第19話 呪い
「ソルジャー・スケルトンを倒したのか。なかなか厄介な魔獣なんだがな」
「取り逃がしたって言ってたな」
「ああ。すまない、見ての通り素早い個体でな」
ガレスはユーリたちがここにいると知らなかった。
知っていたら確実に取り逃がさなかっただろう。ユーリの知るガレスという男なら、このくらいの魔獣は倒せる。
「第七遠征隊の隊長を務めるガレスだ。以前は巡光騎士団の上級騎士として活動していた」
ガレスはユーリ以外の者に自己紹介をした。
「第八遠征隊のマオじゃ」
「レイド=クーレンベルツだ」
「女神教会シスターのミルエです。あの、遠征隊の隊長は軍人さんが務めると聞いていたのですが……」
本来、遠征隊の隊長は軍人が務める。ロジールも軍人だ。
だが第七遠征隊は例外だった。その理由は――。
「このおっさんが実力でもぎ取ったんだよ」
ユーリがガレスを指さして言う。
ガレスは苦笑した。
「望んでそうしたわけではないが、結果的にはそうなってしまったな。勿論、異動は円満に済ませている」
人望、実力、共にガレスは抜きん出ていた。嫉妬なんか寄せ付けないほどに。
ユーリも彼の優しさに救われた。もしガレスがいなければ、今も路頭に迷っていたかもしれない。
「着いてこい。我々の拠点に案内しよう」
ガレスの案内に、ユーリたちは従う。
上陸した直後は最悪の目に遭ったが、今回の冒険は幸先がよかった。
「そういえば、うちにイヴンっていう騎士がいるぞ」
「イヴン……ああ、《雷槍》のか。確か、公爵家に護衛を依頼されたと言っていたな」
やはり二人は知り合いらしい。
イヴンも相当な実力者だ。となれば騎士団でも名が通っていると予想していた。
「……あの、前から思ってたんですが、ユーリさんって口調砕けすぎじゃないですか?」
「そうだ! もっと言ってやれ!!」
ミルエの発言にレイドが激しく同調する。
そんな二人に、ユーリは後ろめたさを感じることなく説明した。
「ガレスとはしばらく一緒に暮らしてたからな」
目を丸くする二人に、ユーリは説明を続ける。
「俺は身寄りがなかったからな。……五歳から十歳までか? 面倒を見てもらってたんだ」
「面倒を見た記憶はないがな。お前は幼い頃から大人顔負けのしっかり者だった。……冒険が関係する時以外は」
最後の一言は余計だと思ったが、自覚はあるので黙っておいた。
冒険は、準備も含める。未知の世界を知るために胸躍らせながら支度をするのも冒険のうちだ。だからユーリは万全を期すために第七遠征隊には参加せず、第八遠征隊が結成されるまで待つことができた。
だが、それでも偶に先走ってしまうのが人の感情である。
第七遠征隊の募集を打ち切った後なのに、ユーリは何度か「やっぱり参加する」と無理を言った。その度に諭す役目を負ったのがこのガレスだ。
とにかく、そういう仲なのでユーリとガレスの間に敬称は不要だった。
「いや、待て! じゃあなんで僕に対しても同じ態度なんだ!」
「そうですよ! イヴンさんに対しても砕けていたじゃないですか! まだ話は終わってませんよ!!」
ちっ、バレたか。
舌打ちしたユーリは、仕方なく真面目に語ることにする。
「……まあ、世界を呪ってた時の名残みたいなものだ」
ミルエとレイドは意味が分からず、きょとんとした。
だが唯一、マオだけが頻りに首を縦に振る。
「分かるのじゃ。その気持ち、めっちゃ分かるのじゃ」
世界を呪っていた時の名残。
この世の全てを憎んでいた頃の記憶。
人は、己の人生に絶望した時、他者を敬う理由をなくす。
「見えてきたぞ」
しばらく歩いていると、ガレスが言った。
「あれが、第七遠征隊の拠点だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます