第5話 異世界で推しと遭遇!?

「さて、結局現状は何も改善しない、っと」

 ステータス画面を閉じ独り言ちる。

 色々発見はあったものの、この現状の改善には全く影響がなさそうなのだった。


「困った、本当に困った……」

 衣食住、そして人との触れ合い。今のままだと全てに置いて絶望的状況と言わざるを得ない。

仕方ないので堕天使化を使って、空から人里とかオアシスとかを探してみようか? もしかしたらメガネに隠されたズーム機能とかあったりして。

いや、それよりも周囲を散策してポイズンタッチを試してみるとか。あ、でも毒殺したのを食べるのはちょっとなぁ……。

後は、やっぱりレベリングをどっかでしたいなぁ。Lv上がればもしかしたらお腹減りにくくなるかもしれないし。……空腹度は数値化されてないから、関係ないかなぁ?

と、色々考えていた時だった。


「そこの者! 一体何者だ!!」

「うえっ!?」

 いきなり背後から怒鳴り声が聞こえてきた。

 ステータス画面を見てた間に、人が近づいてきていたようだ。

 でも、これで第一村人(?)発見! はじめまして人類。


 第一村人(?)は、この砂漠の中なのに金属製のバケツ兜バレルヘルム全身鎧フルメタルプレートを身に付けている。兵士っぽい感じだけど、熱くないんだろうか? 砂漠でその格好は灼熱地獄じゃない?

しかも兵士は体格もかなり大柄だ。装備と相まって威圧感が凄い。


「怪しいヤツめ。魔族の残党か!?」

 あ、魔族とかいるんだ。強いんだろうかな?

 じゃないじゃない! 言い訳しないと!!


「ち、ちがいます。えっと、私はシアという冒険者で人間です」

 さっき、ステータスで確認したから、間違いないよ!

「冒険者が、この地に何の様があって来たというのだ!」

 あ、全然信じてくれてない感じ。

「さ、砂漠で仲間とはぐれまして、巨大なサソリから逃げていたところ、ここにたどり着いた次第です」

「巨大なサソリ……。ジュエルスコーピオンか。それであればわからなくもないが、信用しきれるものでもないな。とても砂漠を横断しようという恰好には見えない!」

 えぇ……、結構いい感じに誤魔化したと思ったんだけど、ダメですか。

 そして、体のサイズに合わせてか、一々兵士の声がデカい。思わず私の腰が引ける。

 まぁ、砂漠でブレザー姿の女子高生(?)がいたら、怪しまれるか。武器とか、所持品とかもないしなぁ。うーん、どうしよう。なんかスキルで抵抗できるだろうか?  とか、考えていたら持っていた槍を突きつけられた。すごい滑らかな動きで目の先、数センチに槍が止まる。……ヤバっ、こわっ。私の腰が抜け、ストンと座り込む。


「まずは、ステータスを開示してもらおうか」

 兵士に、ステータス開示を要求される。え、私、他人にステータス開示する方法知らないんですけど。

「ス、ステータス」

 とりあえず、ステータス画面を開く。これで、相手にも見えてくれればいいんだけど……。

 手元に開いたステータス画面をフリックの要領で兵士に向かって移動させる。行った。

「ふむ。確かに、シアという冒険者ではある様だな。しかし、冒険者ランクGで、このステータス。自殺でもしに来たのか?」

 どうやらステータスさんは仕事を果たしてくれたらしい。でも、項目の隠蔽マスクとかしてる時間もなかったから、冒険者ランクGでLV1、ステータスも貧弱ぅ!なのがバレている模様。


「いえ、私は荷物持ちで……」

「どこにも荷物など持っていないではないか!」

「逃げる途中に投げ捨ててきましたぁ」

「水も食料もか!」

 ……苦しい言い訳が続く。設定とか考える暇なかったんだよ。


「さて、大人しくしてもらおうか!」

ステータスで戦闘力がないとバレたからか、兵士は槍を収め掴みかかろうと手を伸ばしてくる。

 どうする?堕天使化を使って逃げる? いやいや、いきなりこんなところで使うのはマズいよね。

 腰が抜けたまま、動けなくなっていた私に兵士が触れるまで、ほんのわずか。

 と、その時だった。


「何をしている?」

 灼熱の砂漠に似つかわしくない涼風の様な爽やかな、しかし芯のある声が聞こえてきたのだ。


「はっ、こちらに不審者がおりましたので、尋問していたところです!」

 相変わらずデカい兵士の声も耳に入らず、私はその場で茫然としていた。


 聞き覚えがあるのだ。その声に。

 心が揺れるのだ。その声に。

 魂が震えるのだ。その声に。


 瓦礫の山の影から、その声の主が姿を現す。


 褐色の肌。漆黒の長髪。薄い布地を纏っただけの、その下に見える肉体美。

 眼光は鷹の様に鋭く冷徹。しかし、その奥には燃える焔が幻視える

 身長は高く、そして姿勢が美しい。そこに在るだけで、圧倒的な存在感を放つ。

 カリスマ。その一言を体現する存在。

 ……その全ては、私を魅了して止まない。


「陛下!!」

 思わず、私は声を張り上げていた。


「そなた、余を知っておるのか」

 再び、放たれる美声。

 私は、その声に、姿に、その全てに体を震わせながら答える。


「もちろんであります、陛下。わたくしめは、貴方様の一臣民であります故、存じ上げております」

 ここが、異世界だという事すら忘れて、私は声を上げる。


「陛下、お下がり下さい。まだこの者が何者であるかはっきりしておりません。

 もしかすると魔族の残党かもしれませんぞ」

 兵士は、私に対する時とは打って変わって、静かな声でそう陛下に告げる。

「もしくはどこぞの間者で、陛下に害を為す者やも……」

「私が陛下に害を為すだと! ふざけるなっ! 私は陛下の為に身も心も捧げた人間だ!」

 兵士の戯言がいい終わる前に、心の叫びが放たれた。

「突然の怒声、失礼いたしました。この様な場、この様な姿で、御身にお会いできるとは思っておりませんでした。

 陛下、わたくしめは、シアという底辺冒険者であります。

 仲間とはぐれ、大サソリ《ジュエルスコーピオン》から逃げてこちらに隠れておりました。」

 先ほど兵士に答えた内容と同じ内容だが、驚くほど流暢に言葉を紡ぐことができた。


「ほう……。それで、シアとやらよ。その大サソリはどこにいる?」

「ここよりまっすぐ向かった先。身を潜めながら1時間と歩いて2時間程度の距離の所におりました」

「ふむ」


 陛下はわずかに思案するかの様な仕草を見せる。

 あぁ、その手の甲を口元に当てる仕草だけでも、カッコいぃぃぃぃぃぃっ。


「ドーバン、この者をすこし見ておれ。ナイセスはおるか」

 この大声の兵士はドーバンって名前なのね。まぁ陛下の前ではどうでもいいけど。

 トリップしながら陛下を眺めていると、ナイセスと呼ばれた兵士が姿を見せた。

 あ、こっちは全身鎧じゃなくて、要所だけの鎧でマント付けてる。サラリと流した金髪がちょっとカッコいい。


「はっ。ナイセス、ここに」

「ナイセスよ、どうやらこの先に大物がいる様だ。仕留めてまいれ。距離は南西に8kmほどだ」

 陛下は、私の報告からおおよその距離を計算して指示を出した。

「はっ!」

 一礼と共にナイセスと呼ばれた兵士は駆け出していく。


「余興が終わるまで少しばかりの時間ができたな。

シアよ、これからする余の質問に対し、答えをよくよく考えておくが良い」

 流石陛下、私の言葉を疑っている様だ。

 それでこそ、陛下。偉大なる王の中の王陛下は、そう簡単に人を信じたりしないのだ。

 うんうん、と心の中で頷きながらも陛下の言葉を静かに待つ。

 そんな私を、鷹の目が更に鋭く捉える。


「『うぬ』は何者だ」

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