記憶:原ノブ子

体育館 (十八年前)

▼ドタドタドタ ワァーー ドンドン ドタドタドタ 

 大きな窓から差し込んだ光が空間を満たし、無数のホコリが舞い踊っているのが見える。まるで小さな粉雪が浮遊しているかのようだ。

 体育館の中では数十人の子供たちが楽しそうに駆け回り、その無邪気な声が天井に反響して響き渡っている。

 先生らしき大人は一人もいない。おそらく休み時間なのだろう。

 タッタッタッタッ 

 二人の少年がノブ子の近くまで走ってきた。

「いっちば~ん! はい、また俺の勝ち~」

 半ズボンをはいた少年が高く腕をあげた。

「ハァハァハァ……今のは本気じゃないし」

 紅白の帽子をかぶった少年は、肩で息をしている。

「はい、負けおしみ~。おまえ走るの遅っ」 

 半ズボンの少年は、笑みをうかべながら意地悪く言い放った。








▽〈半ズボンの少年  +120㎉〉

▽〈紅白帽子の少年  -190㎉〉








▼体育館の隅では女の子たちが円を作って座り、陽気な笑い声をあげていた。

 彼女たちは噂話や小テストの結果など、たわいもない話題に花を咲かせている。

「今度は動物に例えてみようよ!」と、背の高い少女がウキウキした様子で提案した。「じゃあまずは凛ちゃんから。凛ちゃんって何かな?」

背の高い少女は指をスッと伸ばし一人を指名した。輪の中で最も目立つ色白の美少女だ。

「うーん……」

 みんなの視線が、色白の美少女に集まる。

「えっとねぇ。凛ちゃんはウサギかなぁ」

 と、輪の中の一人が答えた。

「あーピッタリ」

「雪ウサギ、っぽいよね」

 他の子たちも続々と賛同する。

 みんなからの賞賛の声を聞いた凛は、恥ずかしそうに照れて微笑んだ。

「じゃあノブ子ちゃんは?」

背の高い少女が、今度はノブ子の方を向いて指をさした。

「うーん、そうねぇ。なんだろね」

 今度はみながノブ子の方を向いて考え始める。

「……やっぱり馬じゃない?」

 一人が口元に笑みを浮かべながら言った。

「あー確かに。お馬さんっぽいね」

「そうそう。馬の中でも、とくに顔が長めの馬」

「アハハハ、それって超長いじゃん」

 一人が馬鹿にしたように笑うと、つられるようにして他の娘たちもクスクスと笑った。

 ノブ子は何も言わず、少し顔を赤らめながらも、みんなに向かってピースサインをしてみせた。

 色白の美少女は申し訳なさそうな、困ったような表情をしている。








▽〈凛    +130㎉〉

▽〈ノブ子  -970㎉〉




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る