第17話 帝国の動きと決断の時
バルカニア帝国の不穏な動きが領地全体に広まり、アムリオ領の空気は次第に張り詰めていた。アレクシス・フォン・アムリオとカイルは領内の防衛体制を強化し、領民の避難経路を確保しながらも、戦いを避けるための外交的な対応を模索していた。
アレクシスの書斎に、リリアが急ぎ足でやってきた。
「アレクシス様、緊急の報告です。バルカニア帝国の特使、エリザベート・フォン・シュタインが再び訪れ、今度は直接面会を求めています。」
アレクシスはその報告に軽く眉をひそめたが、すぐに冷静さを取り戻し、リリアに応じた。「分かった。彼女の真意を確かめる必要があるな。会談の場を用意してくれ。」
リリアが去ると、カイルがアレクシスの元に近づいた。「帝国がこのタイミングで動くということは、もう時間の猶予はあまり残されていないということかもしれない。」
アレクシスは深く息をつき、書斎の窓から外の景色を見つめた。「ああ、彼らは何かを仕掛けてくるだろう。だが、我々もただ待つだけではなく、こちらから動くべきかもしれない。」
カイルは慎重に弟を見つめた。「それはつまり、招待に応じるということか?」
「まだ決めかねているが、直接帝国に赴けば、彼らの動きや内部事情を探ることができるかもしれない。リスクは高いが、それ以上に情報を得る価値はある。」
カイルは少し黙って考え込んだ後、頷いた。「ならば俺も一緒に行く。お前一人を危険な場所に送り込むわけにはいかない。」
アレクシスはその言葉に感謝しつつも、兄の覚悟を感じていた。「分かった。だが、今はエリザベートから話を聞く。帝国の意図が明確になれば、それに応じた対応を決めよう。」
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アムリオ城の応接室にて、アレクシスはエリザベート・フォン・シュタインと向かい合っていた。彼女はバルカニア帝国の高官として冷静かつ洗練された態度を崩さないが、その目にはどこか鋭い光が宿っていた。
「アレクシス様、帝国は貴方との友好関係をより強固なものにしたいと考えております。今回のご招待を再度検討していただければ、我が皇帝陛下も非常に喜ばれることでしょう。」
エリザベートの口調は丁寧でありながら、どこか含みを持っていた。アレクシスはその意図を探りながら、慎重に答えた。
「帝国からのご招待はありがたく受け止めておりますが、私たちには領地の安全を守る責任があります。貴国の動きが、領地や民に対して脅威をもたらすものではないかと懸念しています。」
エリザベートは微笑みを浮かべつつも、すぐに言葉を返した。「我々は平和と繁栄を望んでおります。帝国の軍事行動はあくまで防衛のための準備に過ぎません。アムリオ領に対する敵意など、微塵もございません。」
アレクシスは彼女の言葉を慎重に受け止めながらも、完全に信じることはできなかった。「その平和と繁栄が本物であれば、私たちも貴国と協力することに異論はありません。しかし、互いの信頼が深まるまでには時間が必要です。」
エリザベートはその返答に満足したように見え、軽く頷いた。「その通りです、アレクシス様。我々は時間をかけてでも、貴方と領地の発展に協力したいと考えています。皇帝陛下もそのお心を強くお持ちです。」
会談は形式的なものに終わったが、アレクシスは彼女の微妙な言葉遣いや態度に、帝国の真意を感じ取っていた。バルカニアはただの友好を求めているのではなく、アムリオ領の技術や繁栄を取り込もうとしている。
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エリザベートとの会談が終わり、アレクシスは再び兄カイルと共に戦略を練っていた。カイルは、彼女の言葉に対してあまりにも警戒心を募らせていた。
「アレクシス、あの女は信用ならない。帝国が戦わずして我々を支配しようとしているのは明らかだ。俺はこのまま様子を見るべきだとは思わない。」
アレクシスは考え込んだ末に答えた。「確かに、彼らの目的はただの友好ではないだろう。だが、無駄に戦火を巻き起こすことは避けたい。ここで急に動けば、民を危険に晒すことにもなる。」
カイルは口元を引き締めたが、弟の判断を尊重していた。「ならば、少なくとも帝国に赴く準備はしておくんだ。俺も一緒に行くことになる。」
アレクシスは頷き、兄の覚悟に感謝を示した。「分かった。だが、今はもう少し情報を集め、慎重に判断しよう。」
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その夜、アレクシスは眠れぬままに考え続けていた。バルカニア帝国の脅威は日に日に増しており、彼自身も戦いを避けられない現実に直面しつつあった。しかし、戦争が起これば領民や領地が犠牲になる。
「どんな決断を下せば、最も多くの命を守れるのだろうか…」
彼は父が不在の中、次期侯爵としての重責を痛感していた。だが、彼にはカイルという兄がいる。そして、ガブリエルやリリア、そして領民たちも彼を信頼している。彼はその期待に応えなければならないと、強い決意を胸に秘めた。
「最善の道を見つけ出す…それが私の役目だ。」
アレクシスは心の中でそう誓い、夜空を見上げた。星々は静かに輝き、彼の前に広がる未来の道を照らしているかのようだった。
そして、朝が訪れると共に、新たな決断の時が迫っていた。
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