ACE CHOOSES -捥ぎ取られた翼-

瑠璃色の石榴

第1話 哨戒任務

━━━


水色に、白く滲んだシミが広がっている。

シミの濃淡は様々、少しずつ形を変え、ゆっくりと風に押し流されて行く。


茶色に、緑の絨毯が揺れている。

しっかりと根を張り、その場を動かない。

しかし緩やかに踊っている。


町を見下ろす丘陵に、その花畑はあった。

これといった定位置はないが、毎年の顔ぶれは変わらない。


小さく聞こえる川の音。町から羽ばたく喧騒。森の小さな歌い手たちの合唱。


…今日もイイ日差しだ。


ザアザアと、集まりの賑わいが聞こえる。






ドォーン … …


大空(そら)が、赤と黒で引き裂かれた






「スー…ハー…」


レーダーディスプレイに六つ、光点が映る。

トットッ…カチッ、パチッ。

二つの楔を形作っている光点。

その内の一つ。


尾翼にJの字で睨みを効かせたシャチ

(イメージ的にしゃちほこが近い)

それと各自の番号が白く描かれている。




第49防空飛行隊 D中隊の4番機。オルカ4。


それが俺の大空での名前だ。




入隊したての頃は、随分可愛らしいなどと思ったものだが。


実際のシャチがショーで観るような、大人しい生き物ではないことを知ったのは

それから少しした頃だった。


この部隊も可愛らしいなどとは無縁で、

とにかく隊長が厳しかった。

やれ旋回が遅いだの、やれ周りが見えていないだの。

とにかく隊長が熱心に訓練をさせてきたのである。


クソジジイや、鬼隊長など、娯楽室や飯どきの仲間内の話によく上がったものである。



大抵、翌日のシゴキがキツかった気がする。



だが、祝い事など目出度い事があると、

率先して祝ったり、酒保の手配をしたり、

支払いを肩代わりしたりと、

まるで老練なシャチのように、家族思いの頑固じじい(隊長)は、みな口に出さないが慕われている。



いつしか…この可愛らしいと笑った、

このエンブレムが、何処か誇らしくなった。



「今日は…早く上がれそうだな。」


誰にたいしてでもなく、言葉を放り投げる。返球など考えてもいない一人言。

そっと、コックピットに持ち込んだ

写真を撫でる。


5《なんだ4?基地を抜け出して夜の町を堪能するのか?ハハッ。》


…マイクがONになっていたようだ。お調子者がボールを拾って投げ返してきやがった。


4《やかましい、お前と一緒にするな。昨日も絞られてたそうじゃねぇか。5。》


5《まぁな、魅惑の白鳥たちが俺に会いたがっててな。》


4《言ってろ、あほ。カモられてるだけだって気付け。》


5《男は騙されてなんぼだ。そうやって成長すんだよ。》


4《お前は例外らしいがな。ったく、いい加減学習しろよ。》


5《あえて行くんだよ。そこに可能性が─》


何やら熱く語り出してしまった。なんのかんの言いつつ、アイツに付き合っている自分はお人好しなのかもしれない。


6《ったく、お前らいつもそんなだな。ティーンのカップルかよ。》


黙っていた6が呆れたようにツッコミを入れる。


4《よしてくれ6。願い下げだっ─》





A《全空域の各隊へ!フーパー海軍基地が敵性航空機に攻撃を受けた!》





突然のAWACSからの緊急無線に、

楽器の弦の如く空気が張り積める。


裏返りそうな、慌てた声が躓きそうになりながら無線から飛び出す。


A《此方にも複数の所属不明機が接近中!

これは演習ではない!繰り返す!演習ではない!》





一陣の風が、カラフルなリボンの付いた

麦わら帽子をさらっていった。




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