第2話 え? 頭痛で異世界行き?
「頭痛い……」
頭に強烈な重さを感じながら、起き上がる。寝起きの感覚としては最悪だ。
「ん?」
……そこで違和感に気付く。いや、違和感というか、これ私の部屋じゃなくない?
見渡す限り、周囲は見慣れたPCもベッドもなく、ただただ真っ白な空間だった。
「あぁ~、これは明晰夢ですねぇ~」
最近、眠りが浅くて明晰夢を見ることが増えてきたので、今回もそうだろう。
しかし、真っ白な空間の明晰夢というのは始めてだな。普段なら悪夢の最中に明晰夢だと気付く事が多いんだが……。
折角の真っ白空間なら色々チャレンジしてみよう! 明晰夢は自分で夢をいじれるからね!
うーむ。よし、まずは綺麗なお姉さんを所望する!!
「いやいや、明晰夢じゃないよ」
さすが明晰夢。一発で、金髪ロングの豊満系美女が出てきてくれる。衣装も布一枚で結構際どい感じだ。ええ仕事するやん、明晰夢。口調が見た目に比べて砕けてる気がするけど。
「だから、明晰夢じゃないって」
金髪豊満系布一美女が再度語りかけてくる。……明晰夢なのに明晰夢じゃないって言ってくるのってどうなんだろう? いつもより眠りが浅いのかな?
「全く、現状理解できてないって感じだね」
三度目。金髪豊満系布一美女が語り掛けてくる。現状? うーーーん?
「……うーん、そういえば頭痛が酷くて、のたうち回ったんだっけなぁ」
うん。あの頭痛は酷かった。マジで死ぬかと思ったんだった。
「まぁ死んだんだよ。あの頭痛で」
えっ? 死んだの? 頭痛で?
「うん、くも膜下出血だったからねぇ。どうにもならなかったよ」
あー、くも膜下出血かぁ~。ということはあれが世に聞く、雷鳴頭痛か。
納得、納得。……いやいや、納得できるかぁっ! 最近人間ドックにも行ってなかったし、なんなら健康診断も受けてなかったけど、いきなり『あなたはくも膜下出血で死にました』とか言われても納得できるかい!
「いや、そう言われてもくも膜下出血だからねぇ……」
えぇぇ。そこまでの歳でもないんだけどなぁ。
そして、この金髪豊満系布一美女からくも膜下出血に対して、謎の信頼感を感じる。なんぞこれ。
「一応、翌日には家族が見つけてくれたみたいで、無事葬儀も終了ってとこだね」
葬儀終わっとるぅ!? 思った以上に時間が経過していたらしい。
「んー、で。金髪豊満系布一美女のお姉さんはなんでこんなところに? もしかして、異世界転生の女神様ってヤツ?」
寝る前にさんざんWEB小説を読んできたのだ。ここで、こんな美女が出てくる&現世で死亡という事は、転生に違いない!
「うーん、まぁ。そうなんだけど、切り替え早いね。
ちなみに、私の名前はイシュタルなんで、金髪豊満系布一美女とか微妙に不本意な呼び方は止めてね」
おぉ、豊満系布一美女は、かの有名なイシュタルさんなのか~。某ゲームでは全体必殺技で大変お世話になりました。
それはさておき、死んだのは心残りだけど、異世界転生となれば話は別である。
剣と魔法の中世系だろうか? それともSFファンタジー系だろうか? もしくは、歴史もの? だとしたら戦国時代でおにゃしゃす!
「ノリ軽いね。一応、転生というか転移に近いんだけど、剣と魔法の中世世界だよ」
おぉ、定番! 異世界ファンタジーと言えばやっぱ剣と魔法の世界だよね。
そして、ノリが軽いのはイシュタルさんも一緒やん。
とりあえず素振りの練習しとくか。ふん、ふん、ふん!
「いきなり、何にもないところで素振りのモノマネするのはどうかと……。
それより、体の違和感に気付かない?」
……体の違和感? そういえば、体が軽いというか。なんだろう、細い? アレ、そういえば声も高いし、胸が重たい気もする?
「ほい、鏡。どうぞ」
そこに映っていたのは、稀堕
紫のミディアムボブに胸まで伸びるサイドロックス、アンダーフレームの赤縁メガネ。ご丁寧に全身像のブレザースタイルだ。
「……なんで?」
「それがこの転移の肝なんだよねぇ」
イシュタルさんから謎の返事が返ってくる。なんでVtuber姿が大事なん?
「えーと、紫愛ちゃんが行く世界、アスタルテって名前なんだけど、ただの剣と魔法の世界じゃなくてね。先天的に『名』が、力を持つ世界なんだよ」
紫愛ちゃん呼びとは中々フレンドリーだね、イシュタルさん。
てか、先天的に『名』が、力を持つ世界……?
「そうそう。つまり、紫愛ちゃんの日本人としての本名だったら、最初に得る事ができるのは、よくて2~3種のスキルしかできないんだよね」
「え、例えば、佐藤一郎さんだったらどんなスキルになるの?」
全国の佐藤一郎さん、ごめんなさい。例に挙げさせてもらいます。
「佐藤=日本で最も多い苗字だから、一般市民。一郎=長男に名付けられることが多いから、長男。以上」
それ、スキルじゃなーーーーい!!
境遇! 生まれ! 立ち位置! 完全に農村の長男コースやん。
「まぁ、後天的に身につくスキルもあるから、一概に『名』が全てじゃないけどね。
それに紫愛ちゃんの本名なら、もう少し能力が付きそうだけど、それより『新人バ美肉低コストVtuber 稀堕 紫愛』に可能性を感じたんだよ」
「あー確かに。名前に『新人バ美肉低コストVtuber』部分も含まれるなら、一杯スキルつきそうか……」
名前だけは仰々しいからなぁ、私。
「詳しくは時間がないので、現地で確認してね! お約束通り、『ステータス!』 って言えば自分のステータスは見られるから」
まぁ、その辺は楽しみにしておこう。きっと色々スキルがもらえるはずだ。
「あ、後。剣と魔法の世界ですけど、ドラゴン退治だけはしちゃダメだよ」
「え、ドラゴン倒しちゃダメなの? 魔王はOK?」
剣と魔法の世界って大体ドラゴン倒すか魔王倒すんじゃないの?
「
詳しくはむこうで調べてね。ちょっと説明面倒だし。
あ、あと読み書きチートは名前とは別にあげるね。
ついでに言うと、魔王は今はいないよ。そのうち沸いてくるだろうけど」
お、ラッキー。読み書きチートが無いと詰む可能性があるからね。
そして魔王はまだ不在。勇者召喚じゃない感じだ。
「で、私にアスタルテに行って何をしろと?」
「大陸の戦火から、ドラゴンを救出して欲しいんだよね。
アスタルテは8か国の強国と幾つかの小国でまさに戦国時代! なんだよ。
で、その幾つかの国がドラゴンを研究・実験・軍事利用しようとしてるんだ。
でもでも、ドラゴンは存在はアスタルテの根幹なんで、万が一やられちゃったりすると、バランス調整が大変なんだよね。
なんで、ドラゴン救出が第一優先目標!」
ドラゴンを救出かぁ。難易度高そう。
「根幹に関わるドラゴンは全部で10体。
その内3体が封印されてて、2体が軍事運用中。で、1体が実験対象にされてるの」
「えっ、結構絶望的じゃない? それ全部助けるの?」
「いや封印とか軍事運用される分には、アスタルテに影響がでないからいいんだよね」
あ、いいんだ、それ……。
「という事で、まずお願いしたいのは、実験対象とされているドラゴン
「えーっと、ちなみにお仲間とかは?」
「んー、何人かは送り込んだんだけどね……。本名で送っちゃったから、あんまり戦力にはならないかも。
その代わり、ドラゴンには力を分け与えた巫女が一人ずついるから、見つかれば協力してくれる! はず。ハーレムも夢じゃないよ!!」
いや、アバウトな上に、バ美肉なんで女性体なんですが、私。
「さてと、時間もあんまりないから早々に行って頑張ってきてね!」
「えっと、武器とか防具とかお金とか、その他もろもろは……」
「時間切れ!! 頑張って調達して~」
その言葉の直後、突如として目の前に銀河の渦っぽいのが広がる。と、同時に体が吸い寄せられていく!
「そんな、ご無体な~~~~~~~!!!」
AI編集された声と同じ声をリアルに発しながら私は吸い込まれていく。
とはいえ、文句はいいつつも、ちょっとだけワクワクしているが。
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