第8話 新たなる役職

翌朝、アレクシスはガブリエルとリリアを伴い、王宮の書簡室に招かれていた。国王ヴァルターからの指示で、新たな役職を与えられることになっていた。アレクシスは心を落ち着けつつも、胸の内ではこれからの大きな責務に対する期待が高まっていた。


「アレクシス様、いよいよですね。陛下がどのような役職をお与えになるのか、私も興味があります」


ガブリエルが冷静な声でそう言うが、その顔には微かな緊張が漂っていた。彼もまた、この瞬間がアレクシスの人生にとって重大なものになることを理解しているのだ。


「心配するな、ガブリエル。どんな役職であれ、私が目指す改革には変わりない。むしろ、これを機にさらに多くのことを成し遂げられるだろう」


アレクシスは落ち着いて答えたが、その目には確かな自信が宿っていた。彼の持つ前世の知識と、この世界の魔法を組み合わせれば、いかなる難題も克服できるはずだった。


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王宮の謁見室に到着すると、国王ヴァルターはすでにその場に待っていた。彼はアレクシスを見るなり、穏やかな笑顔を浮かべた。


「アレクシス、早速だが君に伝えたいことがある。昨夜の夕食会でも話したが、君には我が国のさらなる発展のために尽力してもらいたいと思っている。そこで、君には新しい役職を任命することにした」


アレクシスは国王の言葉を静かに聞きながら、次の展開に耳を傾けた。彼の胸の中では、新たな役職がどのようなものかという期待と緊張が交錯していた。


「君を『国家商業大臣』として任命する。この役職は、我が国の商業政策を統括し、国全体の経済発展を促進するための重要な役目だ」


アレクシスは一瞬驚き、その後に笑みを浮かべた。この役職こそ、彼が目指していた商業改革を国全体に広めるための最適なポジションだった。商業大臣として、彼の知識と経験を最大限に活かし、国全体の経済構造を刷新することができる。


「陛下、このような重要な役職をお任せいただき、誠に光栄です。私は全力を尽くしてアルステア王国の繁栄に貢献いたします」


アレクシスは深々と頭を下げた。


「期待しているぞ、アレクシス。君の手腕が王国をどれほど変革するか、楽しみだ」


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その後、アレクシスは国家商業大臣としての初仕事に取りかかった。まずは商業ギルドとの関係を強化し、全国に統一した貿易ネットワークを構築することが急務だと考えた。これにより、各領地間の物資の流通がスムーズになり、経済の停滞を防ぐことができる。


「リリア、まずは各地の商業ギルドに通達を出してほしい。新たな商業政策について協議するため、代表者を集める必要がある」


「かしこまりました、アレクシス様。すぐに手配いたします」


リリアは素早く準備に取り掛かり、アレクシスの指示に従って全国の商業ギルドへ通達を出した。彼女の手際の良さは、アレクシスにとって大きな助けとなっている。


「ガブリエル、君には今回の改革の裏側をしっかりと把握してもらいたい。私が進める政策が、どのように国の財政に影響を与えるか、常に確認してくれ」


「承知しました。私も財務管理を徹底し、改革が順調に進むよう全力を尽くします」


ガブリエルもまた、冷静な表情でアレクシスに応えた。彼は優れた頭脳を持ち、財務面でのサポートを確実に行うことができる。アレクシスはその信頼に応えつつ、さらに計画を具体化していった。


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数日後、王都ルーヴァスに各地の商業ギルドの代表者が集まった。彼らはアレクシスが打ち出した商業改革案に対して、期待と不安の入り混じった表情を浮かべていた。アレクシスは壇上に立ち、集まった代表者たちに語りかけた。


「諸君、私はこのアルステア王国の商業を根本から改革し、全ての商人が公平な競争の中で成長できる環境を整えるつもりだ。新たな貿易ルートの開拓や、物資の流通を効率化するためのネットワークを構築する。その結果、全ての商人が利益を得ることができるだろう」


その言葉に会場は静まり返った。商業の中央集権化は、利害対立を生む可能性があるが、同時に大きな利益をもたらすこともできる。しかし、アレクシスはそのリスクを熟知しており、既にその解決策を考えていた。


「もちろん、改革には時間と協力が必要だ。だが、私は全員が恩恵を受けられるようにするため、透明性のある政策を進めていく。どうか、私と共に新たな商業の時代を作り上げてほしい」


アレクシスの言葉に、少しずつ賛同の声が上がり始めた。商業ギルドの代表者たちも次第にその熱意に共鳴し、協力の意志を示した。彼らにとっても、アレクシスの革新的なビジョンは魅力的だったのだ。


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その夜、アレクシスは王宮に戻り、書斎で次なるステップを練っていた。彼の改革は順調に進んでいたが、次なる目標はもっと大きなものだった。


「今度は、国境を越えた貿易に着手する時が来たな。隣国との協定を結び、より広範な経済圏を形成することで、この王国は世界の中心に立つことができる」


アレクシスは遠くを見つめながら、次の手を考え始めた。彼の目指す先は、アルステア王国を超え、世界全体に影響を与える経済的覇権だった。

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