八島国の軍団、苦境に陥る
さて、桜子が
はっきり言って軍団は危機的状況にあった。理由は二つ。
一つは、軍全体に
浜辺での
だが、その内にこもって休息を取っていた兵士達を不幸が襲った。疫病が広まったのだ。陣地内で死ぬ者が後を絶たなくなり、しかも総大将の俊信も感染したことで軍全体の士気が大幅に低下してしまった。
なお、彼の補佐を命じられていた護国大将軍
隆資が単身で敵の城に乗り込んでいったことは既に述べた。だが、彼がそうした理由についてはまだ明らかにしていない。
その理由は、『土蜘蛛』の王
自分の娘「かもしれない」女が敵に捕らわれていると思うと居ても立っても居られず、隆資は秘密裡に敵方の使者と交渉し、王城に案内するよう促したのだ。
その結果、起こったのは庫持不死男による捕縛、そして千古と同じ牢への投獄だった。つまるところ、隆資は個人的な事情で敵地に乗り込み、
ただ、この時の彼に行動について真っ向から非難するのも野暮というものだろう。
実の娘、それも「都に災いをもたらした」可能性のある女を放置できるだろうか。
父親として看過できるような話とは言い難い。
それも「特徴的な身体的特徴」を持つ女だ。可能性はほぼ確信に近かった。
隆資の行動が褒められたものでないことは確かだが、それはあくまで「軍を率いる将としては問題」といった話になろう。
彼のその後はしかるべき時に述べることとし、今は俊信率いる八島の軍を襲った不運の話に戻ろう。
八島の軍団に広がる疫病は兵士達を大いに苦しめたが、それを解決に導いてくれたのは『土蜘蛛』に支配されていた村落の住民だった。
『おそらく病を振りまく
これで疫病の一件は落着した。ただし、茅の輪ができあがるまでに命を落とした者は相当数にのぼったのは間違いなかった。
もう一つの理由は、『土蜘蛛』軍の夜襲。
疫病による被害から立ち直っていない八島の軍の陣地に、突如火の手が上がった。
「敵襲だ!」
陣地は瞬時に火に包まれた。不意を突かれたうえ、寝ぼけ眼の人々が近くに置かれた武器を取り、迫る敵に対処しようと試みるも相手になるはずもなく……。
「おいおい、俺様が知ってる八島人はこんなに弱かったのか! ああん?」
そして、そんな彼らを襲った敵軍の指揮官はなんと
ちなみに、彼と同じようなことをしていた人物がもう一人いた。それは青龍帝の妹にして神に仕える斎宮の
帝が、兄を苦しめられるのなら、私はなんだってする。
たとえそれが異国の神に手を貸し、人道に反するものでも!
……あと、香様の関心を引けるなら何だってやるわ。
だって、あの方は千古とかいう卑しい女ばかり見てるんだもの!
ああ、腹が立つ!!
とまあ……本人にとっては筋の通った理屈で詠子は異国の神を呼び起こし、八島人を苦しめることとした。その結果が、香指揮の軍の襲撃より前に発生した疫病の流行。
つまり、村落の住民が話していた『病をもたらす
祖国では神に仕える身でありながら肉欲を満たす禁忌を犯していた詠子が、異国の神、それも疫病の神を呼び出して自国民に災いをもたらすというのは、もはや彼女が疫病神そのもの……と思うのは早計だろうか。
ともかく、詠子が祖国の民に大きな損害をもたらしたのは間違いなかった。
また、そんな彼女の援護を受けた香が、自国民に剣を振るっているのも疑いようのない事実だった。
「どうした? 俺様の相手になる奴はいねえのか! ったくよ、王様から受け取った剣の
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