんだぜ?」

「わかった、ありがとう」

「良いってことよ」


 背中越しに手をヒラヒラさせながら、成田は廊下に去っていってしまった。

 

 するとそこに、入れ違いでやって来た女子が1人。

「あれ、嶺脇くん?久しぶり!」


 黒髪ロングの正統派美女が、そこには立っていた。

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