引きこもりは自分の部屋で何をしてるの?
すいり2
▽これは典型的な怨恨事件でしょうネ。
はいそうです。
よくあるタイプの事件です。
今見た龍二さんの映像ですが、そこかしこに映りこんでいた時計やカレンダーから察するに、これはおそらく十年前の記憶のようです。
ええ、ええ。そうです。
学生時代にやりたい放題やった者が、恨まれて復讐されたのでしょう。同じようなヒドイ目にあった人はノブ郎さん以外にも大勢いるはずです。その誰かに復讐されて殺された可能性は高いです。
「ちょっと待て、それでは説明がつかないことがある」
ほう。そうですか。私の推理に穴があると?
なんですか?「次の遺体を見せる」?
そうですね。そういえば、ここには三つのご遺体が並んでいますもんね。
刑事さんが開けようとしているのは、二つ目の死体袋ですか。
いいですよ。拝見しましょう。
えっ!?
そんなバカな!
これは……ノブ郎さん??
もっとご遺体をよく見せて下さい。
……分かりました。いやもうけっこう。ホクロの位置、耳の大きさ、顎の形。まぎれもなくノブ郎さん本人です。
ただ目が……目玉がくりぬかれています。
本来目玉があるべき所は、がらんどうの暗い空洞となっています。
「イジメっ子の龍二と一緒に、イジメられっ子だったノブ郎君も殺されている。遺体も執拗に損壊されている。怨恨事件だとしたらこれをどう説明するんだ」
う~ん、たしかに。刑事さんの言う通りですね。
もうしわけありません。
〝恨みからの復讐〟という私の推理は間違っていました。
訂正してお詫び申し上げます。
この事件はもっと複雑なようですね。
いったん状況を整理したいと思います。
ちょっとここにある捜査報告書をお借りしますよ。
えーと。最初に発見されたのは、三島龍二さん。
職業はプロボクサーですか。
両方の手首から先を切り落とされているため、指紋の照合はできませんが、本人に間違いありません。体には縄で縛られた跡と、ナイフで刻まれた〝プライド㎉〟の文字。
遺体は殺されたあと、河川敷に放置されていたのですね。殺人の猟奇的な様相から、ただちに科捜研に運ばれたわけですか。
検死ではアニコチンなどが検出されており、死因はトリカブトによるものと断定。
死亡推定時刻は一日前。
なるほど、なるほど。
二人目の犠牲者は、原ノブ郎さん。
引きこもりのニートだったようです。
さきほど見たとおり、彼は両目をくりぬかれています。体には〝プライド㎉〟の文字が刻まれていますが、縛られた跡などはありません。
こちらも殺されたあと、河川敷に放置されていた、と。
検死の結果、体に鮮紅色の死斑が出ていることなどから、死因はおそらく一酸化炭素中毒。死亡推定時刻は三日前。
脳の状態は新鮮なので、記憶の捜査は今すぐにでも可能です。
ふむ、ふむ。
三人目の犠牲者は、大谷麗子さん。
専業主婦の方ですね。
そうとうな美人だったようです。
彼女の経歴をみると、大学時代にミスキャンパスに選ばれています。年齢を重ねたとはいえ、まだまだその美しさは健在だったでしょう。
ええ、過去形です。
現在ではその美しさの面影をうかがい知ることはできません。
彼女はなんと、顔を酸で溶かされ、ドロドロのケロイド姿になっています。
体には〝プライド㎉〟の文字が刻まれていますが、縛られた跡はないようです。
遺体発見現場は他の二人と同じく河川敷。
検死の結果、体に鮮紅色の死斑が出ていることなどから、死因は一酸化炭素中毒。
死亡推定時刻は十日以上前。
時間が経ちすぎて腐敗が進んでしまった為、脳の変性が限界値を越えています。
残念ながら、この方の記憶捜査は不可能です。
うーん。
損壊部分からの出血量などから推測するに、犠牲者の三名は拷問された後に殺されたわけでは無さそうです。まぁ唯一の救いと言ってもよいでしょう。
亡くなったあとに死体をいじくり回された、という感じです。
犯人は、個人の強みとなる部分に、何か思い入れがあったのでしょうか?
それとあと一つ。
気になるのはやはり、三人に共通している腹部に刻まれた文字ですよね。
そうです。私の名前でもあるプライド㎉という言葉。
いったいこれは何を示しているのか?
犯人は何を主張したいのか?
ああそうですね。
くわしい自己紹介がまだでしたね。ちょっとこのあたりで、私の名前の由来について説明させていただきます。
このプライドカロリーという名前、もとは神経伝達物質の単位名です。
そうそう、よくあるマイナーな専門用語です。
この物質を科捜研が研究し、利用することで私は作られているのです。
もっと言うと、私はこの物質を手掛かりにして、死者の脳内から記憶を読んでいるわけです。
こちらの仕様書をご覧ください。細かいデータはここにも記載されています。
プライド㎉とは、脳の前頭前野から報酬神経群を通り、大脳辺縁系、海馬回へと至る神経伝達物質の総称です。
伝達物質はシナプスから〝プライド㎉受容体〟と呼ばれる部分に放射され、
自信、
慢心、
誇り、
見栄、
自尊心、
優越感 劣等感、
承認欲求、
自己顕示欲、
自己肯定感、
などの源泉となります。
それぞれ言葉や概念は違えど、脳科学的には同等のものです。刺激される脳の部分に変わりはありません。
ええ。
そうです。
プライド㎉とは、心の食事ともいえる流動エネルギーでもあります。人の上に立ちたいという欲望でもあり、人類を発展させてきた活力でもあります。
おお、そうですか。
刑事さんの中には、私の配信動画を見て下さっている方がいますか。
そうなんですよ。科捜研のPR活動のために、私はyoutubeチャンネルの顔としても活動しているのです。
脳科学や心理学のチャンネルです。
まぁ、自己紹介はこんなところですかね。
複雑怪奇な事件ですが、まずは出来ることからやっていきましょうか。
次はノブ郎さんの記憶捜査でス。
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