第5話 王都到着

王都への旅路は順調に進み、アレクシス一行はついにその壮麗な城壁が視界に入る地点までやって来た。王都は広大な領地の中でも特に栄えており、高い城壁に囲まれた街並みは美しく整備されている。人々は行き交い、活気に満ちた市場や商店街の光景が広がっていた。


「これが王都……さすがは王国の中心地だな」


アレクシスは窓からその景色を見つめ、感嘆の声を漏らした。この街は彼が育った領地とは全く異なり、より高度な文明と豊かな文化が花開いていた。だが彼にとって、この街の魅力はそれだけではなかった。ここでの改革が成功すれば、国全体、さらには世界にまで影響を与える可能性がある。


「アレクシス様、間もなく王宮の門に到着します」


ガブリエルの言葉にアレクシスは頷き、気を引き締めた。ここからが本番だ。これまで培ってきた知識と策略を駆使し、王宮での交渉に臨まなければならない。王都の中心部に近づくにつれ、通りの人々の視線が彼らの一行に集まっているのを感じた。


「アレクシス様、あちらの方々はきっと、王宮への使者だと思っているのでしょう」


リリアがアレクシスに囁いた。彼女はいつものように優雅な立ち居振る舞いで護衛の役割を果たしつつ、警戒を怠らない。彼女の美貌も相まって、通行人の注目は一層強まっているようだった。


「注目されるのは悪くない。だが、油断は禁物だ」


アレクシスは冷静に答えながら、王宮の巨大な門が開かれるのを待っていた。そしてついに、一行は王宮の広場へと足を踏み入れた。


**


広場に立つと、迎えの従者たちが一行を出迎え、案内役がすぐに駆け寄ってきた。


「侯爵家のご子息、アレクシス様ですね。国王陛下がお待ちしております。どうぞ、王宮の謁見室へお越しください」


アレクシスは軽く頷き、案内に従って王宮内部へと足を進めた。王宮の内部は広大で豪奢な装飾が施されており、歴代の王や貴族たちの肖像画が壁に飾られていた。その壮麗さに一瞬目を奪われたが、アレクシスは冷静さを保ち、目的を見失わないように意識を集中させた。


謁見室の前に着いたとき、王宮の重厚な扉がゆっくりと開かれた。その向こうには、玉座に座る国王と、彼を囲む大臣たちが待っていた。王の目は鋭く、彼の年齢以上に知性と威厳を感じさせるものだった。アレクシスは一瞬のうちに、この男がただの象徴的な存在ではなく、実際に国を動かしている支配者であることを理解した。


「ようこそ、侯爵家のアレクシス。わしの耳には、君の領地での改革が届いておる。特に商業ギルドの設立は目覚ましい成果だ」


国王はアレクシスを鋭く見据えながら言葉を続けた。その視線に圧倒されそうになる者もいただろうが、アレクシスは微動だにしなかった。


「陛下、光栄です。私の目指す改革は、ただ私の領地だけでなく、この国全体、さらには世界にまで広げるべきだと考えています。商業ギルドの設立はその第一歩に過ぎません」


アレクシスは堂々とした口調で応じた。自信に満ちたその言葉に、周囲の大臣たちはざわめき始めた。10歳の少年とは思えぬ風格と知識に、彼らは驚きを隠せなかったのだ。


「ふむ……国全体に広げると申したか」


国王は少し微笑み、興味深げにアレクシスを見つめた。彼がここまでの規模で物事を考えていることに、国王もまた新たな可能性を感じているようだった。


「よろしい。アレクシスよ、君の提案を聞こう。国を豊かにするための計画を話してもらおうではないか」


アレクシスは深く頷き、前に進み出た。そして、王国の未来を変革するための壮大な構想を語り始めた。


**


「まず、商業ギルドの役割を王都に拡大し、統一された市場の整備を進めます。これにより、国全体の商業活動が効率化され、各地の産物や技術が流通しやすくなるでしょう。さらに、税制を改正し、商人たちにとって取引がしやすい環境を整える必要があります」


アレクシスの説明は簡潔でありながらも具体的だった。前世の知識を活かし、彼は経済の原理をこの世界に適用しようとしていた。周囲の大臣たちはますます彼に引き込まれ、真剣な表情で聞き入っていた。


「そして、王国全体でインフラを整備します。主要な街道を舗装し、新たな交易路を開拓することで、商業だけでなく軍事面でも優位に立つことができます。これにより、外敵の侵入も防ぎ、国全体の防衛力を強化するのです」


この提案に国王の目がさらに鋭く光った。国の経済だけでなく、軍事的な視点からも改革を進めようとしているアレクシスの考えは、国王にとっても魅力的なものであった。


「若いのに、よくここまで考えたものだな。わしも長年、この国を治めてきたが、君のような視点を持つ者には会ったことがない」


国王は満足そうに微笑んだ。そして、隣に控えていた宰相が一歩前に出てきた。


「陛下、アレクシス様の提案は非常に興味深いものです。しかし、これほどの大改革には相当な時間と資金が必要です。まずは小規模な実験として、一つの地域で試してみるのはいかがでしょう?」


宰相の言葉に、アレクシスはすぐに応じた。


「もちろん、宰相様のおっしゃる通りです。まずは私の領地を実験台とし、成功を収めた後、王都や他の地域に展開していくのが現実的です」


その冷静な対応に、宰相も納得の様子だった。


「では、アレクシス。まずは君の領地での改革を継続し、その成果を見せてもらおう。それが成功すれば、次なる段階に進むことを約束しよう」


国王はそう言い、アレクシスに目を向けた。アレクシスは深々と頭を下げ、王宮を去るために退室した。


**


その日の夜、アレクシスは王宮の一室で窓の外を眺めていた。王都の夜景は美しく輝き、その光景に彼の心は一層奮い立った。


「これで第一歩だ。次は、王国全体を変えるための動きに入る」


アレクシスの胸には、さらに大きな改革への意欲が燃え上がっていた。王都での成功は、彼が目指す壮大な未来


への足がかりとなるのだ。彼はすでに、次なる一手を考え始めていた。

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