颯爽と現れた可愛い救世主
予期せぬ正義の味方の登場にゴロツキ男はイピゲネイアから手を離し、声のした方に目を向ける。
立っていたのは、上は緑の
大学寮から出てきたので
「ああん? なんだいチビの嬢ちゃん。おじ様たちのやってることに口出しなんかしてないで、とっととパパのとこへ帰んな。
じゃねえと、嬢ちゃんも『お楽しみ』の一人に加えてやるぞお?
どうだ、小便ちびる前にお家に帰った方が身のためだぜえ?」
下品な笑いとともに、ゴロツキ男は言い放つ。彼の言葉に合わせて、周囲に立つ彼の仲間たちも
「できるもんならやってみてよ。図体だけおっきくて肝っ玉は小さいおじさんとそのお友達さん」
だが、乙女を助けようと現れた
生意気な態度を見せた
「おい、こいつを捻り潰せ!!」
ゴロツキ男の命令に「おうっ!」という何重もの応答があってから、彼の仲間たちは
「ガタイの良い大人がひい、ふう、みい……。十人も揃って一人をとっちめるの? 情けないと思わないんだ? へえ」
「んだと、てめえ!」
「容赦すんな。足ガクガクになるまで遊んでやろうぜ!」
威勢の良い声を合図に、男十人が一人の
(ごめんなさい。私のせいで)
だが、それから間もなく彼女は驚きの光景を目にすることとなった。
「んだよ、こいつ。掴めねえ!」
「早すぎるぜ、このチビ!」
軽い身のこなしで、
「そこ! 隙だらけだよ」
「グヘッ」
そして、大振りな右ストレートを食らわせようと迫るゴロツキの一人が胸に一撃を受けて地面に伸びてしまうと形勢は逆転。
学生による反撃が展開された。
ある者は
また、ある者は学生の袖を掴み投げようと試みるも、今度は彼が体を反らしたために思わず転びそうになる。学生がその隙を突き、その男がこちらを向いた瞬間に肘討ちを浴びせると、相手は左頬に痛みを感じると同時に地面に突っ伏してしまう。
さらにある者は、遂に腰に下げた太刀を抜くと学生目掛けて斬りかかろうと走ってきた。「血に触れれば
「死ねやあ!!」
陽光の反射で輝く太刀の一撃。それは
だが、学生はどこまでも冷静な素振りを崩さない。
「おじさん。大学寮で学ぶ学生がみんなガリ勉だと思ってない?」
そう言うと学生は目にも止まらぬ速さで腰に吊り下げた太刀を抜き、正面に構えた。
「僕の方がおじさんより太刀を上手く扱えるんだ。ほら」
そして、迫りくる頭上からの振り下ろしを自らが持つ太刀の
「ひ、ひい……」
軽く触れただけでゴロツキの着ていた
「あ、ごめんなさい。少し切ってしまいました」
対して学生はどこまでも涼やかだ。彼は勝負が付いたと分かると太刀を
「お嬢さんからすぐに離れてください。あと、この度のことは後日官庁の高官に報告するので覚悟するように」
にこやかな表情の中に底知れぬ怒りを感じ取ったゴロツキの親分は、満足に力の入らぬ足をどうにか動かすと、仲間たちと一緒に退散していった。伸びている子分どもを分担して担ぎつつ。
「へ、へんだ!
「親分! 急ぎましょうや!」
捨て台詞さえ最後まで言うこともできず、ゴロツキの親分は子分に引っ張られていった。それを確信してからイピゲネイアはようやく深く息を吐いた。
「お怪我はありませんか」
先ほどの学生が腰をかがめてイピゲネイアの手を取ると、彼女をゆっくりと立ち上がらせた。そして、外傷がないか目でチェックをする。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、男として当然のことをしたまでですよ」
「え、お、男の方?」
イピゲネイアが不思議そうな目で自分を見つめているのを感じ取り、学生は彼女を真っすぐ見据えて自己紹介をする。先ほどまでの勇敢さが嘘であるかのような、明るい笑顔を作って。
「申し遅れました。
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