第二章 都の動揺、そして現れる新たな「かぐや姫」
魔性の女、またの名を……
時は
台風が都の東を通り過ぎ、東に流れる
都の右京区八条大路沿いの寺で宴が催され、壇上で一人の男、いや、男装した女が躍っていた。
頭には黒の
上半身には白の
腰から紐で吊るしているのは、白塗りの
そして、紅の
そんな風貌の女が夜半に男どもに見られながら舞いを披露する。怪しげな光景としか思えない。
「千古様!」
「私たちをお救いくだされ」
「あなただけが希望です」
舞いが終わると男たちがこぞって千古という名の一六歳の少女の前に
「お主ら。都のお偉い方々は
わらわこそが本物の『かぐや姫』じゃ!
真実を見通せる眼を会得したお主ら――安寧寺の僧なら見間違えるわけがなかろうな?」
ここまで言って、千古は背中にかけた白い布――その中心部に黒ずんだ血痕らしきものがあるそれを見せるため、男たちに背を向けた。
「あなた様こそ真の『かぐや姫』!」
「その
「遠い昔、時の帝に射られ、地上に残した遺品を纏いしあなたに、我ら安寧寺の僧は命を懸けて仕えとうございます!」
僧たちの忠誠を確認してから、千古は彼らの背後に鎮座する寺の
千古はこう締めくくった。
「別当の指示に従うのじゃ。彼の指示はわらわの指示と心得よ。
都を守る
計画の漏洩を案ずるな。
決行日は十一月の冬至。
「「「はっ。仰せのままに!!」」」
僧たちの返事を聞き終えると、千古は彼らに準備――
そんな彼女を追う影が一つ。
「ありがとう、千古殿。おかげで復讐が果たせそうだ。感謝してもしきれない」
心のこもっていないお礼の言葉を、千古は黙って背中で受け流す。背後に立つ下衆男――帝とそう変わらぬ女好きな彼に隙をみせまいとして。
「どうした?
「やめてくださらない? その呼び方。わらわは――」
「『かぐや姫』だろ? でもまあ、同じようなものではないか」
「は?」
「昔の『かぐや姫』は三人の男から迫られましたが、その全てを跳ねのけたというではありませんか」
「そうじゃ」
「そして、書物には『地上界の穢れを浴びぬため』と記されている」
「ええ、そうじゃ」
「ですがね、私はあなたが本当は、都の貴公子三人と
別当が「私は思っているのでね」と言い終わる寸前に、彼の首筋に
「やはりそなたは帝の弟君。性根が女のせいで腐りきっておる。
元『親王』よ。お主は出家しても変わらぬ。
死後、地獄で
それとも、この
千古の太刀が別当の口元に近づいていく。下弦の月が放つ光が刃に当たり、それが別当の網膜に反射する。彼女の殺意を乗せて。
「す、すまなかった。ゆ、許してくれ」
形だけの詫びだとすぐに分かったが、千古はひとまず太刀を
「次はないと思え」
千古は今度こそ奥の間に行き戸を閉めた。男の目から己の着替えを覗かれないように。
「お高くとまりやがって。見てろよ。私が帝に即位したら必ずや……」
徐々に小さくなっていく別当の声。千古のいる部屋から遠ざかりつつ独り言を口にしたのだろう。
「生臭坊主どもの元締めは、より強い腐臭を放つ生臭坊主か。まあ、精々吠えておれ。わらわはかつての『かぐや姫』よろしく、
太刀を外し、長袴を脱ぐと千古の瑞々しい色白の生足が露わになる。上半身の水干は着たまま。男が見れば思わず情欲をそそられる格好だ。
その状態で千古は、下弦の月に向かって宣言する。
「わらわとその仲間たちが今度こそ八島国を滅ぼしてみせますゆえ、どうか月から見守り下され。『かぐや姫』様。
かつてあなたがしたように、わらわも都の貴公子どもに『災厄』という疫病を流行らせてやりましょうぞ」
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