第三話 卒業・兵役・継承
それから大きな出来事も無く、半年が過ぎた。
三回目の初夏がやってきた。ついに卒業式の日だ。
初夏に卒業式とは、少し違和感を感じるが...
ついに自分も大学を卒業か、感慨深いな。
大学に合格するために必死に勉強したのが、昨日の事のように思い出される。
受験勉強中は何回過労で倒れたっけ...
それも今となってはいい思い出だ。
ちなみに卒業論文は国民国家の発展について書いた。
少しばかり私の過激な思想が混じってしまったために、教授に目を付けられ、論文を全て書き直させられそうになったが、学長が「強い愛国心によるもの、有害とは認められず。」と判断したので、ぎりぎり見逃された。
大学を卒業したとなれば、後は政治の世界に本格的に乗り込むだけだ。
だが、私には身分が必要だ。
今の所、私は大学を卒業してしまったら、父の跡を継がなければグランセンブルク選公爵領の次代領主という中途半端な身分しか残らないのからだ。
何故私に身分が必要かと言うと、父の爵位を継承しなければ上流階級の一員になれず、この国の身分制議会の貴族院代議士に立候補できないからだ。
衆議院から代議士になることもできるが、首相になるためには、王からの後ろ盾もある身分制議会の貴族院の方が、権力が強いので断然衆議院よりも有利だからだ。
しかも何より貴族院、というか貴族は王に接触しやすいし、さらに有力な貴族と人脈を築ける事が有利である。
父は10年前、一期だけ貴族院の代議士をやっていたためそのことを良く知っていて、大学卒業後の1年間の兵役が終わったら公爵の位と領地をすぐに譲ると言ってくれた。
初秋、私は兵役の義務を果たすため、ジェーンハイゼン第二擲弾兵連隊に志願した。
凍てつく寒さの中で塹壕を掘る訓練を行った事もあれば、冬の雪山で銃を撃つ訓練を行った事もある。特に冬の雪山は手が銃床に張り付くほど寒く、寒さで震えて狙いが定まらない。
60ヘーメル (およそ30キロメートル、この小説架空の単位) の距離を、70バーク(およそ35キログラム、以下同文)にもなる装備をフルに装備しながら、ほぼ休まずに雪の中を行軍する訓練も行った。
しかも目的地に着いたら地獄の模擬戦だ。
訓練が終わったら心身共に疲れ果て、宿舎で死んだように眠る。
訓練漬けの地獄の生活がこうして1年間続いた。
正直、兵役を舐めていた。
ここまで自分に体力が無かったとは。
しかしまあ、それでも時は早く流れるもので、地獄のような1年間の兵役も終わった。
私は長男(というか一人っ子)かつ貴族の息子なため、1年間だけの兵役で済んだが、平民は2年間兵役勤めるらしい。
正直、私には2年間も耐えられるかわからないな。
だから祖国を守るために訓練を重ねる常役軍人の方には本当に頭が上がらない。兵士達には感謝しなければならない。
無事兵役が終わり、久しぶりにグランセンブルクに帰ってきた。
父は変わらず元気で、私との1年振りの再会を喜んでいた。
父はその年の初秋、爵位を私に継承し、晩秋には私は正式に領主に就任した。
私は領主の仕事が、正直憂鬱である。
私は18の時、体調を崩した父の代理で、一年間領主の仕事をした事があるが、そのとき領主の仕事が本当に大変だったからだ。
近隣の領主との会合に出席したり、代理で演説をしなければならなかったり、大量の事務作業に忙殺されたりと、18歳の自分には荷が重過ぎた。
そのせいで領主の仕事の大変さが身に染みて分かってしまった。
正直、領主の仕事は不安である。自分の体力がもつかわからない。それでも、領地の仕事をしっかりとこなして、経験豊富な代議士になれるように頑張らなくては。
父に恩返しする手段は、自分の夢を叶えること。
昔、父に恩返しの仕方を聞いた時、そう言ってくれた。
父への恩に報いるため、必死に頑張らなくては。
こうして私の新しい生活が始まったのだった。
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