第4話 王都への旅路
アレクシスが王都へ向かう準備を整えたのは数日後だった。彼の周りには、信頼できる部下や護衛が同行し、ガブリエルもその一員だった。王国からの招待は名誉であり、また絶好の機会でもある。王都での成功は、彼の改革を国全体へ波及させる重要なステップとなるだろう。
「王都は遠い。旅には少し時間がかかるが、到着次第、まずは王宮の動きを把握する必要がある」
アレクシスは旅立ちの前夜、自室で地図を広げながら考えていた。彼にとってこの旅はただの儀礼ではなく、国全体の運命を左右する重要な機会だ。王国に入り込み、実権を握るためには、まず誰が味方で誰が敵かを見極めなければならない。
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馬車に乗り込んだアレクシスは、領地の城門をくぐると、ふと窓の外に目をやった。そこには見送りに来ている領民たちが手を振り、アレクシスの無事を祈っていた。農業改革や商人ギルドの設立が進み始めたことで、領民たちは少しずつ彼の手腕に信頼を寄せるようになっていたのだ。
「アレクシス様、気をつけて!」
「王都でもその才能を存分に発揮してください!」
そんな声が飛び交う中、アレクシスは微笑んで手を振り返した。そして、ゆっくりと王都への旅が始まった。
旅路は平坦ではなく、山岳地帯や密林を通る必要があった。ガブリエルが警戒を強め、護衛たちも目を光らせていた。アレクシスも旅中の安全を確保するため、時折魔法で周囲の気配を探っていた。
「問題はないか、ガブリエル?」
「はい、アレクシス様。今のところ山賊などの動きは見当たりません」
ガブリエルが報告する一方で、アレクシスは魔力の感覚を研ぎ澄まし、周囲の動向を常に探っていた。異世界の魔法は彼にとって既に手中にあり、その強大な力を駆使することで、どんな危機にも対応できる自信があった。
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旅の途中、彼らはある小さな村に立ち寄ることにした。この村は領地を出てすぐの辺境にあり、アレクシスにとっても未知の場所だった。村の入口に着いたとき、アレクシスはすぐに異常な気配を感じ取った。
「何かがおかしい……」
彼は馬車を止めさせ、村の様子を確認するために歩み出した。村は静まり返っており、人影が見当たらない。アレクシスの直感が何か危険なものが潜んでいることを告げていた。
「ガブリエル、警戒を強めてくれ。この村、ただ事ではない」
ガブリエルは即座に部下たちに指示を出し、周囲を調査させた。しばらくすると、部下の一人が慌てて戻ってきた。
「アレクシス様、村の中央に……奇妙な魔法陣が描かれております!しかも、人が集まっていますが、皆一様に無表情で……何かに操られているようです!」
その報告を聞いた瞬間、アレクシスは確信した。これは何らかの呪術か、あるいは闇魔法によるものだ。すぐに状況を確認し、対処する必要があった。
「行こう。何者が関わっているかはわからないが、村人たちを解放する」
アレクシスは護衛を引き連れ、村の中央へと向かった。そこには古びた石で描かれた魔法陣があり、その上に何十人もの村人が並んでいた。彼らは無表情で立ち尽くし、何かを待っているかのようだった。
「これは……」
アレクシスが魔法陣を見つめた瞬間、その中心から黒い霧が立ち上り、異様な魔力が渦を巻き始めた。その霧の中から、不気味な笑い声が響いた。
「ほほう……こんなところに、面白そうな餌がいるとはな」
霧の中から姿を現したのは、痩せた老人の姿をした魔法使いだった。彼の目は狂気に満ちており、その手には漆黒の杖が握られていた。
「貴様、何をしている!?」
アレクシスは厳しい声で問い詰めたが、老人は不敵に笑うだけだった。
「我が力を試すためにな、この村を使って実験しているだけだよ。お前のような小僧が来るとは思わなかったが、まあいい。新たな犠牲者が増えるのもまた一興だ」
アレクシスは瞬時に判断を下した。この老人は強力な闇魔法使いであり、村人たちを操っているのは彼の呪いによるものだ。対処を誤れば、村全体が滅びかねない。
「ならば、ここで止めるしかない」
アレクシスは杖を構え、魔力を集中させた。彼の中で魔法の力が渦巻き、異世界の魔法使いとしての強大な力が目覚める。老人の笑い声は、すぐに驚愕へと変わった。
「な、何だと……!?この小僧、こんな強大な魔力を……!」
アレクシスは冷静に老人を見据え、一瞬の隙をついて魔法を発動させた。彼の手から放たれた光の刃が、老人の闇の魔法陣を粉砕し、その場にいた村人たちは次々と解放されていった。
「ぐっ……貴様……!」
老人は驚愕しながら後退し、最終的に闇の中へと消えていった。しかし、彼の呪いは完全には解けていないようで、まだ村には残り香が漂っていた。
「この村は……まだ危険だ」
アレクシスは周囲を見回しながら、村を完全に浄化するために再び魔法を発動させた。光の波が村全体を包み込み、残された闇の力を消し去った。ようやく、村は再び平穏を取り戻したのだった。
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「アレクシス様、村人たちが目を覚まし始めました!」
護衛の一人が喜びながら報告し、村の人々はアレクシスに感謝の意を示した。彼らは魔法使いに操られていたことに気づかず、すっかり呪いに囚われていたのだ。
「ありがとうございます、アレクシス様。命を救っていただき、どうかお礼をさせてください!」
村の長老が深々と頭を下げたが、アレクシスは軽く首を振り、微笑んだ。
「気にすることはない。領民を守るのは私の務めだ」
その言葉に、村人たちはさらに感謝の念を深めた。アレクシスはただの貴族の子供ではなく、領民一人ひとりを大切にする真の指導者としての姿を見せつけたのだ。
「さあ、我々はまだ旅を続けなければならない」
アレクシスはガブリエルと共に旅を再開し、王都への道を進んでいった。彼の心は既に次の挑戦に向けられていた。王都での改革と、そしてさらに大きな影響力を持つために――。
「王都で待ち受けるものが何であれ、私は必ず道を切り拓いてみせる」
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