第四話 外遊・博覧会・偶然

 せっかく父から領主を継いだからには、他の地主達に遅れを取らない為にも、積極的に領地の改革を進めなければならない。


 しかし、領地の改革を進めるには、やはりアイデアが必要だ。


 そこで、他の地主達の政策や改革を参考にしてみようとした。


しかし、どれも非常に保守的で、先進性に欠ける物だった。

 

 保守的な事が必ずしも悪い訳ではないのだが、我が国は他の強国に比べて、あまりにも脆弱過ぎる。

それに、我が領の属するジェーンハイゼンは地域大国の一つなのだ。

 「近隣諸国同士のパワーバランスを保つ」、「大戦争を防ぐ」という重要な任務のある、地域大国という位にジェーンハイゼンが位置するからには、やはり我が領地も強くなければいけないのだ。

 

 私は本当は急進的な改革はあまり好きではないが、しかし、そんな事を言っていられないほどに、我が国や我が領地は、余りにも他国と比べ、遅れ過ぎているのだ。

 このままではジェーンハイゼンが地域大国の座から引きずり降ろされかねない。

 これは、痛みを伴う改革もやはり必要であろう。

 

 私は、それならば、いっそのこと外国を参考にしようと考えた。

 そこで私が目を付けたのは、グレート・コーストランドだ。

 

 なんとこの国は、50年前から既に

  "今の我が国全体の5倍もの経済規模" を有しており

 飛び杼や紡績機、蒸気機関などの様々な革新的な技術の発明によって、所謂ところの"産業革命"をリードし、世界の工場とまで言われるほどに発展した国だ。


 今でも経済規模の差は開き続けており、現在は我が国全体の8倍の経済規模まで発展している、いわば"超大国"である。


まさに我が国が手本とするべき国である。

 

 そこで私はグレート・コーストランドの進んだ知識を取り入れるべく、翌年その国で開かれる国際大博覧会を外遊として見学してみる事にした。


 また、日頃の感謝も込めて父も誘ってみることにした。


 -翌年-

   グレート・コーストランド国際大博覧会会場


 まず始めに、この国の工業製品のブースを見る事にした。


 並んでいるのはこの国の新型の力織機や後装式ライフル砲、それに新型の蒸気機関車の展示まであった。


 また、驚いたのは、各展示ブースを繋ぐ高架鉄道だ。

 ただ博覧会を開くためだけに、これほど大掛かりな鉄道を整備するのは、さすがこの国の財力だ。

 しかもこの高架鉄道は電気で動く。

 我が国ではまだ電気鉄道はできていない。


 私はこの国の進んだ技術と余裕にとてもショックを受けたが、やはり父もかなりショックを受けている様子だった。

 

 すごいなルドルフ、想像以上にこの国の工業は凄まじいもなのだな。これは戦争になればきっと我が国は手も足も出ないぞ。

 ルドルフ、なんだかメゲてしまいそうだよ。

 今更だが、我が国は遅れていたんだな。


 父がこんな事を言うのは初めて見た。

 

 父さん、これからどうしたらいいのかな?


 これはもう急進的な改革をする他にないんじゃないか?

 私もお前と同じで急進的な改革があまり好きではないが、これを見て考えが変わったよ。


 どの展示ブースに行っても驚かされる、どの展示物も興味深く、それに展示物の数も多い。これはとてもじゃないが1日かけても回りきれない。どんなに早いペースで見学しても、全て見学するのに2週間はかかるだろう。


 弾丸旅行のため、明日には大陸に帰るので、博覧会の展示物を全て見る事ができなかったのは、非常に残念だ。


 あっという間に博覧会は閉館時間になった。

 今日の宿は博覧会会場に併設されているホテルだ。

 

そこで、事件が起きた。


-ホテルにて-


 なんて狭くて汚い部屋だ!

 ゴミも散らかっているし、まともにベッドメイキングもされてないしゃないか!

 見本とあまりにも違い過ぎるぞ!

 部屋を間違えのだと思い、もう一度部屋の外に出て、部屋番号を確認すると、やはり部屋番号は合っている。


 しかし、あることに気が着いた。

 

 これ、最上級室と3等室のマークを入れ替えただけではないか!

 フロントに完全に騙された!

 

 これはさすがにフロントに文句を言う事にした。


 最上級室を予約したはずじゃないですか!料金だって支払ったんですよ!余りにも見本と違い過ぎますし、これはれっきとした詐欺ですよ!

  

 ルドルフ、あまり興奮するな。


 父が仲裁に入るが、父も穏やかにこう言った。


 我々は最上級室の料金をしっかり払っています。さすがにこれはないでしょう。


 そこへ、男がやってきてフロントのスタッフに一枚の金貨差し出した。


 これでなんとかしてあげられませんかね?


 かしこまりました、ただいま最高のお部屋をご用意致します。


 スタッフが露骨に態度を変えた。


 お二人さん、危うくぼったくられるところでしたよ。


 すみません!ありがとうございます!


 目の前にカネをちらつかせりゃ、大抵の事はきいて貰えますよ旦那さん。


 これ、少ないですが感謝も込めて謝礼金です、どうぞ受け取ってください


 これはこれはスタッフに渡した金貨一枚だけで十分ですよ、残りはお二人にお返しします。

 その代わりにお尋ねしてもよろしいですか?

 失礼ですが、その身なりではそこそこ身分が高い人のように見えますし、ハイゼニアで爵位を表すバッジを付けていますが、ハイゼニアの方ですか?


 そうです、よくわかりましたね?


 実は私もハイゼニア人なんですよ。

 おっといけない、名乗るのがまだでしたね。

 私はアルベルト・シュライアーです。


 おお!あなたもハイゼニア人でしたか!

 私はルドルフ・グランセンブルクです。改めて先程はどうも。

 父のリヒャルト・グランセンブルクです。改めて先程はありがとうございます。

 

 シュライアーさんも博覧会の見学に?


 いえ、私はハイゼニアで鉄道事業の株式会社をしていまして、この国に短期留学して、進んだ鉄道建設や経営を学んでいるのです。

 まあ、私は明日のエルズターシャーの一番船で大陸に帰るのですがね、今日でこの国ともおさらばです。


 おや奇遇ですねシュライアーさん、私達も明日、大陸に帰るんですよ、しかも、同じ船で!


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