人には抗えぬ力、二人の武者を鎮める
もはや隠れる必要などなかった。
「誰――」
誰が武器を向けようとも無意味。
「ち、力が」
月の姫の前には、雑兵など何の抵抗さえも許されない。
「下がれ! わらわは月の国の姫じゃぞ!」
かぐや姫の力。それは人から戦意を奪うというもの。
如何に屈強な男であろうとも彼女の前では赤子同然。
「王はどこじゃ? 答えろ」
「し、寝室で寝ているかと」
「ありがとう」
男達は跪いたまま動くこともできず、かぐや姫が王のもとに向かうのを見ていることしかできない。
(
◇
かぐや姫が
「香、お前だけは!」
俊信が、宝刀『
「俊信、てめえだけは俺様の手で引導を渡してやる!」
対する香は、霊剣『
周りには誰もいない。満月の夜空が広がる中、二人の騎馬武者は刀剣を振るい続ける。
乾いた寒空に、玉鋼の打ち合う音が木霊する。
空気中に、刀剣の
砂地には二人の汗が染み込み、馬の
月明りが騎馬武者の影をつくり、それは時の経過とともに角度を変えていく。
削れる刀身と削れぬ闘志。
消えぬ復讐心と癒えぬ喪失感。
友であり敵。敵であり友。
だから、互いに容赦できない。
互いを良く知る仲だからこそ、相手を許すことはできない。
「うぉっ!」
「くそったれ!」
若武者の馬がほぼ同時に乗り手を振り落とす。対面する敵の乗り手の覇気が、二頭から平常心を奪ったものか。
「まだだ!」
「俺様だって、まだ!」
だがしかし、そのような事故程度で二人の武者から闘魂を奪うことはできない。俊信と香は徒歩での戦闘に突入する。
それは果てしなく続くかと思われた。
俊信は、一度は折れた『
香は、一度は「裏切られた」と思った相手の千古の顔を思い浮かべながら、俊信に挑んでいた。その手に握る『
バギンッ!
やがて、双方の刀剣が所有者の戦意よりも先に折れる。すると、今度は互いに脇差を手に戦闘を継続する。それも長くは続かずに互いの脇差が同時に折れる。
その後、両者が展開したのは取っ組み合いだった。胸ぐらを掴み、肩を押し、張り手の応酬を繰り広げる。
「お前……」
「俊信……」
誰かが停戦の
「うおっ!」
「め、目が見えねえ!」
二人の戦いを終わらせたもの。それは人である彼らが決して抗えない力。
「力が……」
「抜けていく……だと?」
人の肉体を借りた月の姫が発する戦意喪失の力だった。
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