第7話
カーテンから差し込む薄い光で目を覚ます。スマホの時刻を確認すると正午を回ったところだった。
昨日は病院でもらった薬を飲んで眠った。薬が効いて泥のように眠ったからか、体が少し重い。
俺はゆっくりとベッドから体を起こすと、ぐっと伸びをした。
少しずつ、この生活を改善していけたらいいだろう。医者が双極性障害の患者は過眠で寝すぎることがあると言っていたが、俺の症状はまさしくそれだ。病気を改善し、少しでも朝早く起きれるようになったらいいなと思う。
「おはようございます」
一階に下りて月城さんに挨拶をする。月城さんは昼食をテーブルに並べているところだった。
「あ、起きたのね。ごはん、できているわよ」
俺はテーブルに着くと、いただきますをして箸を手に取った。
今日の昼食はうどんだった。俺は麺を啜りながら、月城さんに聞く。
「月城さん、今日はこの後何か予定はありますか」
「ないわよ」
「だったら外に出るのに付き合ってくれませんか」
「外行くの?」
月城さんが心配そうな顔を浮かべる。
俺は胸を叩くと、月城さんを安心させるように言う。
「外に出る練習です。少しずつ外に慣れていきたいなと」
月城さんに告白することを最終目標に設定し、俺はそれまでに小さな目標をいくつも立てた。その小さな目標をひとつずつクリアしていくことで、最終目標に近付く。
まずは引きこもりからの脱却だ。少しでも外に出て外の世界に慣れること。
まだひとりで外に出る勇気はないから、月城さんが付き合ってくれる時じゃないと無理だけど。
「わかったわ。前向きな新人くんのこと応援したい」
そう微笑みかけてくれる月城さんがいるだけで、俺は頑張れる。
昼食を食べ終えて、月城さんが後片づけを済ませる。
私服に着替え、月城さんと共に外に出る。
「どこへ行くの?」
「コンビニに行こうかと思います」
まずはコンビニで肩慣らしだ。最初からあまりハードルを上げ過ぎない方がいいと本に書いてあった。まずは低い目標から少しずつクリアしていく必要がある。
「あの、月城さん、まだ外が怖いので手繋いでもいいですか」
俺はそう言って月城さんに手を差し出す。その手を月城さんは優しく握り返してくれる。
「勿論。私の手で安心できるならいつでも繋いで」
本当は月城さんと手を繋ぎたかっただけなのだが、それは口には出さない。
隣を歩く月城さんの肩が当たる。俺の心臓がけたましい音を上げながら、激しく脈打つ。
コンビニについて、ドアを潜ると一気に緊張感が増した。
店員の「いらっしゃいませ」という声に思わずたじろぐ。だが、月城さんが手を力強く握り返してくれるおかげで不思議と不安はない。
俺は店の中を見て回りながら、アイスを手に取った。
「これ、二人で食べませんか」
「いいわね」
月城さんに喜んでほしくて、俺は二人で割れるアイスを手に取った。レジでそのアイスを差し出し、店員がバーコードをスキャンする。
「レジ袋はどうなさいますか」
「あ……えっと……いらない、です」
蚊の鳴くよな声でそう答えると、店員は頷き清算を済ませた。
俺はアイスを受け取ると、コンビニの外へと出た。
「買えました……」
「よく頑張ったわね」
そう言って月城さんは俺の頭を撫でてくれる。その優しい手つきにうっとりしていると、月城さんがアイスの袋を破った。
そして二つに割ると、片方を俺に手渡してくる。
「食べましょ」
そうして二人してアイスを食べて帰った。
「おしいいわね」
月城さんの喜ぶ顔を見て、俺はとても心が温まった。小さな一歩だが、確かに俺は前へと歩き出した。慣れたら一人で外出できるようになれるといい。目標を消化することで、月城さんに褒めてもらえる。それがモチベーションとなり、俺のやる気を漲らせていた。
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