記憶:ニワトリ
養鶏場
▼コッコッコ
コケッ コケッ
キュルルッ
騒がしい鳴き声が聞こえてきた。
モニターには数十匹のニワトリが映し出されている。
視点はかなり低く、画面の色彩も普段と少し異なっている。
これはある一羽のニワトリの記憶だ。
「エサの時間だべー」
白いエプロンを着た飼育員が歩いて来た。彼の手には根裸土農園養鶏場(こんらーとのうえんようけいじょう)と書かれた大きなバケツがあり、その中には新鮮な飼料がたっぷりと入っていた。
飼育員がスコップでエサを撒くと、ニワトリたちは我先にと一斉に集まり始める。
コッコッコ コッコッコ
コッコッコッコ
向こうでは、太った別の飼育員が棚の掃除を行っているのが見える。
この鶏舎は非常に衛生的なようだ。
まわりは風通しのよい網で囲われ、床には乾燥した牧草がしかれている。近くには菜の花が咲き乱れておりキレイな蝶々が舞っている。
一般的な鶏舎というのは、ケージ内にニワトリをぎゅうぎゅうに押しこんで、まるで機械のように卵を産ませていくものだが、この養鶏場にはそのようなケージが一切ない。
広々とした清潔な環境の中で、ニワトリたちはのびのびと動き回っている。
コケッ コケッ
コッコッ コッコッ
一見すると、ニワトリたちは意味もなく歩いていたり、ただエサを食べているだけに思える。一匹一匹の見わけもつかない。
しかし時間をかけて観察していると、個体ごとにハッキリとした違いがあるのが分かる。
多少なりとも体格の大小があり、性格や気質も独自のものが存在しているのだ。
つつくもの。つつかれるもの。
他のニワトリの上に乗って暴れているもの。
いつも下になって乗られているもの。
当たり前だがニワトリの群れにも、強い個体と弱い個体がいるようだ。
強い個体。
体の大きいイジメっ子は、綺麗でフワフワの羽毛をしている。
弱い個体。
みんなからつつかれてばかりのイジメられっ子は、汚れ切ったボロボロの羽毛をしている。
▽動物にもプライド㎉があり、人間と同じように測定することが出来ます。
ためしにニワトリたちの〝総カロリー量〟を見てみましょう。
〈強いニワトリ 総量 10000㎉〉
〈普通のニワトリ 総量 4000㎉〉
〈イジメられっ子のニワトリ 総量 300㎉〉
一般的には、動物は人間のように複雑な関係性を持たない、と思われがちですが、実際にはそうではありません。
ニワトリの世界にも厳しい序列や壮絶なイジメが存在します。
彼らには〝つつきの順位〟というものがあります。最下位のニワトリは毎日全員から攻撃され続け、身も心もボロボロにされてしまうのです。
コッコッコ コッコッコ
コケッ コケッ
コッコッコッ
この養鶏場は他の所と比べて環境がよく、ニワトリたちにとっては大変住みやすいと言えるでしょう。
でもだからといって、全ての個体が快適に過ごせるわけではありません。
人間もそうですが、限られた空間での生活は、競争を激化させます。
個々の実力差が如実に現れ、強者と弱者の区別がはっきりしていきます。
そして〝王制〟と〝イジメ〟が誕生するのです。
衛生的に整備されたこの素晴らしい環境の施設も、弱い個体にとっては地獄のような場所なのでしょう。
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