第21話 影の取引

アレクシスたちが帝国の会合から戻り、夜の静けさが訪れる中、彼はエリザベートからの会合の裏に潜む意図を探り続けていた。バルカニア帝国の動きには表向きとは別の思惑があることは明白であり、これ以上彼らの策に乗るわけにはいかない。翌朝、アレクシスはガブリエルとカイルを呼び、秘密裏に次の作戦を進めることを決意した。


「昨夜の会合で、帝国が何かを隠しているのは明らかだった。我々がこれ以上待っていては遅れを取るだろう。ガブリエル、君の情報網を活用して、バルカニア帝国内の動きを探ってもらいたい。」


ガブリエルはすぐに頷き、冷静に答えた。「了解しました。信頼できる情報源を使って、秘密裏に動いてみます。表の動きとは別に、彼らの裏で何が進んでいるのかを探りましょう。」


カイルも同じく同意し、さらなる警戒を提案した。「アレクシス、僕たちが帝国の影を追う間に、君はもう少し公の場で動くべきだ。帝国の高官たちや貴族との対話を通じて、彼らがどこまで知っているのか、そして彼らがどれほどの力を持っているのかを確認する必要がある。」


「そうだな。俺が表向きに動いている間に、君たちが影の部分を探ってくれ。もし何か異変を感じたら、すぐに知らせてくれ。」


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その日、アレクシスは帝国の貴族たちとの交流に積極的に参加した。彼らは帝国の繁栄や新たな政策について語り合い、アレクシスもまた、自分の領地で行っている改革や魔法技術について話した。しかし、彼の本当の目的は、彼らの本音を引き出すことだった。特に、経済や軍事に関する話題が出るたびに、アレクシスは相手の言葉の裏を読むように努めた。


「アムリオ領の発展は素晴らしいものです。魔法技術をこれほど効率的に活用している国は少ない。我々もその技術をぜひ参考にしたいものです。」と、ある貴族が微笑みながら語りかけてきた。


「ありがとうございます。しかし、我々の技術はアルステア王国全体のために開発されたものです。帝国にも役立つことがあれば、それは王国と帝国の友好関係の一環として進められるべきでしょう。」


アレクシスは慎重に答えながらも、貴族の言葉の裏に潜む意図を探っていた。技術の話題に触れるたびに、彼らの目には強い関心が宿っていた。帝国はただ単に友好を装っているのではなく、アムリオ領の技術力を何らかの形で取り込みたいという欲望が隠されていることが明らかだった。


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一方で、ガブリエルは影の情報網を使って、バルカニア帝国内部の動きを探り続けていた。彼は密かに帝国の情報商人やスパイと接触し、彼らから得られる断片的な情報を慎重に分析していた。その結果、いくつかの重要な手がかりを掴むことに成功した。


「アレクシス様、重要な情報を得ました。」ガブリエルが低い声で話し始めた。「帝国は、ある新たな技術を開発しているらしい。魔法を強化する兵器技術だ。これが完成すれば、我々の領地を含めた周辺国に対する圧力が一気に強まる可能性がある。」


アレクシスはその言葉に驚きを隠せなかった。「兵器技術だと?帝国が魔法を軍事的に利用しようとしているのか…それが彼らの真の狙いか。」


ガブリエルは頷き、さらに詳しく説明した。「表向きには友好関係を装っているが、裏ではその技術を利用して軍事力を強化し、領土拡大を目指している可能性が高い。我々の魔法技術もその一環として取り込まれるかもしれない。」


「なるほど、だからあれほど我々の技術に執着していたのか。」アレクシスは深く考え込んだ。


**


その夜、アレクシスは静かに夜空を見上げ、これからの行動について思いを巡らせていた。バルカニア帝国の真の意図を知った今、彼には二つの選択肢があった。一つは、帝国との関係を断ち切り、アルステア王国と共に強固な防衛策を取ること。もう一つは、あえて帝国との関係を維持し、彼らの動向を内側から監視することだ。


「これが我々の進むべき道だ…。」アレクシスは一人呟きながら、帝国の影に立ち向かうための決意を新たにした。

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