カラスとニワトリの自己肯定感
すいり6
▽大谷蓮さんの記憶捜査はこれで終了です。
ちょっと待って下さい。
蓮さんの脳から電極をはずす前に、大谷家の人々が保持している〝総カロリー量〟を算出しますから。
〈大谷賢治 総量 96000㎉〉
〈大谷麗子 総量 77000㎉〉
〈大谷蓮 総量 90000㎉〉
〈大谷凛 総量 82000㎉〉
なるほど、なるほど。分かりました。
もうけっこうです。電極をはずして下さい。
ん?
蓮さんのご遺体は両足首が切断されているのですね。酷いものです。
そうですね。
ここで一度、犠牲となった八人全員の、遺体の損壊方法を振り返ってみましょう。
三島龍治さんは、両手首を切り落とされていました。
原ノブ郎さんは、両目をつぶされていました。
大谷麗子さんは、酸で顔を焼かれていました。
原ノブ子さんは、口を裂かれ、社員証を突っ込まれていました。
大谷賢治さんは、口を裂かれ、名刺を突っ込まれていました。
原ヒロミさんは、壊れた服飾品で飾られていました。
原タケシさんは、頭を割られていました。
大谷蓮さんは、頭を割られ、両足首を切り落とされていました。
なるほど。なるほど。
わかりました。
おぼろげながらも、ついに犯人の動機が見えてきましたね。
狂気に取りつかれているとはいえ、犯人には犯人なりの〝理〟があるはずです。
ここを突破口として一気に犯人を特定していきましょう!
ん?
みなさん顔に元気がありませんね。プライド㎉が無くなったというより、これは疲労が限界にきている証拠です。
私が勧めた糖分摂取も断るからですよ。
甘いコーヒーが嫌でしたら、このエナジードリンクなどはいかがですか?
「そんなこといいから、さっさとプロファイリングを続けろ」はいはい、分かりましたよ。
続けさせていただきます。
まず、鑑識の方に伝えて欲しいことがあります。
被害者の家の中にある、特定の部分を念入りに調べて頂きたいのです。
そうです。
もちろん捜査に必要なことです。
それからもう一つ。原ファミリーが何か問題を抱えていなかったかどうかを調べて欲しいのです。
「いやいや、さっきから見ているとおり原家は問題だらけだろ」いいえ、そうではありません。
原家の人々の補導歴・逮捕歴・訴訟歴など、対外的な問題をくわしく知りたいのです。
急いで下さい。
行方不明者の中には、まだ生存している方がいるかもしれません。犯人の特定が遅れれば、助かるはずの命も失われてしまいます。
おお、そうですか。
私を補佐するための検死官を一人残し、それ以外の全員で現場に行って頂けると。
ありがとうございます。
よろしくお願いします。
「僕、なんだか人間嫌いになってきましたよ」
……
「ちょっとぉ、聞いてますか?」
……ん?
ああ。補佐のために残られた検死官さんですね。
すいません、ちょっとスリープしていました。
どうされました?
「はぁ~~~~」
大きなため息なんてつかず、どんなことでも遠慮なく相談して下さい。
ちゃんと聞きますから。
「いえね、僕が警察に入って、検死官という仕事についたのは、悪人の不正を明らかにして、善人を救うためなんです」
ほう。なるほど。
それは立派な志ですね。
「でも今回の事件で色々なものを見て、人間という存在自体が嫌になっちゃって」
そうですか。
まだお若いですもんね。
「僕は何をしているんだろうって……。こんなことなら、もっと別の仕事を選ぶんだったなぁ」
ほうほう。
ずいぶんお疲れのようですね。
「同級生にはプロスポーツ選手になって、子供の頃の夢を叶えた奴もいるっていうのに、僕は……」
検死官さん。
ちょっと顔をこちらに向けて、私の指先から出ている光を見て下さい。
うーん、眼球の感度が低下していますネ。
精神的に不安定な状態にあるようです。
人は鬱状態になると、コントラストに対する眼球の感度が落ち、世界が色あせて見えるようになります。澄んだ青空さえ、くすんだ色に映ってしまうんです。
「そういえば最近、空がずっと灰色に見えますね」そうですか。
これは、なんらかの治療が必要ですね。
改めてお聞きします。
そんなに人間がお嫌いですか? 逆に何がお好きですか?
「僕は自宅で犬を飼っているんですが、動物はけっこう好きです」
うーん、なるほど。
「動物は本当に良いですよ。人間みたいに複雑でドロドロとしてないですから。動物は純粋です」
うーん、はいはい。
「プライド㎉なんてものとは無縁の世界にいる野生動物になりたいですよ」
……ちょっと待って下さい。
それはどうでしょうか。
動物の世界も厳しいですよ。
「それはもちろん厳しいでしょうけど……でもですよ。動物は食べるために殺すことはあっても、名誉なんてもののために殺し合うことは無いですよね」
うーん、わかりました。
モニターの前にお座り下さい。
今回の事件にも非常に関係性が深い、ある記憶のデータをお見せします。
「えっと、それはどなたの記憶ですか?」
驚かれるかもしれませんが、これは人間の記憶ではありません。
鳥です。
過去に行った動物実験の記憶です。
いやいや、そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。
何も残酷な実験ではないですから。
科捜研では人間の前に、ラットや猿などの動物から記憶を引き出す実験を行っていました。
それを鳥類で行った際、非常に興味深いデータが得られたのです。
見てみましょう。
きっと面白いですヨ。
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