第9話 夏の終わりの花火大会

水曜日の3時間目(音楽の授業中)。

俺はイヤイヤながらもコンクールのピアノ伴奏を担当することになった。

やりたくなかったが。

最近、中村の俺と話しているときの緊張した様子が、少しずつなくなっているような気がした。

「陽介くん、おめでとう」

中村が話しかけてきた。

俺はピアノの伴奏をすることがイヤだったが、中村にそう言われてなぜか自然と笑顔になった。

それでもやっぱり、楽器は嫌いだと思った。


休み時間。

俺は中村と智也とさおりと桜葉と、5人で話すようになった。

俺は中村の存在が、なんだか大きくなっていった。


###


木曜日。

中村の話すときの緊張は、完全になくなったと言えるだろう。

いつのまにか中村の声は、あの震えたような声じゃなくなっていた。

俺の頭の中には、夏祭りでの出会いが、心に残っていた。

お互いに少しずつ心を許しているような感じがした。


###


9月1日、日曜日の夜。

今日は花火大会だ。

出店もちょっとだけ出るらしい。

俺は智也の家の前にいた。

「花火大会楽しみだな、お前、いつものカメラ持ってきた?」

智也は意外と写真を撮るのが上手い。

俺たちは会場に向かって歩いた。


###


会場に着くと、少し出店があって人がたくさんいた。

近くの道路は歩行者天国になっていた。

バアン!と大きな音を立てて、最初の花火が上がった。

「あ、花火!」

俺は空に上がった花火を指差した。

智也がデジカメで花火の写真を撮っていた。

「あ、そうだヨーちゃん。俺、このあと従兄弟と花火見るから、もうちょいしたら行くね」

「いいよ」

その後、俺は智也と別れた。

1人でベンチに座り、花火をながめていた。

「あれ、中村?」

目の前に、知っているような人影があった。

その人影は、俺に近づいてきた。

「陽介くん、1人なの?」

「ま、まあ・・・」

「私も1人で来てるんだ」

中村はそう言って俺の隣に座ってきた。

「わ⁉︎」

俺は驚いて、少し離れた。

だが、俺は中村と一緒に花火を見ることにした。

「きれい・・・」

中村が花火を見て呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る