第2話 凶報
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緩んでいた空気が、硝子を割ったように
一気に変わる。鼓動がどんどん早まり、
呼吸が荒くなるのが分かる。
目を閉じ、四つ数えて息を吸い、同じように息を吐く。
A《所属不明機は三方向、南東、南、南西から接近中!っ!全機、戦闘態勢に移行せよ!》
1《オルカ隊、各機!集合しろ!編隊を組め!いいか。訓練通りやれ。》
怒鳴るような厳つい声で部隊長が言う。
なんとも現金だが…今日ばかりは、
いつも拳骨と一緒に飛んでくる、
恨めしいこの声が…頼もしく思えた。
───
1《AWACS!こちらオルカ!指示をくれ!》
率いる隊に命令を出し、AWACSに次の指示をあおぐ。
レーダーディスプレイと目視で確認しつつ、隊員が合流した事を確認、さほど遠くではなかった事もあり、すぐに編隊を組み直せたようだ。
余計なおしゃべりもせず、各々が警戒に努めている。流石に動揺してはいるが、訓練の成果だろう。
…失礼な事を考えたスカポンタンがいた気もするが、
生きて帰られたら…その時に考える。
今は、やるべき事がある。
このバカ共を、生きて帰す大仕事が。
───
A《AWACSから全機へ、不明機は敵機と
識別する!繰り返す不明機は敵機だ!》
青臭さの抜けきらない緊張した声が情報を伝達する。
A《ドルフィンは南西、スターフィッシュは南へ、オルカは南東だ。っ!敵編隊は都市部に高速で接近。迎撃を開始せよ!》
A《地上待機中の機も全て上げる!内陸部の基地にも応援を要請している。
これは演習ではないっ!繰り返す!演習ではない!》
AWACSは慌てつつも出来るだけ手短に、
正確に指示を出そうとしている。無線越しにも、震えて泣きそうな雰囲気が伝わってくる。配属されて日が浅いのかもしれない。それでも、状況に呑まれまいと必死だ。
なんの事はない、自分だってそうだ。
顔をしかめ、せめて非番の時にしろよ!クソッタレ!と声には出さないが悪態をつく。誰もが似たような事を考えただろう。
それと、もう一つ心底恐ろしい事がある。
嫌な汗が伝う。考えたくないのに自分の意思とは関係なく、考えるのを止められない。
町は…あそこにいる家族は、今─
1《オルカ隊、聞いた通りだ!南東へ向かい、敵機を迎撃するぞ!遅れず付いてこい!》
《2、了解。》《3、ラジャー。》《5、了ー解。》《6、後に続きます。》
底無し沼に嵌まった思考が、隊長の声で引き戻される。
頭を振って、纏わりついたモノを振り払う。
今は…任務に集中しなければ…。
《フー…オルカ4、了解、迎撃に向かう。》
隊長は、言うが早いか機首を南東に合わせると速度を上げた。
全員がそれに続く、鋼鉄の軍馬がジェットエンジンの嘶きを響かせ、高空を駆ける速度を増す。
焼けた排気と白い足跡が大空(そら)にたなびく。
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