第4話 私の名前


えぇっと。控えめに言っても酷い。

バイオレット人生まだ5年だけど波乱万丈が過ぎる。


パパらしき人は多分生まれてすぐ居なくなったっぽい。声しか聞こえなかったのは赤ちゃんで、まだ目が見えてなかったのかもね。

ママは美人だった。魔法を使うのが得意で、私も3歳になったからってお勉強が始まったんだった。まずは基礎からって言われて実際の使い方までは教えてもらってなかったのかな。

普通に考えれば 3歳からの勉強ってかなり早い気がするけど、日本の幼児教育を思えば英才教育をしている家庭はそんなものだったのだろうか。

私自身にそんな覚えはないけど……。


で、ママに「愛人になれ!」って付き纏っていた三拍子オヤジが領主だったみたい。

ママが死んだあと 急に家に来て拉致されたと思ったら、躾のなってないアホ娘にママから貰ったお守りを盗られて、奪い返そうとしたら階段から突き落とされた。って感じ。


あの後、アホ娘が騒いで私が死んだことにされてたみたいだけど、多分頭を強く打って気を失っていただけなんだと思う。あの言い訳もテンプレすぎて笑う。

禿デブも養子縁組とか言ってたな。

マジで捨ててくれてよかった。あんなクソみたいな奴らと家族になるとか勘弁してくださいだわ。それこそ母姉に虐められるのが目に見えてるじゃないか。


んで、執事とやら。

証拠隠滅? 隣町ならってか。

浮浪児扱いね~。で ゴミ捨て場にポイですか。

まぁ、川とか森とかに捨てられてたら気を失ったまま死んでたかもしれないから結果オーライかな。

まぁ、けど……ふふふふっ。

笑っちゃうくらい屑な人間しかいなかったな。


私の記憶がはっきりと戻ったのは あのゴミ捨て場だったけど、死んだバイオレットに憑依したとか 転生したとかではなさそう。

バイオレットとして生まれたけど、あまりのショックに日本人の大人だったらしき私が起きちゃった。という感じだろう。ということは、やっぱり日本人としての私は死んでいるようだ。


それよりこれからのことだ。

5歳の私は住んでた家から連れ去られた(養子縁組?知らんがな)

死んだと思われている方が都合はよいし、あの家には戻るわけにはいかないだろう。さて、どうしようか。



「ママ……パパも、死んじゃったの。お家もなくなっちゃったの。」


少し涙を浮かべながら、両手で持ったコップをギュッと握り、うつむき加減に少しプルプルしてみる。

まぁ、パパとやらが生きているのかどうかは知らんけど。


あざといって言わないで。

某女優さん?のあざとさに嫉妬と羨望を抱えながらも、恥ずかしさが勝り とてもじゃないが真似できなかったけれど、今は5歳!怖いものなんてないさ。ママの娘だけあって見た目は可愛いはず!使えるものは使っちゃうもんね!


「な、なんと。こんな小さな子が一人ぼっちになってしまったんか。可哀想にのぅ。

ご両親とも…うぅっ、グスっ。

なんと。つらいのぅ。

もしかして親御さんのところに行こうとして川に……うぅぅ。なんてことじゃ。」


大きな熊さんが肩を震わせながら号泣している……。

心配してしばらく庇護下においてもらいたいっていう下心満載でやったけど、思った以上に心配されてる。しかもなんか誤解されてる‼

川で流れてたのは完全に不可抗力だったんです‼ なんかごめんなさい!


「お嬢ちゃん、まだまだ小っちゃいんじゃ。グスッ。一人で生きるのは大変すぎる。わしは一人で暮らしておるからの、お嬢ちゃんが嫌じゃなければ、話し相手としてでもええ。一緒に暮らさんかの?」


アルクさん、欲しかった提案をありがとうございます!

だけど逆にいい人すぎて心配になっちゃいます。こんな幼女ですけど悪い人が後ろにいるのかもって少しは疑ってください‼

なんて思っていることは少しも顔にださず、ありがたく提案を受け入れる。


「ここに居てもいいの?ありがとう!よろしくおねがいしましゅ」


ぐっ。また嚙んだ。


「もちろんじゃ。バイオレットちゃん、これからよろしくな」


大きなアルクさんの手で頭を撫でてもらったら、自然とポロポロと大粒の涙が出てきた。

暖かい場所と温かい手。

ママが死んでもう手に入ることはないと思ってた温かさに、心がギュッと締め付けられた。あまりの急展開に5歳の心が追い付いていなかったんだと思う。


大人だったらしき私の記憶が蘇ったことで少し冷静に考えたりしてたけど、実質5歳のバイオレットの心は いっぱいいっぱいだったと思う。

アルクさんの優しさに触れて、緊張の糸が解けたんだと思う。

ママが死んでから初めてワンワン泣いた。


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