第3話 商人ギルド設立への第一歩

アレクシスの商業改革の提案が了承されてから数日が経過した。領地内では徐々に新しい風が吹き始め、農業改革に続く商業発展への準備が進められていた。アレクシスはまず、領内の有力な商人たちを一堂に集め、商人ギルド設立のための会合を開くことにした。


「商人ギルドの設立は、この領地の繁栄にとって必要不可欠なものです」


会合が始まると、アレクシスは堂々とその理由を説明した。彼の言葉には、自信と冷静さが感じられた。10歳の少年が話しているとは思えないほど理論的で、明確なビジョンを持った提案だった。


「ギルドの設立によって、商人たちの利益を守りながら、交易のルールを確立します。加えて、私たちは新しい市場を創り出し、領地外の他国とも取引を拡大できるでしょう。これは我々にとって大きな利益を生み出すはずです」


商人たちはアレクシスの提案に耳を傾け、その考えの深さに感銘を受けていた。多くの商人たちはこれまで個別に取引を行ってきたが、統一されたギルドがあれば、より大規模な取引が可能となり、彼ら自身の利益も大きくなると理解した。


「ですが、アレクシス様……ギルドの運営には相当な資金が必要です。我々の商売の資金が不足するのでは?」


一人の老商人が慎重な態度で尋ねた。ギルドを作り、交易路を開拓するには、莫大な初期投資が必要であることは事実だ。それに対する不安は拭いきれなかった。


アレクシスは微笑みながら頷き、前もって考えていた対策を口にした。


「その点は心配ありません。資金の一部は、私が個人的に提供します。また、余剰資金を確保するための融資制度を設け、ギルドが長期的に利益を生み出す体制を作り上げます。さらに、ギルドの一員として加入した商人には、一定の税制優遇を与えるつもりです」


その言葉に商人たちは一様に驚き、互いに顔を見合わせた。侯爵家の息子が自らの資金を投入し、さらに商人たちに有利な条件を提供するというのは、極めて破格の提案だった。アレクシスの本気度が伝わり、その場の空気は一気に熱気を帯びていった。


「アレクシス様、我々も全力で協力させていただきます!」


商人たちは次々と賛同の意を示し、商人ギルドの設立に向けて動き出すことが決まった。アレクシスは成功への手応えを感じながらも、次のステップをすぐに見据えていた。このギルドを確立させることができれば、領地の経済は一気に活性化するはずだ。そしてそれは、国全体にも大きな影響を与える。


**


数日後、商人ギルドの設立が正式に宣言された。アレクシスの計画通り、ギルドは商人たちの利益を守り、交易を促進するための基盤となりつつあった。また、ギルド内では商人同士の情報共有が行われるようになり、より効率的に取引を行うための知恵が集約されていった。


さらに、アレクシスは交易の拡大に伴い、他国との交渉にも乗り出す準備を始めていた。彼の目標は、自らの領地を国の経済の中心地にすることだった。そのためには、外部の資源や技術を導入し、領地全体の産業を発展させる必要がある。


**


アレクシスは書斎で、新しい交易ルートの図面を広げていた。彼の隣には、領地の優秀な参謀であるガブリエルが控えていた。ガブリエルはアレクシスの才能を認め、いつもその計画に従いながらも、必要な助言を与える重要な存在だ。


「アレクシス様、交易ルートの候補地としてはこの山岳地帯を避けるべきかと。山賊の危険性が高まっています」


「確かに、リスクはある。しかし、ここを通ることで他国との交易が飛躍的に拡大する。利益を優先するべきだと考えている」


アレクシスは迷いなく応え、冷静にリスクとリターンを天秤にかけていた。ガブリエルもその判断に納得し、地図に印をつけた。


「分かりました。では、警備隊を増強し、危険地帯を通る際の対策を講じましょう」


二人の話し合いが進む中、ふとドアがノックされた。入ってきたのはリリアだった。彼女は少し緊張した表情で、アレクシスに報告を伝えた。


「アレクシス様、王宮から使者が参りました。急ぎ、貴方に謁見を求めております」


「王宮から?」


アレクシスは驚きつつも、すぐに心を落ち着かせた。彼の領地改革が王国全体に注目され始めたことは理解していたが、これほど早く反応があるとは予想していなかった。


「わかった。すぐに準備する」


彼はリリアに微笑んで応えると、ガブリエルと共に会議室に向かう準備を整えた。


**


王宮からの使者が到着したのは夕刻だった。豪華な装いの騎士が、アレクシスの前に姿を現し、深々と頭を下げた。


「侯爵家のアレクシス様、王国はあなたの手腕に大いなる関心を寄せております。特に、商人ギルド設立の動きが国王陛下の耳に入ったのです。国王陛下からの正式な招待を受け、王都にて改革についてのご相談をしたいとのことです」


アレクシスは静かに頷いた。彼の予想通り、王国の目が彼に向けられ始めたのだ。これはチャンスだ。王国の中枢に影響力を及ぼすことで、さらに大きな改革を進められる可能性が広がる。


「お受けしましょう。近日中に王都へ参ります」


使者が去った後、アレクシスは深呼吸をした。王都への招待は、ただの商業発展の話では終わらない。彼は次の段階で、国全体を変革するための準備を始めていた。


「さあ、これでいよいよ本格的に動き出す。王国の未来をも変えるために――」


アレクシスの瞳は、遠く王都を見据えながら、次なる一手を練り始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る