『クラシック音楽の反逆!』 5


 ビョータンは、いつも、長い杖を地上に突いている。


 べつに必要はないのだが、つまり、アクセサリーみたいなものなのである。


 それは、ワーグナーさまの、『ニーベルングの指輪』に出てくる、ヴォータンさまをモデルにしていた。


 また、実際に、ワーグナー音楽をよく歌ってもいたが、ビョータンは、ちょっと声域が高めなので、やや、ヴォータンは苦しかった。


 奥さまは、まさに、フリッカ(フリッグ)さまそっくりで、予言能力があったが、それを人に教えたことはない。しかし、災難は必ず避けて通る事が出来た。


 さて、雷の神、ドンナーに似せていたのが、長男さんである。


 カラスングルダンは、じつはテナー歌手としての才能もあった。


 ただし、ピアニストが専門であり、歌手は余技であったが、なかなか、全てを突き抜けるような、大変に魅力的な声を持っていた。


 まあ、そんなこんなで、『ムンダーナ』における、『ニーベルングの指輪』全公演は、もはや地球の他では、なされることがない、唯一無二のものになってしまっていた。間も無く開催される音楽祭では、久しぶりに上演される予定になっていたのである。  


       💂


ビョータン

 ビ『ジャヤコガニュアンに、過去の人間が現れて、 あの、おろかな国王のクラシック音楽愛好に拍車がかかっているとか?』



アリア・カスラ

 ア『らしいわね。良いことではないですか。』


ビ 『悪くはない。しかし、やつは、あくまでも、促成のディレッタントであり、それ以上ではない。どこをとっても怪しい。その過去の人間とかもな。』


ア『まあまあ。そんなに、即断してどうしますか。音楽を愛する人に区別や差別はありません。』


ビ『そうか? あそこの家来のラップランとか、ヘビメタボとかの歌は、実は聴いたことがあるのだ。やつらは、旅芸人だったから、むかし、ここに立ち寄ったのだ。しかし、あれは、音楽ではない。騒音である。雑音にすぎん。以降、あの手のものは、立ち入り禁止にした。当時、ジャヤコガニュアンは、あれにいれこんでおったのだ。それから、いつのまにか、純粋音楽に乗り換えた。けしからん。信念がない。』


ア『まあまあ? あの方は、おっしゃいますように、アマチュアなのですから、良いことではありませんか。体験の幅を拡げるのは、国王としては悪くありませんよ。』


ビ『ならば、なぜ、国民を抑圧する? 自由で良いのだ。嫌いなものでも国民には開放するのが、指導者のあり方である。』


ア『まあ、それは、そうなんですがね。あなた、ジャヤコガニュアンさまの腹違いとはいえ、兄上でしょう? もうすこし、仲良くなさいまし。そうして、話し合いなさい。そうそう。こんどの音楽祭には、ジャヤコガニュアンにも招待状をだしますからね。』


ビ『ならん、ならん。』


ア『それは、わたくしの権限です。あなたが、そう決めたのですよ。ひっくり返したりしたら、あなたの名誉に傷ができますわ。』


ビ『それは、よくないな。たしかにな。』


 ビョータンは、奥さんには、すこぶる、弱かったのである。



      🙏














 


 

 


 

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