第18話 旅立ちの決意

翌朝、アムリオ領に柔らかな朝日が差し込む中、アレクシス・フォン・アムリオはいつものように早起きをして城内を歩き回っていた。彼の心は前夜の決意で固まっていた。バルカニア帝国に赴き、その動向を見極めることでアムリオ領の未来を守る。そして、万が一の場合に備え、領地の防衛も強化しておく。


アレクシスは、まずリリアに声をかけた。彼女はすでに朝の仕事に取り掛かっており、アレクシスが現れると軽く一礼した。


「リリア、準備を整えてくれ。帝国へ赴くことを決めた。」


リリアの瞳が少し驚きを帯びたが、すぐに彼女は冷静に頷いた。「かしこまりました。すぐに準備を整えますが、道中の安全を最優先に考えます。護衛はどのくらいの人数を連れて行くつもりですか?」


アレクシスは一瞬考え込んだ。「最小限の人数で行こう。あまり目立ちたくはないが、兄カイルとガブリエル、それに数人の精鋭を連れて行く。君には領地の防衛を任せたい。」


リリアは一瞬戸惑ったような表情を見せたが、すぐにその意図を理解した。「分かりました、アレクシス様。留守の間、領地の防衛を万全に整えておきます。何かあればすぐに知らせますので、どうかご無事で。」


アレクシスは微笑み、リリアの忠誠心に感謝の気持ちを込めて頷いた。「ありがとう、リリア。君がいることで安心して旅立てる。」


**


その後、アレクシスはガブリエルに呼びかけ、共に帝国へ赴くことを告げた。ガブリエルはその知らせにすぐに反応し、持ち前の冷静さを保ちながらも、警戒心を強めた。


「バルカニア帝国に直接行くというのは、かなりのリスクを伴います。だが、それを理解した上での決断なら、私はいつでも共に戦う覚悟があります。」


アレクシスは彼の言葉に頷きながら、「ありがとう、ガブリエル。君の技量を信頼している。道中は君に護衛を任せる。」


「任せてください。準備はすぐに整えます。」ガブリエルは静かにその場を去り、すぐさま準備を始めた。


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その日の夕方、アムリオ城の中庭では、旅立ちの準備が進んでいた。カイル・フォン・アムリオも完全装備で現れ、弟と再び向かい合った。


「準備は万全だ、アレクシス。お前が決めた以上、俺は全力でサポートするつもりだ。」


アレクシスは兄に感謝の意を込めて肩に手を置いた。「ありがとう、兄さん。君が一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。」


カイルは笑みを浮かべたが、その眼差しには真剣さが宿っていた。「ただし、気をつけろ。帝国は見た目以上にしたたかだ。彼らはお前を試そうとしているかもしれない。何があっても冷静に対応しろ。」


「分かっている。だが、我々はただ受け身ではなく、必要とあれば動く。」


**


そしてついに、旅立ちの日が訪れた。アレクシス、カイル、ガブリエル、そして数人の護衛は馬に乗り、アムリオ領を後にした。リリアは城のバルコニーから見送り、彼らが無事に戻ってくることを祈っていた。


アムリオ領の広大な平野を進む彼らの姿は、小さくなりながらも力強く、決意に満ちたものだった。アレクシスは、バルカニア帝国で待ち受ける未知の試練を前にして、心を引き締めた。


「この旅が、アムリオ領の未来を左右する…」


彼の胸にあるのは、領民を守り、領地の繁栄を継続させるという揺るぎない使命感だった。道中の困難がどれほどのものかはわからない。しかし、アレクシスには支える仲間たちがいる。


彼らは夕暮れの中、バルカニア帝国への道をひたすら進んでいった。

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