第5話  朝食



うぅ~ん。何だか頭がぼーっとするし、目が開かない。

まだ眠いけど、仕事に行かないと。

天気がいいなら洗濯もしてから行きたいし、はぁ。起きるか。

寝ぼけ眼でベッドから下りようとして……落ちた。


ドターン!


バタバタバタ   


ガチャ‼


「どうしたんじゃ‼」


慌てた感じのアルクさんが入ってきて、しっかりと目が覚めた。


「おはようございましゅ。寝ぼけて落ちました。大丈夫です。」


昨日あのまま泣き疲れて眠ってしまったらしい。

アルクさんのベッドだろうか、かなり大きなベッドで眠っていたようだ。

寝惚けて自分の今の大きさを見誤っていた。というか日本だと思っていた。


床に寝転がったまま朝のご挨拶。

余計な力が入っていなかったからかとても上手に落ちたようで、ベッドからの転落は恥ずかしいだけで体の痛みは ほとんどない。

アルクさんに優しく抱きかかえられたまま リビングらしき部屋へ移動する。


「昨日あのまま眠ってしまったからのぅ。お前さんに合う大きさのベッドは今日用意するからな。

さて 朝はこんなものしかないが 足りんかったら言うてくれ。」


のんびりした話し方なのに、テキパキした動きで準備を進めてくれるアルクさん。

抱っこしてた私を 背の高い子供椅子に座らせ、顔を水の塊が包みこんだと思ったら すぐなくなって、アワアワしてるうちにテーブル上に パンとミルクと少し焦げたスクランブルエッグとソーセージが並べられた。

あまりの展開に口が開いたままポケーっとしてしまっていた。


山盛りのパンに、黄色い卵の山と お肉の山を 自分の前に置いてニコニコ笑顔で座るアルクさんは、口が開いたままの私を見て少し焦ったようだ。


「どうした?やっぱり頭を打ったりしたか?痛かったり気持ち悪かったりしたか?」


今の水のこととか、この椅子のこととか、アルクさんの食事の量とかに驚いていただけだけど、先ほどの転落による痛みを心配させてしまったようだ。


「うぅん。痛みはほんとにないから大丈夫だよ。ごはんが沢山でびっくりしただけです。

ふわぁ~、おいしそう。アルクさんありがとう。いただきま~す。」


心配させないように笑顔でいただきますのごあいさつ。

アルクさんは少し心配しながらもそれなら、と一緒に朝食をいただきました。



あれだけあった山盛りの卵も お肉もパンも ペロリと平らげたアルクさんに驚きつつも、私もしっかりいただきました。ふぅ、おなかいっぱい。

ゆっくりミルクをいただきながらアルクさんを見ると、優しい眼差しで私を見ていた。


「元気になったようじゃな。よかったよかった。

さてバイオレットちゃんじゃったな。


昨日言ったが、わしはアルクという熊獣人じゃ。今はこの村で家財道具……そうじゃの、ベッドや机なんかの道具を作っておる。

嫁さんは数年前に死んでしもうて、息子は二人とも成人して冒険者として色んな所に行っておるようでな、今は一人暮らしをしとる。

この家も一人じゃと広すぎるからな。バイオレットちゃんがいてくれると寂しくなさそうじゃ。」


ニコニコしたアルクさんのお話に、あの子供への対応の慣れや、この子供椅子の存在も納得である。

ていうか もしかして昨日の夜とかでこの椅子作ってくれたの?凄くない?


「このイス、アルクさんが作ってくれたですか?とっても座りやすいです。」


背もたれのカーブとか、肘置きのすべすべ感とか椅子の安定感とか。本当に座りやすい。これがそんなにすぐにできちゃうの?


「おぉ、嬉しいの。ありがとう。わしは木魔法が得意じゃからな。小さい家具はすぐに作れるんじゃよ」


嬉しそうなアルクさんだが、なんと。キマホウとな?

マホウ? 魔法か!

そうだよ!昨日の滝のような情報の中にも魔法の情報あったよ!

朝の水は生活魔法か!


うわぁ~! 魔法少女☆じゃないですか!これぞ異世界転生‼

母からは魔法を使う前の魔力操作を教えてもらってて、実際に使うのは魔力操作が上手になってから。って言われてたから、実際に自分で魔法を使ったことはないんだよね。

この世界の人は 生活魔法は大体の人が使えて、それ以外の魔法も得意や不得意はあってもいろいろあるみたい。

ただ、聖属性と闇属性は使える人が少ないって言ってた。

母は聖属性が得意だったみたいで、冒険者をしていた時は回復役をメインでやってたみたい。あの可憐なイメージから冒険者とかって想像つかないけど、冒険者ってのも異世界あるあるだから、興味津々である。


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