新人バ美肉低コストVtuber異世界に転生す~推しにソックリな陛下が居たので犬になります~

稀堕 紫愛(まれおち しあ)

第1話 新人バ美肉Vtuber(2年目)の生態

「みんな、おつシア~」

 PC付属のカメラに向かって笑顔で首を振ると、紫のミディアムボブに胸まで伸びるサイドロックス、アンダーフレームの赤縁メガネがトレードマークのアバターが自分の動きにあわせて動き、喋る。


 Vtuber、2次元または3次元のアバターを用いて配信を行う配信者であり、ここ数年で爆発的に人気を得て、市場を拡大しつつある配信スタイルでもある。


 コロナ禍で需要を増した配信業界の中で一際人気を博したその配信スタイルは、同時期にAI産業が本格的に稼働したこともあり、手軽で視聴者に自分の姿を晒す事無くコミュニケーションが取れる手段として、数多くのVtuberを世に産んだ。


 私こと、稀堕 紫愛(まれおち しあ)も、そんなVtuberに憧れ、AI画像生成やAI音声を駆使してゲーム配信を細々と行っている一人である。

 

 ……残念なことに2年経った今でも500~600人前後の登録者と、それほど多い訳ではなく、見に来てくれるのは大体決まったメンバーなのだが。


「うーん、今回の視聴者は平均5人で新規登録はなし、かぁ」

 登録者の伸びはまちまちで微速ながらも前進はしている。しているが……。


 大手と呼ばれるVtuberは登録者100万人超というとんでもない数字をたたき出す一方、数多の個人Vtuberは1000人いけば御の字という、格差の厳しい世界である。


 ちなみに、私はAIで画像生成した物に手を加え、自身でLive2D(画像を動かすカメラと同期させて動かすアプリ)を作成し、AI音声編集ソフトで女の子の声にAI変換する『バ美肉』と呼ばれるタイプのVtuberであり、『新人バ美肉低コストVtuber』と(時々)名乗っている。


 アバターにお金をかけるなら課金したいという、廃課金者でもある。2年目なんで新人はそろそろ取ってもいいかもしれない。


「まぁ、登録者が伸びなくても見てくれる人がいればいいもんね~」

 捨て台詞を吐きつつ、配信外で楽しんでいるゲームを起動する。


 ゲーム配信者とは言え全てを配信するほど体力がある訳でもないので、裏でこそこそやれる作業は裏でやっておき、配信ではガチャや新MAPの攻略などをやっているのだ。


「さて、今日も陛下を愛でますか~」

 私の最近の流行は、とある対人シミュレーションRPGである。

 

 それ自体は数多あるゲームの一つだが、その中に登場する敵帝国の陛下にドハマりしてしまい、どっぷり浸かって(お金も使って)しまったのだ。

 

 ちなみに陛下は褐色露出系暗殺者(女装もするよ!)で王の中の王を自称するという微妙に迷走したキャラで、一々設定が面白いのがポイントである。


 さて、ゲームの方では対戦相手とのマッチアップが終わり、出撃メンバーを選出。

 基本的にはガーディアン1人・アタッカー2~3人・ヒーラー1~2人というのがこのゲームの基本である。

 私の編成はガーディアン1、ヒーラー1、アタッカー2、そして陛下である。

 

 メンバーが決まった後は先手・後手が決まり戦闘が開始される。

 私の初ターンはオーソドックスにガーディアンを前衛として展開したが、2ターン目に早速、強襲をかける。

 機動力に任せて褐色露出系暗殺者陛下を敵陣に突撃させたのだ。


「あぁ、陛下。今日も敵陣で一人暗殺しては、すぐにやられちゃうのがカワイイ」

 脳筋指向で突撃した陛下は、その暗殺能力で相手のヒーラーを見事に仕留めた!

 が、敵陣に一人で突撃したので、残った相手メンバーにボコボコにされ退場する。

 毎回陛下は使い捨てにされる運命なので、歪んだ愛である。


「1:1トレードだけど、ヒーラーはつぶしたのでコッチがちょっと有利かな?」

 その後、盤面はやや遅い動きながら、ヒーラーを潰したこちらに目が出て、最終的には勝ちを収めることができた。

 これによってランクポイントを稼ぎクラスが昇格。満足、満足。


「陛下は使用率低いから、警戒度甘くて助かるぅ~」

 陛下は敵帝国の王なのに、弱キャラで使用率ほぼ最下位という不遇の塊だが、ウチの陛下は育成度MAX。

 戦闘力のランキングでは、堂々の日本一である。

 故に、弱キャラだと油断している相手の隙をつけば、一気に戦況を有利にすることができる性能を持っている。

 

 ちなみに、仕留めきれない時は無駄死にする王の中の王陛下だが、そこは愛でカバーである。


 戦闘後はデイリーを消化しつつ、陛下の戦闘力ランキングを見てにやにやしてゲームを切り上げる。

 このゲームは対戦が1時間近くかかる為、配信後で体力の尽きていた身に連戦はキツイのだ。


 最近、体調不良が続いていて、あまり長時間モニターを見ている事が辛くなってきたというのもある。寄る年波にはなかなか勝てないものだなぁ。


「さて、明日の配信の準備でもして、今日は早寝するかな」

 毎日、そう言っているが寝る前にWEB小説を読む習慣の為、きちんと早寝できた試しは少ない。


 一度、PCから離れベッドで寝ころびながらいくつかの作品の最新話をチェック。

 もちろん好きなジャンルは異世界転生・転移もの。いつか実際に異世界行きを夢見ている日々を過ごしている、中々に痛い系である。


 そうこうしている内に時刻は2時を回り、結局早寝は今日も出来なかった。

 まぁ、充実した一日だったので仕方ないね。


 配信準備作業の為、ベッドから再び抜け出しPCの前に座るが、なんだか今日は頭痛がいつもより酷い気がする。


「とりあえず、サムネ画像でも作ってっと……」

 そう言って、イラスト編集ソフトを立ち上げた瞬間だった。


 目の前が白く輝き、強烈な頭痛が襲い掛かってくる。次いで、痛い!という言葉では表せないほどの痛み。


「あっ……がっ……」

 声も出せず、体も震えて力が入らない。


 ヤバイ。

 痛みの中で僅かに冷静な部分がそうつぶやくが、あまりの痛みで何もすることができず、のたうち回るだけである。


 こうなると、家族が気付いてくれるのを祈るばかりだが……。

 その私の祈りは虚しく、意識が遠のいていった。

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