〜休憩〜 島﨑聖斗の独り言
どーも。
俺、
向こうがどう思ってるかはわかんないけど、一応神田の親友やらせてもらってます。
俺がここで一番言いたいのは、俺の親友は「超すげぇ」ってこと。
顔良し、人柄良し、そんでもって頭も良い。…馬鹿で鈍い俺からしたら、マジで自慢の親友で。しかも本人は、それを長所とすら認識してない。
俺の親友…人格者過ぎるでしょ。
…あいつと出会った時の衝撃は、そりゃあもう、すごかった。
俺の中にあった「男は顔か性格のどちらかしか恵まれない」っていうド偏見を鮮やかに覆してくれたのが、神田だった。
入学式の日、クラス発表があるだろ?
俺、中学の時から朝が苦手でさ。高校入学の日もやっぱりギリギリになって、学校についた頃には張り出された紙の前に大勢の人だかりができていた。
学校には着いてるし、人が捌けてからで良いか〜、なんて思って、校門の辺りで暫くその人の群れを眺めていたら、ふと、あいつと目があった。
そしたらなんとあいつは、目が合うなりこっちに駆け寄ってきたんだ。
「あの、クラス確認、まだだよね…?」
「え、ああ、まあ…」
驚いた。あいつは割と人混みの外側にいたが、それでももう少しで前に出られそうな所にいたんだ。大人しく順番を待ってりゃ良かったのに。
俺の所に来たあいつは、少し申し訳なさそうに、苦笑いを浮かべて頼み事をした。
「僕もあんまり背が高くないから、ちゃんと確認できてなくて…。良かったら一緒に確かめに行ってくれる…?」
「…良いぞ」
返事は自然と口を突いて出た。
生徒の群れに戻る頃には、保護者たちもだいぶいなくなっていて、遠巻きからでも見えるくらいにはマシになっていた。
「…あった」
俺とあいつは同じクラスだった。
1年5組。紙は一番端に貼られていて、2人の名前は隣り合って並んでいた。
「…一緒のクラスだな!」
そう言って心底嬉しそうに笑ったあいつの顔を、今でもはっきりと覚えてる。
「よろしく。島﨑」
「えっと…」
「神田美吹」
「…ああ。よろしくな、神田」
こうして最初に友達になったのは神田だった。
でも。ふと、俺は謎に思い当たる。
どうしてこいつは、初対面の俺の名字が自分の隣に並んでいると分かったのだろう。
そして5組の名簿なら、あの距離で、あいつの身長でも見えたはずだ。
「…なあ、本当は見えてたんじゃねえの?」
俺は率直に尋ねた。するとあいつはくるりと振り返って、小さな悪戯がばれた子供のような顔をした。
「…あはは、やっぱりばれたか。実は…見えてたよ」
俺は一瞬でこいつを見放した。
初対面から嘘を吐くとは。
文字通りの端正な顔に優男という皮を被っておきながら、やっぱり顔がいいと中身は最悪なんだ。
あの笑顔への不思議な感情を返してほしいとさえ思った。
「じゃあなんで…」
「島﨑が一人でいるのを、見過ごせなかったから」
至極当然のように真面目な顔で言うこいつが腹立たしくなってきた。
入学式早々、最悪な気分だ。
あいつはそのまま、それにね、と意気揚々と続ける。
「島﨑は気づかなかったかもしれないけど…僕ら、電車一緒なんだ。今日の朝、島﨑が人に席を譲るところを見かけてさ。素直に尊敬したんだ」
目を輝かせて話すあいつに、俺はまた不思議な気持ちになった。
嘘偽りのない、無垢な瞳で、あんなに自分を褒められたのは初めてだった。お世辞じゃないことはあいつの目が十分過ぎるほどに語っていた。
「さっきだって人が捌けるまで待ってたんだろ?遅刻するかもしれないのに…。そしたらさ、僕の中で『こいつと仲良くならないと一生損する』って思って。…普段、自分から人に話しかけに行くようなタイプじゃないんだけど、いやぁ…話しかけてよかった!人違いだったらどうしようかと思った…」
「じゃあ…俺の名前は、」
先程まで膨らんでいた怒りはとうに消え失せてしまった。
「あ、それはね…」
少し照れたように笑い、小さな声で教えてくれた。
「名札…電車の時に、一瞬だけ見えたんだ。下の名前は分からなかったけど、もしかしたらって。そう思って確認したら本当にそうだったから、良かったよ。もし違うクラスだったにせよ、一回は話してみたいな〜って思ってたから。」
そして俺の目を真っ直ぐに見つめて、あいつはもう一つ言葉を紡いだ。
「騙す形になったことは謝る。申し訳ない。けどな…久しぶりに、誰かに話したいって思わせてくれた島﨑には、すごく、すごく感謝してるんだ。だから…島﨑とは、友達になりたい」
清々しい笑顔で、あいつは俺に笑いかけてくれた。
「一人でいるのが見過ごせなかったから」というあいつの言葉の重みが変わった。
あいつは…俺の心の中に、大きな春風を巻き起こしたんだ。
そこから俺達はいつも一緒。
あいつは、クラスではほとんど俺以外とは話さないし、女子と最低限の会話以外で話している所は一度も見たことがない。神田曰く「恋愛とは今のところ距離を置いている」らしく、何か事情があるのだろうが、俺はあえて触れない。
あの時の神田の言葉を、俺は「恋愛封印宣言」と呼んでいる。
あとほんの時々、神田は様子がおかしくなることがある。
この前も、俺が話していたら突然「用事を思い出したから帰る」と慌てて帰った。体の調子が狂うのか、らしくない行動に出たりすることがあるのだ。
妙に勘が鋭い時もある。
俺がひた隠しにし続けていた「宮瀬さんの事を慕っている」ということを、見事に言い当てられてしまった。
…まったく、抜けてんだかしっかりしてんだか、分かんない奴だ。
それでも、神田美吹が俺にとって最高の心友であることに変わりはない。
あいつは自分の事を大事にしない節がある。縁の下の力持ちを、さらに支える人のような奴。自分より人。…典型的な善人だ。
けど、あいつばかりが苦労を背負うのは違うと思う。
だから…どんな時も、俺は神田の味方でいてやるんだ。
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