第5話喪女、競売にかけられる



 目を覚ました朱璃は、はっと身を起こす。

 視界が暗闇なのは変わらなかったが、匂いがあの場所とは全く違うことに気づいた。

 匂いだけじゃない、空気の湿度が薄く、空気の乾燥具合から明らかにあの監禁されていたら場所ではないと分かる。あそこはかび臭いだけじゃなく、湿度も高かった。


 そういえば、あの子は?!あの子はどこ?


 手探りで彼を探すも、彼の身体が触れる様子もなく、彼の息遣いも聞こえない。 

 早くここを出ようと、床に手をつくと非常に柔らかった。

 なんだろう、この感触…………………、ベットだ!久しぶりすぎて、わからなかった。


 恐る恐るベットから足を下ろし、足を左右に動かし、近くの床に何も無いことを確認しながら歩き始める。手を前方に出し、前方との距離を掴むためゆっくり歩く。今のところ何も触れない……。

 カチャ

 何かが手に触れた。

 材質的に木製?あと、この突起物は取っ手?

 右へ回してみるが、変化なし。左へと回すも同様。

 カチャカチャ鳴らしたり、押戸か引き戸試してみるが動く様子はなかった。

 その後も時間をかけて、部屋中の隅から隅まで確認し出口がないか探すもそれらしきものは見つけられなかった。

「ドアがダメなら、このガラス割るしかないか」

 ドアらしきものは見つけられなかったが、一箇所だけガラス素材の壁を見つけることが出来た。

 このガラスを割り部屋から出よう。何か鋭利な武器とかないかな。



 ガチャッ

 ドアが開く音が背後から聞こえた。

 

「えっ」 

 

「……キンダ、カフィルカ」

聞いた事も無い男の声だった。あの子とも違う。重低音でどこか官能的な響きがあり、聞く者の心を掴む魅惑的なものだった。

思わず、聴き入ってしまう。 

男は朱璃にゆったりした足取りで近づくと、彼女の頤を指先で優しく触れ、目線を合わせるように上に持ち上げる。男の息を顔近くに感じた。その息の仕方さえ、どこか人間味がなく魅力的で何故か恐ろしさを感じた。

 ……あと、この匂いどこかで……。

 

「…………ィサク」

「え?」


 男は指先をパチンと鳴らすと、女の召使いが数分も経たずに現れる。


「ィサク……エラア」

「スエィ、エル」

「……え?痛っ、ちょっと待って!やめて!」


 召使いは朱璃を丁寧に且つ有無を言わせない手つきである場所へ連れて行った。



 ――――――――――――――――――――――

  

 朱璃は召使いに連れられた後、石鹸のいい匂いがする湯船に無理やり入れられ、数人がかりで数回に分けて洗われた。湯船から上がりタオルで身を拭かれた後、絹の素材のワンピースを着せられ、髪もセットされ身綺麗にされた。


 その時点で気づく、あの男に売られたのだと。

 それがどんな目的なのか、身綺麗にされていることから容易に想像がつく。

 

 貞操の危機だっ!

 喪女の私にそんな経験なんかない。できるわけがない!あの男に会う前に、今すぐ逃げなきゃ!


 朱璃は召使いたちが自分から離れたのを見計らいながら、声のしない方へ走り去る。

 そのつもりだった。しかし、数人もいる部屋の中でドアの方向もわからない朱璃が逃げるには容易ではなく、簡単に捕まり手枷と足枷をつけられてしまった。まるであの監禁場所と同じ扱いだ。

 身体を綺麗に洗ってもらい、綺麗な服を着せられらたから……勘違いしてしまった。そりゃ、そうだよね。今度は一体何処に連れて行かれるんだろう。

 朱璃は檻から解放され空を飛んでいけると思っていたところ、一瞬のうち地面に叩き落とされた鳥のような心象を受け、呆然と召使いに枷に繋がる鎖で引っ張られながら歩いた。


 連れ行かれた先はあの男の元へではなかった。そこは騒がしく、熱狂的な声が飛び交う場所だった。

 朱璃は召使いに引っ張られ、ある場所に立たされる。

 それと共に、何処から高らかに発する声がする。まるで司会者のような語り口調。この人は一体なにを話しているのだろう。

 その司会者の発言の後、感嘆と驚嘆の声がなり、短い言葉が乱烈で飛び交う。

「105万エル」

「150万エル」

「3000万エル」

「1億エル!」

「3億エル!!」


 この感じ、日本のテレビで見たことあるかも、マグロの競売ってこんな感じだったよね。

 ……競売?監禁から今度は誰に売られるの?!あの男はなんだったの?あの男に売られたんじゃないの?


「10億」

 この市場の最高値が出る。その高値に誰もが驚嘆の声を上げた。王城を二つも購入できる金額だ。そんな金額を出せる者など限られている。皆がその者に注目した。その瞬間、爆発音と共に白煙が辺りを覆う。


 急に辺りが狂乱のような騒ぎになり、朱璃はわけがわからず慌てた。

 どういうこと?何が起きたの?


 ドサッ


 召使いがいた右方向から音がした。倒れたかのように重い音だった。

「え?」

 その瞬間、耳元で声がした。

「シィザンガ」

 彼だ。

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