【5】
「おじゃましまーす」
と言いながら、歩の家に上がり込んだ。すると、奥から、
「部屋にいるよー」
と、歩の声が聴こえた。いつものように、勝手を知った家の中を進み、小さな和室――歩の部屋に入ると、歩は敷布団に寝転がってゲームボーイアドバンスで遊んでいた。
「家の中、誰もいなかったぞ」
「うん。母さんはパートで、おばあちゃんは
「何やってんの?」
「ポケモンの銀」
「今さら?いい加減にDS買ってもらえよ」
「翔の家みたいにお金持ちじゃないんだもん」
「別に金持ちじゃないっての。それに、DSなんか、もうみんな持ってるぞ」
「いいよ。それに、多分こっちの方が面白いし」
歩はそう言いながら起き上がると、ゲームボーイアドバンスの電源を切って足の低いちゃぶ台の上に置いた。横には、既に終わらせたらしい宿題のプリントがあった。
「で、何して遊ぶの?」
「おう。そこに、ほら、神社があっただろ。あそこの階段上って特訓しようぜ」
「特訓って、マラソンの?」
「当たり前だろ」
「ええーっ、やだよっ」
「なんだよっ、今日の練習で勝ったからって余裕ぶるなよっ」
「余裕ぶってなんかないよ。鼻の差だったじゃんか。たまたま最後に翔を追い抜けただけでさ。それに、明日の本番はグラウンドじゃなくて、学校の外を走るんだよ。どうなるかなんて分かんないよ」
「でも、勝ちは勝ちだし、負けは負けだろっ。だから、特訓するんだ。いいから、行こうぜ」
「だったら翔だけ特訓すればいいじゃんか。僕も特訓したら、翔が勝てる可能性が低くなっちゃうかもしれないじゃん」
「そこは正々堂々だっ。自分だけ内緒で特訓したら、ドーピングってやつみたいになるだろっ」
「でも……あ、ほら、あそこってボロっちくて危ないから近寄るなって言われてるじゃんか。だから、行っちゃだめだよ。怒られちゃう」
「ボロっちいのは神社だろっ。階段で特訓するんだから関係ないって。ほら、早く行こうぜっ」
「もう……そんなに金メダルが欲しいの?」
「そりゃ欲しいだろっ。一等賞だぞ、一等賞。六年生になったから、やっと一番を狙えるんだぞ。全校生徒の中で一番足が早いって、凄いだろ」
「そりゃ凄いけどさ、二番でも別に良くない?僕と翔以外は、みんな足遅いんだしさ」
「良くないっ。俺は銀メダルなんか嫌だっ。絶対に金メダル獲るんだっ」
「金でも銀でも、そんなに変わらないよ。ポケモンと同じ。ルギアもホウオウも、同じくらいかっこよくて強いでしょ?」
「ホウオウの方が強くてかっこいいだろっ。さっきから一々うるさいなっ。屁理屈ばっかり捏ねるなよ」
「屁理屈じゃないよ。あっ、もしかして、
「そ、そんなんじゃないっ!なんで美里が関係してくるんだよっ!俺は金メダル獲りたいだけっ!いいから、ほら、行くぞっ!」
「ふふっ、分かった。分かったよ」
歩は、やれやれと笑いながら立ち上がった。俺も、それが嬉しくて笑った。
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