校庭 (十五年前)

▼画面が暗転し、次の場面に切りかわった。

 秋の深まりを映し出すように色づいた木々の下で、風に舞う落ち葉を小学生たちが集めている。

ノブ子も枯葉でいっぱいになったリヤカーを引いて、校舎と校舎の間の道を進もうとしていた。

「あのさぁ、ちょっと話があるんだけど」と、箒を持った少女がノブ子の前に立ちはだかった。「ノブ子さんって陽斗くんのことが好きなの? バレンタインのチョコを用意してるって聞いたんだけど」

「え……」

 突然の話に、ノブ子は面くらった表情で立ちすくんだ。

「いやわかるよ。陽斗くんってスポーツ万能だし、カッコいいもんね」

 箒の少女は、ノブ子の反応など気にすることなく話し続ける。「でもさ、もしそうなら絶対やめておいた方がいいよ。友達から聞いたんだけど、陽斗くんは凛ちゃんのことが好きなんだって」

「…………」

「こんなこと言っちゃ悪いけど、つり合いってあると思うんだよね」

 箒の少女はおどけた様子で手の平に箒を乗せ、縦にしてバランスをとった。

「ちょっと~。それは言い過ぎじゃない~」

 ノブ子が黙っていると、横からチリトリを持った別の少女が割りこんできた。

「じゃあさ、陽斗くんと付き合えると思うの? ノブ子さんが?」

 少女はムッとした顔をして、箒を肩にかついだ。

「それは~。わかんないけど~」

 チリトリの少女はのんびりとした調子で答える。

「私は本当にノブ子さんのためを思って言ってるの。実際に陽斗くんに告白して傷つくのは、ノブ子さんなんだからね」

 箒の少女は眉を寄せて言った。

「じゃあさ~。いったい誰ならノブ子さんとつり合うっていうのよ~」

「うーんそうねぇ、あいつとか?」

 箒の少女は、遠くでゴミ袋を運んでいる少年を指さした。

「うける~。さすがにそれはノブ子さんに失礼だよ~。あいつの顔面偏差値はやばすぎるって~」

 とチリトリの少女は吹き出しながら言った。

 箒の少女も吹き出して笑う。

「…………教えてくれてありがと」黙って聞いていたノブ子は、落ち着いた様子で静かに口を開いた。「でも別にチョコあげようとか思ってないし。て言うかそもそも好きでもないし」

「うんうん、そうだね。そういうことにしておいた方がいいと思うよ」

 箒の少女は、わかったような顔をして大きくうなずいた。

「え~。ためしに告白してみなよ~」

 チリトリの少女は楽しそうに言い、踊るようにクルクルと回った。

「無責任なこと言っちゃダメだよ。私がせっかく忠告してあげてるんだから」

 箒の少女は笑いながら、スタスタと歩きだした。








▽〈ノブ子  -1380㎉〉




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