第3話 友の胸が覚悟でキラめいた時 前編
「えー、ここの部分をよく覚えておくように、テストに出るぞー」
れんは水彩画チックな青空を眺め終わった後、国語教師の説明を聞きながら授業の内容をノートに写していった。
気が付けば、お昼時。
「れん、一緒にお昼食べましょう?」
「え、うんっ」
嬉しくて笑って返すと、普段クールな彼女も朗らかに微笑んだ。
「……いいなぁ、瑠璃川さんと食事」
「ねぇ」
ぴく、っと私は肩をびくつかせた。
「? れん?」
「あ、ううん! なんでもないっ」
やっぱり雫月ちゃんは、マドンナ的存在だよなって思う。
私なんかが、一緒にいていいのかって時々思ってしまう。こうやって他の女の子や男の子たちが、雫月ちゃんの傍にいる私を、鬱陶しがってるから。
大輪の花みたいな雫月ちゃんの傍にいる私が、妬まれたって文句は言えない。
地味で、目立たなくて、特別の才能に恵まれた私だったら。
雫月ちゃんの隣は、釣り合うのかな?
「――ほら、れん。行きましょう?」
――可憐な、笑顔だった。
「……あ、ま、待って雫月ちゃんっ」
彼女が強引に腕を掴んで、教室から連れ出してくれた。
……きっと、聞こえていたんだと思う。でも、気にしないように毅然と私に接してくれてる雫月ちゃんは、やっぱり私の大切な親友だ。
幼稚園の頃から、いつも私を助けてくれる王子様みたいな雫月ちゃん。
……誰かに私が馬鹿にされてもいい、でも、なんでもないように普通に私に接してくれる雫月ちゃんは、誇らしい、私だけの親友なんだっ。
「ほら、急いで!」
「……ふふふっ、うんっ」
れんと雫月は、二人で一緒に笑い合いながら弁当箱を持って屋上へと向かった。
屋上に着いて、まず二人で座りながら弁当箱の中身を一緒に食べていた。
「……魔法少女も大変でしょう?」
「うん、嫌ではないかな。たまにカラキティが授業の途中に呼び出す時もあるけど……みんなのためっていうか、私の大切な人を守るための行いって思えたら、仕事みたいに思えてさ」
雫月ちゃんがこっちから顔を覗き込むように心配げな顔で言った。
前髪を目元まで伸ばしているけど、雫月ちゃんの表情が読み取れないわけじゃない。れんは頭の後ろに手をやりながら、照れを感じつつも本音で言う。
……町のみんなから、ありがとうって言われた時、すっごく嬉しいんだよな。
だって、あんなに笑顔で喜んでくれるって、お母さんにテストの点数が100点だった時に褒められたり、頭を撫でられたのと似てるから。
……なんか、自分のできることができてみんなに喜んでもらえるって思えたら、元気も出てきて、最近の日常が充実しているのを感じてる。
でも、調子に乗り過ぎたら嫌われちゃうことも、やっぱりあることだよね、って、話で。
「あ、あはは……ちょっと、偽善っぽい、かな」
「そんなことないわ、だってれんは私のことも守りたいって思ってくれている上でのことなんでしょう?」
「そ、それは、そうだけど……いいの、かな。こんな私が魔法少女やってるって、怜人さんにドン引きされないかな」
「そこまで暗く考えなくていいと思うわ。私も、魔法使いになれたられんのお手伝いができるんだろうけど……」
「あ、そうだ! カラキティ」
「ニャニャ? 呼んだかニャ?」
ぽんと、光が一瞬瞬くと、カラキティが宙を浮きながら姿を現した。
「カラキティ、雫月ちゃんは魔法少女になれないの?」
「キティはれんの専属星獣ニャ! 他の女神様の星獣がいれば、もしかしたら可能性はあるニャ!」
「……なら、星獣を探す方法は?」
「探しても無駄ニャ! 星獣は気高き心を持った少女の前にしか現れないニャ、キティがれんの前に現れたのも、れんが子猫探しの手伝いをしていた時にれんを見つけられたんだニャ!」
「……そう、では自分から探そうとしても現れるわけではないと言うことね」
「そういうことだニャ……ごめんニャ。役に立てなくて」
「そ、そんなことないよ! ね? 雫月ちゃんっ」
「……ええ」
雫月はそう言うと、後はすっかり黙ってしまった。
私は申し訳なさで、胸元にぎゅっと手を置いた。
あの日怜人さんに感じたこの激情が、なんなのかよくわかっていない。恋かも、とはお母さんが言った言葉を思い出したけど、本当に恋なのかもあやふやだ。
私が魔法少女でいる間は、この気持ちがなんなのか知るためにも雫月に迷惑をかけないようにしなくちゃ!!
「ニャニャ!? これは、ニルジェーロの反応!! この学校の近くニャ!!」
「え!?」
「なんですって!?」
「急ぐニャ!! れん!!」
「わ、わかった! 雫月ちゃんは教室に戻ってて!」
「れん!!」
れんは弁当箱をそのままに、リリィハートになって屋上から去った。
雫月は、小さく拳を握る。
「……れんっ」
雫月の親友の名は重々しく吐き出された。
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