第3話  記憶




「かわいぃな~。ヴィオ~、パパでしゅよ~」

「パパ、私たちをしっかり守ってね」


デレデレの男性の声と、嬉しそうな女性の声が耳元で聞こえている。

だけど靄がかかっているようで二人の姿を見ることはできない。



「すまない。必ず迎えにくるから」

「えぇ、この子は私が護るから心配しないで。貴方も気を付けて」


辛そうな声で男性の声が聞こえ、女性が心配している雰囲気が漂う。

抱きしめられているからか、男女の姿は見えない。



「あなた方の存在が知られると……

処刑やむなしということも……

国外へ出ていただきたいのです」


目線が高くなり、扉の向こうで母が誰かと話しているのを覗き見しているようだ。途切れ途切れの言葉は男性の声で、母と思われる女性は何も話してはいない。



「今日から魔法の勉強を始めます!ママは厳しいわよ~。頑張れる人~」

「は~~~い!!!」


小さな家でピンクブロンドの髪を持つ女性が、魔法の理論について説明している。この人が母親なのだろう。魔法の勉強と言いながら、魔力の練り方、体内での魔力の動かし方、魔力の感知の仕方など、地味な作業を繰り返し行っている。



「これはパパからもらったお守りよ。肌身離さず持っていなさい。

愛してるわ。ヴィオ」

「ママ~~~~‼‼‼うわぁ~ん」


小さな頃から 一所には留まらず、転々としていた親子は、薬師としての腕を買われ とある子爵領に店を構えた。

しかし 親子に訪れた 束の間の平穏は侵され、母が暴漢に襲われて殺された。目の前で母が殺されたところで、少女の心はズタボロになってしまったようである。



「一人で子供が暮らすのは大変だろう。さぁ、わが家へ来なさい」


チビ・ハゲ・デブの三拍子が揃った男が現れ、少女の手を引き連れて行く。これは誘拐と何が違うのだろうか。



「あなた、平民なんでしょ?

まぁ、ネックレスなんて生意気ね!私がつけた方が素敵だわ。寄こしなさい。」

「やめて!これはママにもらったものなの!」

「誰にモノを言っているのか分かっているの!?  もう!放しなさいよ!」

「きゃっ!」


ゴロゴロゴロ……ダダン!!!


「キャーーーーーー!ちょっ、ちょっと誰か来て!」

「エーロス、どうした!? ……こ、これはどうしたんだ」

「パパ!違うの!この子が勝手に階段から落ちたのよ。」

「う~ん。色々使えると思ったがこれは……。

おい、ローダス、これを捨ててこい。まだ養子縁組もしていないし ただの平民。

我が家とは何の関係もない。わかったな」

「かしこまりました旦那様。夜のうちに処分いたします。」


三拍子オヤジの娘らしい少女に、唯一身に着けていたネックレスを奪われたことで、放心していた意識が覚醒したようだ。

だけど、平民に歯向かわれたことに苛立った少女によって、階段から転げ落ちて頭を打ってしまったようだね。

意識の確認とか、すぐに手当てとかをしないあたりが素晴らしい屑っぷり。



「はぁ、私の仕事じゃないだろう。面倒だな。我がアスヒモス領地内だと顔を知っている者がいても面倒だな。

ロッサ村あたりまで行くか。浮浪児っぽく見えるように靴もいらないな。汚いズタ袋は……何も入ってないじゃないか。食い物が無くなった浮浪児に見せるには丁度いいな。そらっ」


ドサッ!!


三拍子オヤジに命令された 執事っぽい男が、ブチブチ言いながら少女を処分するために夜闇に馬車を走らせる。浮浪児に見せかけるための工作もしているあたり、慣れているとしか言えないよね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る