中編

 ラグロク島を旅立ってからだいたい三日ほどが経過して、ボクたちはラグロク島の十倍はあるだろう巨大な島へと流れついていた。

「うわぁ、ここまで大量の船は見たことがないよ。止めるスペースあるかな?」

 海辺には何艘もの船がびっしりと横並びになっている。

「問題ねぇだろ。そこら辺の岩に適当にくくりつけときゃ何とかなる」

 それにしてもアルギスは体が縮んだせいで、随分と見た目と声が可愛くなってしまった。まぁ口調は相変わらずトゲがあるけど。

「ユーリ。あそこに止められる場所があるわ」

 ティーシェが指さす先に、船一艘分が止められるスペースがあったため、ボクたちは早速船を海辺に止めて島の中へと入っていった。

 

 

 島の中は、しばらくは森が続いていたけど、何やら聳え立つ巨大な城壁が木々の上から顔を覗かせている。

「うーんと、これはどういうことだろう?」

 森を抜けると、聳え立つ壁が筒状になったものが二つ隣り合わせに並んでいる。

「とりあえず左から行ってみようか」

「そうね」

 壁の前にはラグロク島と違って、しっかりと門番が立っているようだ。

「止まれ旅人。壁の中へ入れる前に、危険がないかを確かめさせてもらう」

「うんまぁそれは構わないけど、この壁の向こうには何があるの?」

 門番はボクたちの荷物チェックをしながら話し始める。

「国だ。そしてお前たちのような旅人も大勢訪れる。海辺に止まっている船の数を見ただろ?」

「ああ、すごい数で少し驚いたよ。じゃあもしかして、隣にも国が存在しているの?それとも塞がれてはいるけど、二つで一つの国なのかな?」

「いいや、この島には二つの国が存在している。毎日旅人を取り合ってるいいライバル国さ」

 壁で囲われてるのには何か理由があるのかもしれないけど、今の話を聞くとどちらもプライドの高い負けず嫌いな国のようだ。おまけに仲が悪そう。

「おっと、一つ言い忘れてたが、この国ではウェルフィアの入国は認められてないんだ。もしウェルフィア同伴を希望するんなら、いい気はしないが、あっちの国がおすすめだ」

「そっか。そういうことなら悪いけど、あっちの国から行かせてもらうよ」

「悪いなんてそんな、俺はただの門番だ。ただまぁ、旅人を向こうの国にやったことがバレたらしかれちまうかもな。ハハッ」

 

 ボクたちは続いて右の国へとやって来た。

「ねぇ、ユーリ・・・・・なぜかすごく睨まれてる気がするんだけど、気のせい?」

「気のせいじゃないと思うよ、うん。理由はさっぱり分からないけど」

「何こそこそやってんだコラァ!てめぇらあれか、コソコソ話しが大好きなお年頃か?」

「落ち着いてよ門番さん—————」

「誰が冷静じゃねぇだあぁ?」

 そう言って、門番が更にボクへと顔を近づけて上から睨みつけて来た。

「俺がどうしてこんなにイラついてるか分かってねぇみてぇだな」

「分かるわけねぇだろ。さっきから何をごちゃごちゃぬかしてやがるんだこの小僧は」

 アルギスのこの発言が、更に門番を刺激するスパイスとなる。

 アルギスはわざと、人の言葉で発言した。

「おいちょっ、アルギス———」

「てめぇら、向こうの国に最初行こうとしてたよな?森を抜けた瞬間から俺様の目はずっとてめぇらを見てたんだよ」

「だから何だって言うの?」

「逆ギレかよ姉ちゃん」

「私たちは向こうの国の門番に言われてこっちの国に来ただけ、それなのにギャーギャーギャーギャーうるさいのよ!」

 ティーシェの平手打ちが門番の頬を捉えた。

 パチーッンと音を奏でた門番の頬は、じわじわと赤みを帯びていく。

「え?あ?え?あっ、すいません。今門開けますんで勘弁してください。マジで」

「これに懲りたら、他の旅人にも優しく接することね」

「はいっ、分かりました。それじゃあ、お通りください。ランド国にようこそ」

 ボクたちは何だかんだであっさりと門の中へと入ることができた。

「ユーリ。お前の彼女やるじゃねぇか」

 アルギスがニヤニヤとボクに言葉を投げて来る。

「いや、ティーシェはそういうんじゃないよ」

 だけど、ティーシェにあんな一面があったなんてかなりビックリした。いい意味で見直したよ。

 流石はボクの————————

「これはすごいね。ウェルフィアにとっては楽園じゃないか」

 この国は、人よりもウェルフィアの方が多く暮らしいている。

 そこら中に何体ものウェルフィアが飛び回り走り回っていて、国中がウェルフィアで溢れかえっている。

 ウェルフィアの種類は多種多様で、五階建ての建物ほどの大きさのウェルフィアも何体か伺える。

 そして更に、見たこともないお店がずらりとそこら中に構えている。例えば、洋服店からは独特な服を着せられたウェルフィアが姿を見せている。

「キューキュー!」

「クエェェェェェェ!」

 アートゥとティールもワクワクしているみたいだ。

「俺はあんまり好きじゃねぇな。昔からわちゃわちゃした場所はどうも気に入らねぇ」

「ボクは好きだよ。こんな素敵な景色は他にはないよ」

「だが異様に俺たちの周りだけウェルフィアが避けてるように見えるのは気のせいか?」

 確かに、ウェルフィアたちがわざとボクたちのことを避けているように見える。いや、正確にはボクを避けているのか。

 この感じは久しぶりな気がする。

 ハー島を出発してから、それほど多くのウェルフィアと接触する機会がなかったからな。

 ラグロク島では、王宮の兵士である人型のウェルフィアがボクを王宮に案内するために接触して来ただけ。他のウェルフィアたちは他国に売られようとしていたため、その姿を見ることはなかった。

「実はボクは、小さい頃からウェルフィアに好かれない体質なんだよね」

「それは変だな。パルセノだった頃のお前は、俺たちを含めて多くのウェルフィアに好かれていたんだがな」

「二人とも、話してないで色々と見て回らない?」

 ティーシェもこの景色に気分が浮かれているのか、とても楽しそうに表情が緩みきっている。

「そうだね。じゃあまずどこに行こうか?」

 どこもかしこも素晴らしいお店ばかりだ、一つ一つ順番に回ればいいだけなんだけど、最初の一つ目が決められない。

 そんな時、何重にも円が描かれた丸メガネをかけ、爆発に巻き込まれたような髪型をした女性がボクたちに声をかけて来た。

「やぁやぁ坊やたち、随分と可愛いウェルフィアを連れているね。どう?よかったら私の店に寄って行かない?」

「せっかくだから寄って行きましょう」

「そうだね」

 

 

 そうしてボクたちが案内されたお店は、高そうな洋服店。

 店長によると、ウェルフィアの服をオーダーメイドしてくれるらしい。

「だけどボクたち、お金を持ってないから今回は試着だけにさせてもらうよ」

「そういうことなら、いい話があるよ」

 ラグロク島でのこともあるため、ボクの警戒心は強まる。

「この国の中心に大きな広場があるんだけどね。そこにあるステージで今日、ウェルフィアによるファッションショーが開催されるんだよ。月一のイベントだから大勢の人たちが集まる大きなイベントでさ、賞金も出るし、ぜひその子たちにも参加させたらいいよ」

「そうは言うけど、ショーのための衣装代とか当然かかるんでしょ?」

「そこは出世払いにしてあげるよ。あれ?使い方違ったかな?まぁとにかく、入賞したお金で返してくれればいいよ。かなりの額が毎月賞金になってるからね」

「もし入賞できなかったときは?」

「そしたらその時考えればいいよ。だけど賞は全部で五つある、坊やたちのウェルフィアなら十分可能性あると思うけどなぁ」

 もしファッションショーで入賞できれば、この国を満喫するためのお金を稼ぐことができるかもだけど、逆に借金を背負う可能性もある。

「何を怖がってるの?ユーリ」

「別にボクは怖がってるわけじゃないよ」

「私はティールを参加させようと思うわ。この可愛さなら、絶対優勝できると思うし」

 すごい自信だな。少なくともボクは、ドラゴンを可愛いと思ったことはない。

「ほらほら、彼女さんもこう言ってくれてることだし、私が坊やたちのウェルフィアを最っ高にカッコよく、可愛くしてあげるからさ!」

 そんなにティーシェとボクは恋人同士に見えるのだろうか?直接本人の目の前で言われると、恥ずかしい気持ちもあるけど、実はかなり嬉しいと思う自分がいる。

「ただの友達だよ・・・・・アートゥ、出場してもらえるかな?それにアルギスも」

「俺もかよぉ、まぁユーリには借りがあるし断れねぇけどよ。あんまし気がのらねぇな」

「えっ、うそ⁉︎坊やのウェルフィア話せるの?」

「話せるウェルフィアは初めてなの?」

「ううん、初めてってわけじゃないけど、この国にはそんなウェルフィアはいないからとても珍しと思ってね。よしっそれじゃあ、気合を入れて坊やたちのウェルフィアをカッコ可愛くしちゃうぞ!」

 そこから約三十分後、アートゥたち全員の着替えが終わった。

「ぷっ———ぷぷ」

「ふっ、笑っちゃダメよユーリ。耐えて」

「いやっ、そんなこと言ったって—————ぷぷ」

 アートゥとティールの服装は、イルカの王子様とドラゴンのお姫様のようでとても素敵だ。イルカというウェルフィアには額にツノが生えてはいないけど、シルエットはアートゥと少し似ているところがある。

 まぁとにかく、店長のセンスは確かなようでアートゥとティールは、素晴らしい大変身を遂げた。

 だけどアルギスに関しては、もはやネタだ。

 いくら外見が可愛くなったからと言っても、口調は思いっきり男だし、見た目でも男女の区別はできてしまう。

「ぷぷっ」

「笑いすぎだぜユーリ。お前まじ覚えとけよ」

「ごめんよアルギス。だけどさ、流石にその格好は反則だろ?笑うなって方が無理さ」

「仕方ねぇだろ!俺だってしたくてこんな格好してんじゃねぇんだよ!」

 確かに、こんな恥ずかしい格好、本人が一番したくないに決まってる。

 今にも「いらっしゃいませご主人様」と言い出しそうな格好だ。

 ボクは小さい頃、よく母さんと父さんの旅の話を聞かせてもらっていた。その話の中に、ある時訪れたその島で、可愛いフワフワとした格好のメイドと呼ばれる女性が働くお店に、父さんが島に滞在している間通い詰め、一緒に旅していた母さんに怒られたという話を聞いたことがある。

 その時、父さんが熱く語ってくれたメイド服と呼ばれる服に、アルギスが今着ている服がそっくりなのである。

 これはもう、笑わずにはいられない。

 アルギスの性格を知っていれば、尚更見た目と中身のギャップに爆笑してしまう。

「それじゃあそろそろ時間だし向かおうか、私について来て!」

 そしてステージのある広間に着くと、アートゥとティール、アルギスはスタンバイのために運営に連れて行かれ、このショーはスタンディングライブのようで、ボクたちはステージの最前列を陣取った。

 その十分後くらいにショーは始まり、一人一人が違った華やかな音楽とともに、ステージ遠方から歩いて来ては所々でポーズを決め、ステージ裏へと姿を消すを繰り返す。

 アートゥがステージから姿を見せると母性本能がくすぐられるらしく、所々から「可愛い」、「ペットにしたい」、「抱きつきたい」などという声が上がっていた。

 ティールの場合は、流石はドラゴンと言ったところだ。その圧倒的凛々しいオーラで会場の雰囲気を飲み込んでいる。

 だけど予想外だったのはアルギス。店主が着せたメイド服がかなりの盛況で、男女問わず笑いが起きたという点で一番盛り上がったと言える。

 そして計百体のウェルフィアたちが歩き終えると、優勝者を含めた入賞者が発表された。

 結果は、アートゥは惜しくも賞を得られなかったけど、ティールはミスウェルフィアの賞をもらい、アルギスは優勝者に贈られるキングの賞が贈られた。

 

 

「やっぱり私の見立ては間違ってはいなかったね!いつか私の店の服を着せたウェルフィアで優勝するのが夢だったんだ〜」

「へっへ〜そうなんだ。あっそうだ、お金を払わないとだよね」

「特別におまけしてあげるっ!その代わり、また来てよね。待ってるから」

「もちろん」

 そうしてボクたちが店を後にしようとすると、アルギスがとんでもない目つきで睨みつけて来た。

「おい、ふざけんじゃねぇぞ。これ以上こんな格好で外出れるわけねぇだろ!」

「分かった分かった、冗談だよ。アルギスのおかげでお金も手に入ったし感謝してるよ」

「ちっ、都合のいい奴だぜ、全く」

 店主が持って来た服をアルギスがバッと奪うと、速攻で着替え始めた。

 ボクたちは今度こそ洋服店を後にすると、次に向かったのはわたあめ屋。

 このわたあめ屋は、国に入った時に一目で目についた長い行列を作っていた場所で、人の三、四倍ほどの大きさのわたあめを提供している。

「これはどのくらい並ぶか検討もつかないね」

「でもこういうのも楽しいわ。知らない国で未知の物を味わうまでのワクワク感。旅って素敵なものね」

「まぁ、気長に待とうか」

 ティーシェの守ってあげたくなる笑顔をこんな近くで向けられると、心臓が破裂しそうなほど大きな音を立てる。

 ハー島にいた頃は、こんなに可愛い笑顔を作れるなんて知らなかった。

「おいあれ、もしかして落ちこぼれと姫さんじゃないか?」

「おっ確かに、ちょっと声かけてみようぜ」

 突然、背後からボクたちの名前を呼ばれた気がしたので振り向いてみる。

「おっ当たりじゃん!ユーリと姫さんだ」

 まさかこの島でこの二人に会うとは思わなかった。

 ボクの中の輝かしい気分が台無しだ。

「やぁ奇遇だね」

「よぉ、落ちこぼれ。何か新しいウェルフィアを連れてるみたいだけど、ウェルフィアに嫌われてるお前がこの国にいて大丈夫なのか?」

 ファルコは相変わらず嫌味なやつだ。

 ボクを揶揄う時は妙に生き生きしてる。

「あら、貴方たちもこの島にいたのね。それで?私たちに何か用?」

「そっけねぇな姫さん。ここで会ったのも何かの縁かもしれないし、ユーリとじゃなくて俺たちと旅しようぜ」

「サイ、貴方の気持ちには答えられないわ。私はユーリと旅をすると決めているの」

「こんな奴のどこがいいんだ?弱虫だし、おまけにウェルフィアにも嫌われてる。俺たちと旅する方がよっぽど楽しいと思うぜ?」

「そう?人を小馬鹿にすることしかできない貴方たちと旅をして何が楽しいって言うの?私にはさっぱり理解できないんだけど」

「怖ぇよ姫さん。もしかしてこの落ちこぼれに惚れてるのか?島にいた頃はろくに口も聞いてなかったのになぁ」

 その直後、ティーシェの顔が真っ赤に染め上がる。

「大丈夫?」

「だっ大丈夫!だから、気にしないで」

 それを見たサイは、本気でショックを受けているようだったけど、ファルコの表情は更にニヤついていた。

「それより、君たちも二人で旅してるの?」

「いいや、サランとマイルズも一緒だ。マイルズの奴、俺の妹に手を出しやがって、今は二人仲良く隣の国を満喫してんじゃないか」

「え?二人って付き合ってるの?」

 ティーシェが驚いた表情でファルコに聞き返す。

「マイルズの奴、やる時はやる奴だったんだなぁ。俺は少し見直してるぜ」

 そう言ったサイをファルコが睨む。

「ちっ、気分が悪い。せっかく落ちこぼれと会えて少し気が晴れて来たところだったのによぉ。まぁせいぜいお前たちも仲良くやってればいい」

「おっと、もう行くのかよ?じゃあな、ユーリ、姫さん」

 突然現れたファルコとサイは、そう言ってさっさとどこかに行ってしまった。

「本当に嫌な奴ら、消えてせいせいするわ」

 ティーシェは頬を膨らませて怒りを露わにする。

「あのさティーシェ。さっきの—————」

 ボクは途中まで切り出して言うのをやめた。

 こんなに大勢いる所だと、濁されてしまうかもしれないし、もっと静かな場所の方が真剣に話せるだろう。

「どうしたの?」

「ううん、また後で話すよ」

 そう言って一先ずこの場は流し、その後三時間並んだ甲斐あって、見事巨大わたあめを手に入れることができた。

「うわぁ」

 その大きさにもビックリだけど、見た目に反して持ってる実感が湧かないくらい軽い。

「ものすごく邪魔ね、これ」

 買う前から分かっていたことだけど、こんなに大きいわたあめを、人とウェルフィアで賑わっている街の中持ち歩くのはとても迷惑だ。

 その証拠に、嫌な視線をかなり向けられている。

 だけどわたあめ屋は人気店だけあって、ボクたちと同じくわたあめを持ち歩く人がそこら中に見受けられる。

 賢い人とかは、空を飛べるウェルフィアにまたがって空中で運んでいる。

「ねぇ、ティーシェ。これを食べ終わったら、隣の国にも行ってみない?さっきわたあめ屋の店員から気になる話を聞いたんだ」

「気になる話?」

「なんでも、隣の国にはウェルフィアに化られる魔法のチョコレートがあるんだとか」

 正直本当なのか怪しいところだけどね。向こうの国はウェルフィアの立ち入りを禁止しているくらいだし、そんなチョコレートが売っているとは思えないけど。

「もしかしたらボクのマジックの新しいヒントになるかもしれないからさ」

 ボクのマジックは、人には変身できても、ウェルフィアに化られるものじゃない。

 だけど一つだけ、人魚に変身できるクッキーならある。まぁあれは、人魚にしか変身できないため、ウェルフィアに化れるマジックアイテムとは少し異なる。

「そうね、私もすごく行ってみたいわ。だけどティールたちをこのまま置いて行くわけにも行かないわ」

「どこかに預けられる場所があるはずさ、探してみよう」

 ボクたちは図々しくも、先ほどの洋服店の店主にアートゥたちを預けることにして一度ランド国を出た。

 

 

「おっお二人とも、数時間ぶりの再会だ。今度こそ俺たちの国に入国するってことでいいのか?」

「うん。ランド国も素晴らしかったけど、こっちの国にもすごく興味があるんだ」

「一つ言っておくが、ランド国のことをジェド国で褒めるような真似をしない方がいい。それと、ランド国の門番の名前はラフタルと言うんだが、あいつにかなり嫌味なことを言われたんじゃないか?」

「まぁ少しだけね。だけどティーシェがいてくれたおかげで助かったよ」

 ティーシェは、その時のことを思い出して恥ずかしさが込み上げているようだった。顔を俯かせて、ボクに表情が見られないようにしている。

「あいつのことは昔から知ってるが、口の悪い奴なんだ。ただ、国民全員がとは一概には言えないが、大半は互いの国をよく思ってないのは確かだからな。だからまぁ気をつけろよ」

「どうしてみんな同じ島で暮らしてるのに、受け入れようとしないんだろう?」

「悪いが俺には分からない。俺が生まれた時には国と国を隔てる壁はできてたからな。よしっ、お前たちの安全は確認できた。それじゃあようこそ、ジェド国へ。俺の名前はダルマだ、何かあったらいつでも頼ってくれ」

 門が開かれ、ボクたちは国内へと通された。

「なんて言うか・・・・・」

「うん・・・・・」

 街並みは洋風でオシャレな感じがしてとても落ち着く。

 街行く人たちも気品があっていい人そうだ。

 だけど、ランド国のあの賑やかな景色を目の当たりにした後だと、とても静かで地味に映ってしまう。

「ねぇユーリ。あれってあの二人よね?」

 ティーシェが指さした先には、飲食店の前で何やら言い争いをしている見覚えのある二人組の姿があった。

 

「なんでまた飲食店なのよ!さっき食べたばかりでしょ?今日だけでもう五件は回ってる」

「そんなこと言ったって、僕のお腹はまだまだ空いてるんだよ。だけどこれで最後だから、ね?」

「マイルズ、あんたさっきも同じこと言ってた。信用できない。私は洋服を見に行きたいの!」

「もう目の前まで来ちゃったんだし、せっかくだから食べて行こうよ」

「ごめん。あんたがそんなに勝手なら、私たちはもうおしまいよ」

「そんなぁ、僕のことを愛してるって言ってくれたじゃないかサラン」

「こんなに勝手な男だとは知らなかったからね!本当は私はあんたみたいなデブじゃなくて、もっとゴリゴリなマッチョな男が好きなのさ!」

「なっ何ぃ!」

 ボクとティーシェは慌てて二人に駆け寄り、喧嘩の仲裁をする。

「ストップサラン、貴方ちょっと言い過ぎよ」

「誰よあんた?———え?もしかしてティーシェ?」

「久しぶり、さっきファルコとサイに会って貴方たちが付き合ってることを聞いたわ」

「そう?それよりユーリと旅に出たって噂は本当だったんだ。いい趣味してるよあんた」

「その言葉、そのままお返しするわ」

 止めに入ったはずのティーシェまでも、喧嘩になりそうな雰囲気を醸し出す。

「とりあえず、お店の前だし中に入ってから話し合おうよ」

「いきなり何仕切ってるの?あんた」

「サラン。ユーリに八つ当たりしないで、一先ず中に入りましょう」

「そうだね。僕もお腹が空いてるからイライラしちゃってると思うし」

 そう話すマイルズを、ボクは少しすごい奴だと思った。

 サランの癇に障る言葉をあっさりと言える精神力が凄まじい。

 ボクたちはお店の中へと入ると、ボクとティーシェ、サランとマイルズがそれぞれ隣同士で席についた。その後、軽く食事の注文を終えていざ、話し合いへ。

「それで、喧嘩の原因は一体何なの?」

 その後、ボクとティーシェは二人の喧嘩の内容を一通り聞き終えたところで、結論が出ていた。

 この件に関しては、マイルズが悪い。

 話を聞いた限りだけど、流石に自分勝手すぎると思う。

 だけど、マイルズの性格を考えれば逆に強く出るのは逆効果だとサランが知らないわけがない。それほどまでに洋服屋に行きたかったのだろうか?

「マイルズはこれからきちんとサランのことも考えてあげること。サランはあまり強く言い過ぎないようにしてあげなよ」

「いちいちあんたにそんなこと言われなくても分かってるし。だけどまぁ、お礼は言っておいてあげる」

 それじゃあ、早速料理も届いたことだしいただくとしようか。

 ボクたちは机に並べられた料理を、何も話さず黙々と食べ始めた。

「あのさ、四人もいるんだし誰か何か喋んなよ」

 沈黙を破ったのはサランの一言だった。

「そういえばさ、あんたたちも付き合ってるの?」

「は?」

 ボクは思わず情けのない声を出してしまう。

「何その変な声?あんたって本当に島にいた頃から変わんないね。ごめんティーシェ、あんたがこんな奴のこと好きになるはずないね」

「・・・・・」

 何の言葉も返さないティーシェの方を見ると、またもやりんごのように頬を赤く染めている。

「ちょっとマジで?あんた本気なの?」

「何何何?ユーリたちも付き合ってるの?おめでとう〜僕は前からお似合いだとは思ってたよ」

 マイルズの奴、適当言いやがって。

 おかげで、マイルズを除いたボクたち三人の空間は気まずいものとなっている。

「マイルズ、君少し黙ってようか」

 しかしボクは満更でもなく、恥ずかしさのあまり食事の手を止めて俯く。

 その瞬間、軽く机を叩く音がして顔を横へ向けると、机に両手をついた状態でティーシェが立ち上がっていた。

「ティーシェ?」

「ユーリ、話があるんだけど少しいい?」

 

 ボクとティーシェは、店内にサランとマイルズを残して外へ出ると、人気のない路地裏へと移動した。

「そのぉ、迷惑・・・・・だよね?」

「迷惑って何のこと?」

「もうバレちゃってると思うから言うけどさ、私の気持ち」

 迷惑なんて全然思わない、むしろすごく嬉しいくらいだ。

 この気持ちを言葉にできたらどれほどいいか、だけどボクの臆病さがそれを邪魔している。

 ここで逃げては男の恥だ。

 女性だけに勇気を出させておいて、男性であるボクが逃げるわけにはいかない。

「ボクは、小さい頃からずっと君のことを見てた。君の一つ一つの仕草が気になって仕方がなかったし、旅の最中、ボクはずっと緊張しっぱなしさ。ボク自身、臆病すぎて嫌になるよ」

 ティーシェは顔を赤らめたまま、今までに見たことのないくらい可愛いらしい微笑みをボクへと向ける。

 もちろん毎日可愛いけど、いつもよりも更に美しく見える。

「私は臆病なんて思わない。つまりそれって、私たちは同じ気持ちってことでしょ?」

「そうみたいだね」

 密かに秘めていたティーシェへのボクの恋心と、同じ気持ちをティーシェもボクに抱いていてくれてたなんて。

「あのさ、ティーシェ—————」

 ボクが勇気を振り絞った一言を口に出そうとしたその時、全身を黒いマントで隠し、フードを深く被った小さな子供がボクの隣に突如現れた。

「チョコレートはいかがですか?」

 顔の見えない何者かは、幼い少女の声をしている。

「チョコ?」

 少女の腕から下がるカゴの中には、青い包み紙で包装された一口サイズのチョコレートがいっぱいに入れられていた。

「もしかしてウェルフィアになれるチョコレート?」

「ご存じなんですね。お代は結構ですので、ぜひ一つ食べてみてください」

「それじゃあ一ついただくよ」

 ボクは二人分のチョコレートを手に取る。

 これはボクのマジックを成長させてくれるカギになる、そんな気がする。

 ボクはティーシェにチョコレートを手渡し、一つを自分の口へと放り込む。それを見ていたティーシェも同じように放り込んだ。

 すると、ティーシェはティールと同じドラゴンの姿に、ボクは二つのツノと尻尾の生えた人型ウェルフィアの姿へと変化した。

「おぉ、これはすごい!想像以上だよ」

「驚いたわ、だけど変な感覚ね」

「気に入っていただけたのなら嬉しいです。私は失礼致しますね。会えて光栄でした、では」

 そう言って、少女はあっという間にボクたちの前から姿を消してしまった。

「それで、どうやって元に戻るのかしら?」

「多分だけど、こういうのは時間が経てば戻るはずさ」

 思わずチョコレートを口にしてしまったけど、ランド国に戻ってから食べるべきだった。

「さっきの話は・・・・・また今度にした方が良さそうだね」

「そうね。とりあえず、三十分経っても元に戻らなければ二人に事情を説明しに行きましょ」

 しかしいくら待っても、人の姿に戻ることはなかった。

 この国ではウェルフィアの入国は許されていないため、丁度路地に捨ててあったコートで身を隠したボクは一人、店で待たせているマイルズとサランに事情を説明して、この後は別々に行動を取ることとなった。

 

「それで、これからどうするの?これじゃ無闇に動けないわ」

 ボクたちは一先ず先ほどいた路地裏に身を潜めている。

「とりあえず、姿を隠した状態でダルマのところまで行くしかないね。事情を説明して外に出してもらおう」

「それしかないわね。行きましょう」

 ティーシェの今の姿はかなり目立つが急いで移動すれば、門まではそんなに距離はないし大丈夫なはず。

 ボクたちが路地から顔を出したその時、一際目立つ遠方の丘の上に立つ大きな屋敷から、大きな炎が立ち上がっているのが偶然見えてしまった。

 それはティーシェも同じようで、とても困った顔をしている。

「本当にこういう時に限って何かしらのアクシデントが起きるんだよね。参っちゃうよ」

「だけど、助けに行くんでしょ?」

「ボクたちなら何とかできるし、これも運命、かな?」

 ティーシェはにっこりと微笑んだ。ドラゴンのティーシェも悪くはないね。

「背中を貸してもらうよ、ティーシェ」

「流石ユーリ」

 ボクはティーシェにまたがり、大きく翼を広げたティーシェは、一っ飛びで屋敷まで飛んだ。

「屋敷全体に炎が燃え移ってるわね。どうするの?ユーリ」

「これを使う時が来たみたいだ」

 ボクは帽子から虹色に輝くヒラヒラとした布のような物を取り出す。

「それは何?」

「これは消炎藻と言って、人魚の住処にしか生えていない貴重な海藻なんだ。あまり数を持ってないから滅多なことでは使いたくなかったんだけど、そうは言ってられないみたいだからね」

 ハー島で人魚の住処に海雲草を取りに行った時に、たまたま見つけてこっそりといくつか持って来てしまった。

 普通の火は海の中では使えないため、人魚たちは水の中でも燃やすことのできる特別な火を使うという。なので、万が一にも火が燃え広がってしまわないように火を主食とする消炎藻を住処の周辺に育てているらしい。

「貴重なのに使っていいの?」

「ああ、ボクは心が広いんだ」

 ボクたちが屋敷の上空へと辿り着くと、ボクは屋敷に向かって消炎藻を詰めたカプセルを投げ込んだ。

 そして少しした後、次第に炎は姿を消し、代わりに屋敷にぎゅうぎゅうに挟まるほど巨大化したゼラチン状の消炎藻が誕生した。

 どうやらこの屋敷の火事は、使用人のミスにより、運悪くランプの火が油に移ってしまい起きてしまったものらしい。

「何とお礼を申し上げればよいか、本当にありがとうございます。貴方たちは一体?」

「ボクたちは旅人だよ。困っている人がいたら助けるのが当たり前でしょ?」

「何と心優しい旅人さんだ。あの、一つお伺いしたいのですが、お二方はもしかして—————」

「あ、いや、そのぉ色々と事情があってね」

「元々、人間なのではないですか?」

「え?どうしてそのことを?」

「話すと長くなるのですが、それでもよければお話しいたしましょう」

「お願いするよ」

「時は、この島に国などなく、村が存在していた頃に遡ります」

 そう言って屋敷の主と思われる老人は、淡々と昔話を語り始めた。

「この島、リンク島には今と同様、東と西に二つの村が存在していました。そしてこの頃は各地に魔王軍がはびこっていた時代でもあり、リンク島も例外なく侵略されてしまいます。ですが、どういうわけか東の村は侵略されずに済み、おまけに東の村の村長は魔王軍の兵士であるウェルフィアにその命を救われたのです」

 それから更に話してくれた内容の中には元々この島は、西の村で東の村を隠すような作りになっていたと言う。今も勿論だけど、昔はお金に苦しむ人たちが多かったため、西の村は自分たちの村に利益を集中させようとしていたのではないかと言っていた。

「そしていつしか村は国へと変わり、村長一家はいつしか国の王族へと登り詰め、誕生したのが今のジェド国とランド国というわけです。ジェド国の王族はウェルフィアに恨みを持ち、そのためこの国にウェルウィアの一切の入国を禁止し、ランド国は救われた恩から遠慮なくウェルフィアを招き入れる国となりました。そうして初代王族の意思は今日の次世代へと繋がれて隣り合わせの国同士は、分厚い壁により離れ離れになってしまったのです」

 この島にはそんな謎が隠されていたのか、一つ大きな謎が解けたような気分だ。

 だけど、ボクの質問の答えにはなっていない。

「そのため意味も分からず国のルールに従っている国民は多いでしょう」

「だけどさ、ボクの質問の答えにはなってない気がするんだけど」

「ご安心ください。ここから話は繋がって来るのです」

 ボクは少しもどかしい気持ちになりながらも、再び話し始める老人の言葉に耳を傾けた。

「ジェド国はこのような理由でウェルフィアの入国を認めていないわけですが、三年ほど前から突如国内にウェルフィアが出没する事態が起き始めたのです。調べていくとどうやらそのウェルフィアたちは元々人間だったらしく、時が立っても人の姿に戻ることはありませんでした」

 おそらくそのウェルフィアたちが人だと判別できたのは、言葉による意思疎通ができたからだろう。

「え?」

 微かにだけど、ティーシェの情けのない声がボクの耳元に届いた。

「人の姿に戻れないって、じゃあその人たちは今どこに?」

「ランド国です。ジェド国の王族は例え元人間でも、ウェルフィアになってしまった者を国内に置いておきたくはないらしく、化けてしまった者たちは、ランド国へと移住しました」

 ランド国が人よりウェルフィアの数が多かったのは、そういうことだったのか。

「だからボクたちが人間だって分かったんだね」

「はい。王族に気づかれれば罰を与えられるかも知れません。この国から最初の犠牲者が出て以来、ウェルフィアになった者は自ら一目散にランド国へ逃げるようになりましたから」

「心配してくれてありがとう。だけどボクたちは国を出るつもりだったし、その時屋敷の家事が見えたから助けに寄っただけだからね」

 まぁ、ジェド国でボクのマジックを広められないのはとても残念だけど。

 いや、むしろ王族の心を貫くマジックを披露することができれば、二つの国を良い方向へと変えられるかもしれない。

 逆にこれはチャンスと捉えられる。

「それでは急いでこの国を出てください。助けてくれて感謝しています」

「この先、もっとボクに感謝する日が来るかもしれないよ」

「はい?それは一体どういう」

「ボクのマジックはすごいからね!」

 屋敷の住人たちはみんなポカンとした表情を浮かべていた。

 そしてボクたちは極力一目につかないように、されど急いでダルマのいる門へと向かった。

 

 門に着くと、もう見慣れた光景だと言わんばかりにダルマが呆れた表情をボクたちに向けてきた。

「お前たちもチョコレートの被害に遭っちまったか」

「被害っていうか、分かってて食べたっていうか。まぁ元に戻らないのは予想外だったけど」

「はぁとんだおバカさんだな、おい」

「ちょっとそんな言い方ないでしょ」

「あのな彼女さん、そう言いつつ貴方も食べちゃってるでしょうが。いずれジェド国には誰もいなくなり、ランド国がパンクする未来しか見えないぜ」

「心配御無用。必ずボクが何とかしてみせるさ」

「頼りねぇが、頼りにしてるぜ」

 そう言ってダルマに再び送り出され、ボクたちはランド国の門に立つ、ラフタルの下へ。

 

「おっ姉貴じゃないっすか!やっぱりランド国が恋しくなったんすね」

「そういうわけじゃないんだけど、この見た目でよく私だって分かったわね」

「あったり前じゃないっすか!姉貴の匂いは忘れませんよ!」

「ちょっとその発言は気持ち悪いよ」

 ボクの発言に対して、キレたラフタルがボクの胸ぐらを掴んできた。

 正直この衣装は手作りだから傷つけるのはやめてほしい。

「何だよてめぇは、あぁ?」

 チンピラのように下から上へとガンを飛ばしてくる。

「ユーリに何してるの?怒るわよ」

「すっすみません。以後気をつけます。ささっお通りください」

 ティーシェの発言にボクは救われ、その後大人しくなったラフタルにランド国へと通された。

 その後、ボクたちはアートゥたちを引き取りに洋服屋の店主の下を訪れた。

 当然アートゥたちには「誰⁉︎」っと驚かれたけど、事情を説明したら納得してくれた。

 だけど、アルギスはさっきのお返しと言わんばかりに笑い転げていた。

 でもまぁ笑われても何のダメージもないんだけどね、これはアルギスには内緒。

 それとティーシェは心なしか嬉しそうにしている。

 ウェルフィアと意思疎通できると言っても、相手の仕草から何を求めているかを察する程度のもの。だけど、ウェルフィアになっている今のティーシェなら、ウェルフィアであるティールと会話ができるというわけだ。

 ボクたちが食べたチョコレートは一種の呪いのようにも思えるけど、ボクからすれば嬉しすぎる手土産だ。

 

 洋服屋の店主の名前はエルミというらしく、ボクたちは心優しいエミルのおかげでお店の二階にある部屋に泊めてもらうことになった。

 部屋は全部で五つくらいあって、ボクとティーシェで一つずつ、計二つの部屋を貸してくれた。

「ところで、だいぶいい面になったじゃねぇかよユーリ」

「おかげで新しいマジックのヒントに繋がったよ」

「マジックのヒント?なんだそりゃ」

「数日中にはボクの新作マジックを披露してあげるから楽しみにしててね」

「まぁ何でもいいが、この島からは悍ましい何かを感じやがる。あまり長いはおすすめできねぇぜ」

 アルギスは真剣な表情でそう語る。

 言われてみればそんな気もしなくもない。

「オイラも感じる。とても嫌な感じ」

 人には分からない動物的本能ってやつだろうか?

 ボクも今はウェルフィアの姿になっているおかげで、その第六感が少なからず働いているのかもしれない。

「マジックをお披露目したら出発しようか」

 

 

 ボクは次の日から新作のマジック制作のため、ランド国にいる様々なウェルフィアや人々にお願いして写真を撮らせてもらい、色々な表情やシーンを記録として保存した。

 それと同時進行で、ボクが今まで見て感じてきたウェルフィアとの思い出を一つずつ絵として表現していく日々が続いた。

 もちろん、ウェルフィアに変身できる魔法のチョコレートの研究も忘れずに行った。始めは仕組みが全く理解できなかったけど、調べていくにつれてある事実が明らかになる。

 それは、ボクが一つの可能性として考えていたことで、少女から貰ったチョコレートには本当に呪いがかけられていたらしい。アルギスに聞いたところ、正確には「魔法」という力がかけられているとのこと。

 文字通り魔法のチョコレートだったってわけ。

 ボクがこれからしようとしていることは多分全員が歓迎することじゃないと思う。

 

 そうしてあっという間にリンク島での日々は流れ、一週間が経過した。

 

 ボクは一週間という時間をかけてこの島のショーにふさわしいマジックを作り上げた。

 そして更に、ウェルフィアに変身できるマジックの発明にも成功した。

 このマジックは、別人に変身するマジックと同様で時間経過とともに姿が元に戻る仕組みになっている。

 

 

 ボクは今日、この島の住民全員にボクのマジックを披露し、その後はティーシェたちを連れて新しい島に出発するつもりだ。

 そんな最終日にボクは目覚めの悪い朝を迎えた。

 原因は考えるまでもなく、外がかなり騒がしい。

 ティーシェも外の騒ぎで早くに起こされてしまったらしく、隣の薄い壁の向こうから不満を漏らす声が聞こえる。

「ねぇユーリ、まずいことになってるわ」

「まずいことって?外で一体何が起きてるの?」

 ボクの部屋の窓はデザインがモヤのかかっている感じになっていて、おまけに建て付けが悪く、窓が開けられないから外の様子が確認できない。

 ボクは軽く身支度を済ませてティーシェの部屋へとお邪魔し、窓を覗く。

「冗談だろ?一体何がどうしてこうなったんだ?」

 昨日まで穏やかだったランド国の風景は悲惨なものとなっていた。

 一部のウェルフィアたちが暴れ回っているのだ。

 一部のウェルフィアは、人の言葉で暴言を吐きながら人とウェルフィアを関係なしに襲っている。

 それを何とか理性を保ったウェルフィアたちが食い止めている状況だ。

「とにかく危険よ、今日のショーは諦めて早くこの島から出ましょう」

「だな、たった一週間の付き合いだ。他の島でお前のマジックを披露すりゃあいい」

 ティーシェとアルギスの言っていることは正しい。ボクのわがままのせいでティーシェたちを危険な目に晒すのは違うからだ。

 だけど—————

「ねぇティーシェ。ボクの夢、覚えてる?」

「え?」

「ボクの夢は、ボクのマジックを世界中に広めてみんなを幸せにすることなんだ」

「それは覚えているけれど、こんな状況じゃそれどころじゃないわよ」

「もしこの選択が間違いだったら、ボクのことを死ぬほど憎んでくれていい。だからボクに少しだけ時間をくれない?絶対、何とかしてみせるから」

 誰も何も言い返して来ない。

 だけどアルギスは明らかに不満そうな表情を浮かべていた。

「オイラは、ユーリを信じてる。ユーリは、オイラの親友だから」

「アートゥ」

「けっ、俺だって信じてる。今も昔も親友だからな」

「アルギス」

 やっぱりなんだかんだでアルギスは、心優しいウェルフィアだ。

「分かった。私もユーリのこと、信じるわ」

「ありがとうみんな、じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

 ボクは頭に乗せていた帽子を改めて深く被り直し、気合を入れて外へ向かおうとした時、初めて聞く女性の声が耳に響いた。

「おい小僧」

「えっと〜、誰?」

「私だ」

 声のする方向を徐々に辿っていくと、ティーシェのウェルフィアであるティールに辿り着く。

「もしかしてティール?」

「こうして言葉を交わすだけでも不快だが、もし、ティーシェに何かあれば貴様の臓物を全て引きずり出してやるから、そのつもりでいろ」

「ゴクッ・・・・・」

 ボクは一度喉を大きく鳴らす。

 冗談だとしても怖すぎる。いや、この圧迫感、冗談なんかじゃないかもしれない。

「は、はい!」

「よろしい、では行ってこい」

 ボクはティールにビビりながらも外へ向かい、宙へと浮かぶ飴玉を口へと放り込む。

 そうしてジェド国とランド国の境界線である巨大な壁の上に立ち、二ヵ国を見渡せる位置についた。

 ボクは音を拡大する音響石を口元にセットする。

「さぁ!これより、ボクのマジックショーを開演いたします!」

 下を見ると、ボクの声に何人かの人たちとウェルフィアが反応を見せている。

「これから披露するマジックは、ボクが心を込めて作ったものです。短い一時ですが、その一瞬の奇跡をお楽しみください」

 そう言ってボクは、指先ほどに細く、手のひらサイズの長さの笛を口元に添えて、高らかで滑らかな心落ち着くゆっくりとした音色を奏でていく。

 音色を奏でていくと笛のお尻から白い煙がモワモワと出ていき、次第に上空一体に広がっていく。

 そして煙は様々な形に姿を変えていき、立体的に動き出した。

 この笛は、ボクが作り出したマジックの笛。笛の中にある玉に、ここ一週間で撮った写真を記録し、ボクが一生懸命描いたウェルフィアの思い出の絵も記録した。

 このマジックは、記憶させた情報を煙が改めて立体的に表現してくれるというもの。

 煙は、様々な人やウェルフィアに姿を変えながら多様な色と音を纏ってボクの記録した幸せな、時にはハラハラするウェルフィアと人間との姿を再生していく。

「まだ終わらないよ」

 煙は光の粒になって徐々に溶け始め、地上に降り注でいく。

 光の粒を浴びたウェルフィアは、人の姿へと戻りウェルフィアの暴走は止んだ。

 既に両国の国中のみんながボクに注目している。

 昨日聞かされたことなんだけど、どうやらアートゥの涙にはいかなるものも浄化する力が備わっているらしい。そのためボクはアートゥの涙を少し分けてもらい、魔法のチョコレートでウェルフィアになった人たちを元に戻す計画を立てた。

 ボクとティーシェが暴走を起こさなかったのは、昨日の段階で予め、人の姿に戻っていたからだ。

 正直、ウェルフィアの姿でいたいって人もそりゃあいるだろうから、後で完成したウェルフィアに変身するマジックアイテムを少し分けてあげるつもりだ。

「ジェド国の人たち聞こえる?今日このマジックを披露したのは、君たちにウェルフィアの素晴らしさを知ってほしかったからなんだ。ボクが伝えたいのは、人とウェルフィアに境界線なんてないってこと。ボクたち人間はウェルフィアと笑い合えるんだよ、だってウェルフィアも人と同じように心を持っているんだから」

 正直今のボクの言葉も届いているかどうかは分からないけど、きっと届くと信じて言葉を紡ぐ。

「確かに人にはない特別な力を持っているし、外見だって人とは違う。だけどボクたちとウェルフィアは心で繋がれるんだ、ボクが今見せたようにね。寄り添う努力をしようよ、だって彼らは、素晴らしい生き物なんだから。だからまずはボクたち人間の内側にある心の壁と、ボクの足元にあるこの壁を取り壊して、人同士が歩み寄ることから始めるべきだ」

 気がつけば煙は全て地上へと降り注いで空は再び晴れていた。

「これにてボクのマジックショーを終わります。最後までお付き合いいただきありがとうございました」

 ボクは精一杯頭を下げて礼をする。

 すると、予想もしていなかった声援と拍手が両国から盛大に送られた。

「っ⁉︎」

 思わず涙が出そうになってしまう。

 これはきっと、ボクの夢への大きな第一歩になったとそう思う。

「随分とつまらなくなってしまったものですね」

 突然、背後から聞き覚えのある声がしたので振り向くと、そこにはボクたちに魔法のチョコレートをくれたフードで顔を隠した少女が立っていた。

「どうしてここにいるの?」

「それはどうしてただの少女が何十メートルもある壁の上に立っているのかという意味ですか?それとも、どうして私が貴方の前に現れたのかという意味ですか?」

 この少女は普通じゃない。そう思った瞬間、全身の鳥肌が一気に立つ。

 この少女が持つ魔法という力を使えば、空を飛ぶこともできるんだろう。

「一つ聞きたいんだけど、ウェルフィアになった人たちが暴走していたのって君のせいだよね?」

「そうですよ。ですが貴方に止められてしまいましたけどね」

「一体何が目的なんだ?どうして今ボクの前に現れた?」

「そんなに警戒なさらないで下さい。私は貴方に危害を加えようだなんて思っていません。先日は彼女さんも一緒でしたし、私なりに気を使ったつもりなのですよ」

 少女は被っているフードを取り顔を明かす。

 肌はボクたちと同じ肌色をしているけど、髪と瞳が濃い紫色に染まっている。そして、頭の両端には黒いツノが一つずつ生えていて耳が鋭く尖り、口元からは小さく牙も見える。

「ウェルフィア?」

「いいえ、私はそのような下級の存在ではありません。私は魔族と呼ばれる古の存在です」

 魔族、聞いたことがない言葉だ。

 もしかしたらパルセノとしてのボクの記憶にあるかもしれないけど、思い出した記憶は、ミリターナとアルギス、ユメフィオナと過ごしたほんの一部の記憶だけ。

「そのご様子だと、やはり覚えてはいないようですね。貴方は「転生する」と、言い残し私たちの前から姿を消しました。そんな貴方のことを私はそれはそれは長い間待ち続け、そして各地を回って貴方の駒となるウェルフィアを増やし続けたというのに失望しましたよ」

 ボクにはこの少女の言っている意味がさっぱり理解できなかった。

 ボクを待っていた?ボクのためにウェルフィアを増やし続けた?

「先日、何千年ぶりに貴方との再開を果たして私は歓喜に震えました。ですが、人間へと転生した挙句に記憶までなくされていたとは、非常に残念です」

「一体ボクは何者で、君の何だったのさ?」

「貴方は私にとってとても愛しい存在でした。貴方は————」

 その瞬間、心臓に響くような恐ろしい鳴き声が天空から響いてきた。

「ヒュールルルル」

「———様です」

 その大きな鳴き声により、少女の肝心な部分のセリフを聞き逃してしまう。

 鳴き声が止み、晴れていた空は真っ黒な雲で覆われてしまった。

 上空では、凄まじ量の雷が走っている様子。

「おや?本当に実在していたのですね。まさか命ある内にお目にかかれる日が来るとは思いませんでした」

 少女はボクとの話を一時中断して、鳴き声が聞こえた上空に視線を向けている。

「一体何がいるっていうんだ?」

「見上げてみれば分かることです」

 そう言われてボクも空を見上げてみると、徐々に雲の隙間から信じられないようなものが見え始めた。

 おそらく大きさは何百何千メートルとあるであろう大きさを誇り、まるで蛇のように関節がない軟体な体。

 その体の表面一体には、漆黒に輝く鱗を纏っている。

「なっ何なんだあれ⁉︎」

 しばらくして真っ黒な雲が左右に避け始め、晴れた晴天はいつの間にか夜空へと姿を変え、ポツンと輝きを放つ月が現れる。

 そしてそんな月の明かりに照らされたあまりにも次元のかけ離れた存在をボクは今、目の当たりにしている。

 驚きすぎて言葉が出ない。

 体が動かない。

 そいつの顔には木の枝のような形をした立派なツノと、細く長い髭が生えている。

「あれは龍。作り出した存在ではなく、太古の昔から存在している純粋な生物です」

 見たのも初めてだけど、その名を聞いたのも初めてだ。

「ウェルフィアとは違うの?」

「ウェルフィアは作られた存在であるため、全く異なる存在です」

 ウェルフィアは特別な力を宿した生き物のことだと解釈していたけど、魔族や龍と、ボクの中の概念を壊してくる存在が現れたことで改めてその定義を考え直す必要がありそうだ。

「龍は本来、天界に住んでいるとされています。そんな存在が地上に姿を見せたということは、天界が何者かに罰を下そうとしているのでしょう」

 罰?その瞬間ボクの脳裏には、ラグロク島で会った天界の王子と名乗る者の言葉がよぎっていた。

「まさか・・・・・」

「話の続きはまた今度にしましょう。また会うことができてとても嬉しかったです。では、私は失礼させてもらうとしましょう」

 そう言うと、少女はまるで煙のように姿を消してしまった。

 取り残されたボクも壁に設置しているロープを使って下に降りようとする。

 一旦動きを止めて龍に目を向けると、眼球が素早く左右に行ったり来たりしているのが窺えた。

 何かを探しているのか?

 その瞬間、ボクの疑念は確信へと変わる。

 少女の言っていた通り、誰かに罰を与えるために天界が寄越した龍なら、狙いはアルギスだ。

 ボクは降りるのを止めて再び音響石を口元に近づける。

「アルギス。狙いは君だ!今すぐ壁の外に出るんだ!」

 ボクの声に反応した龍が大きな眼球をギョロっとボクの方に向けて来た。

 ボクは更に自分へ龍の意識を引きつけるため、手持ちの花火を龍目掛けて打ち上げた。

 おそらくこの島にいる限りこの龍からは逃げられない。

 だからせめて、アルギスが国の外へ出るまでの時間は稼ぐ必要がある。壁の内側で龍がアルギスに攻撃を仕掛けたらどれほどの被害が出るか想像できない。

「ヒュールルォン!」

 打ち上げた花火は一瞬にして鼻息で消し飛ばされ、そのまま龍はボクへと突進して来た。

「うそうそうそ!」

 そのあまりの大きさに押し潰されそうになったボクは、咄嗟のことで壁の上から空中へとダイブしてしまった。

 当然、ボクの体は凄まじいスピードで地上へと急降下していく。

「うっ、わあぁぁぁぁぁ!」

 ボクは落下したながら帽子の中に手を突っ込み、体を軽くするマシュマロを手探りで探し始める。

 マジックアイテムのマシュマロは、風船のように体を軽くするものだけど、落下して重量が更に乗ったこの状況で、果たして体が宙に浮いてくれるかは正直かけだ。

「捕まってユーリ!」

 ボクを呼ぶ声が聞こえた瞬間、ボクの体は何者かにキャッチされた。

「ティール!」

「クエェェェェ」

「よくやったわティール。それじゃあこのまま壁の外まで飛んで行って」

 ティールはボクとティーシェの他に、アートゥとアルギスも乗せて飛んでいたらしく、壁の外に出ると少し疲れた様子を見せている。

 ボクたちはティールから降りると、壁から多少離れた森林の中で龍から身を潜める。

「おいユーリ。あの龍の目的が俺ってのは一体どういうことだ?」

「どうやら、天界からの罰みたいだ」

「ほぉ、なるほどな」

 そう言うとアルギスは、久しぶりに通常の大きさへと姿を戻す。

 相変わらずものすごい迫力があるな。

「お前たちは逃げても構わねぇんだぜ?これは元々俺一人の問題だからな」

「アルギスを置いて逃げるわけないだろ?それに今はボクたちに気がついてないようだしこのまま隠れてやり過ごそう」

「ありがとうよ。ここにあいつが現れたってことは俺がここにいることはバレてるってことだ。それに今逃げれたとしてまた別の島で襲われるだけだぜ。俺はここでお別れだ、せっかく救われた命を捨てる真似して悪りぃな。けどお前らをこれ以上巻き込むわけにはいかねぇからよ」

 アルギスはそう言うとボクたちに背を向けて歩き出す。

「あれと戦おうなんて思うなよユーリ。マジックしか能のないお前にはどうすることもできねぇ。かと言って俺の力も通じるようには見えねぇけどな。あばよ親友、彼女と新しい親友を大切にしろよ」

 アルギスはそのまま一人龍へと突っ込んで行った。。

 

「アートゥを連れて逃げてくれティーシェ」

「え?貴方まさか、行く気じゃないでしょうね?」

 ボクはただただ真剣にティーシェの瞳を見つめる。

「ダメよユーリ、バカなことはやめて。アルギスの覚悟を無駄にするつもりなの?彼は私たちには生きて欲しいから覚悟を決めたのよ」

「ボクもアルギスには生きていて欲しいんだよ。記憶は少ししかないけど、もうアルギスは君たちと同じくらいボクにとって大切な存在なんだ」

「だけど・・・・・私にだって貴方を失いたくない気持ちがあるわ!私は、貴方のことが———愛おしくてたまらないの!」

 一瞬、思考が止まるようなティーシェの言葉が耳に届いた直後、ボクたちが身を潜めていた森林の木々が全て吹き飛ばされた。

「逃げろお前ら‼︎」

「ヒュールルルル!」

 喉が潰れそうなほどのアルギスの叫び声が聞こえると同時に、視界いっぱいにど迫力の龍の顔面が飛び込んで来た。

 龍は大きな口を開けて迫って来ており、口の中には既にアルギスの姿がある。

「止まれ!この、クソ龍が‼︎」

 アルギスの願いは虚しく、龍の勢いは止まらない。

 このままじゃボクたちは全滅してしまう。

「ティーシェ、ボクも君のことが好きだよ。だから君だけは守らせてもらう」

「何を————」

 ボクはウェルフィアにだけ分かる言葉を発する。

「ティール。ボクが走り出したらティーシェとアートゥを連れて逃げてくれ」

「死ぬ気か小僧?」

「愛する人のためだよ、頼んだからね」

「ちっ、任せろ」

 ボクはティールにそう告げると、龍に向かって一目散に走り出す。

 怖くてたまらない。

 死にたくない。

 それに、ボクの夢はまだ全然叶えられてもいない。

 だけど、ティーシェがボクの分まで自分の夢を叶えてくれればそれでいい。

「ユーリ、何、何て言ったのよ!」

 徐々に遠ざかるティーシェの声。目の前に迫るドラゴンの牙。

「父さんと母さんによろしく」

 ドラゴンの口の中へと飛び込む。

 そしてボクは、帽子の中から大量の花火玉を取り出して龍の口の中で一気に爆発させた。

 

 掠れゆく意識の中、龍の口が次第に閉じ始め、視界は完全に闇に包まれた。

 

 

「ん・・・んあぁ」

 目を覚まし薄く瞼を開くと、強く眼球に光が差し込んで来た。

「全く、僕の忠告を素直に聞いていれば巻き込まれずに済んだものを。後少し回復が遅ければ死んでいたところだったよ」

 目の前には金色に輝くサラサラとした髪をなびかせ、横たわるボクを見下ろす白く輝く衣服を纏った存在が立っていた。

「ここは・・・・・もしかして天国?ボクはやっぱり死んじゃったのか?」

「うん君話聞いてた?死んでないしここは天国じゃない。そもそも天国なんてものは君たち人間の想像上のイメージにすぎないよ。ここは天界レヴィリンス。死者たちの憩いの場とも言えるね。まぁ君たちは死んでないけど」

「でも確かボクは龍に飲み込まれてそれで・・・・・」

「確かに龍に飲み込まれたかもしれないけど、瀕死になってた理由は君が起こした爆発だよ」

 ボクが爆発させた花火のせいで瀕死になっていた?

「アルギスは?」

「君の横に寝ている」

 隣を見ると、真っ白な床に同じように横たわる小さくなったアルギスの姿があった。

 どうやら、アルギスも回復をしてもらえたみたいで見た目で分かる傷はない。

「え?どうしてアートゥが」

 アルギスの横には、同じく地面に横たわるアートゥの姿もあった。

「どうやらそのウェルフィアも君と一緒について来ちゃったみたいなんだ」

「どうして・・・・・」

 ボクは囁くようにアートゥへ向けた言葉を口にした。

「君たちが見た龍の名前はムエルムと言うんだけど、後で謝っておいてもらえるかな?」

「謝る?ボクたちは被害者なんだけど?」

「いいや、被害者はムエルムの方だよ。彼は天界の唯一の龍で天柱と呼ばれていて、下界と天界との橋渡し的存在なんだ。つまりムエルムは、アルギスに直接罰を与える為じゃなくて天界で罰を下すために運ぶ役目を担ってもらっていただけなんだよ」

 ボクの勘違いで、危うくアルギスとアートゥとともに自殺してしまうところだった。

「それなのに君が攻撃するから口の中を血まみれにして帰って来たよ。ああ可哀想なムエルム」

 だけど、あの迫力で迫られれば誰だって身を守ろうと行動してしまう。

「あれは、どう考えても不可抗力だろ」

「とにかく、天界にいる間に絶対謝ってよね」

「わ、分かったよ。それはそうとさ、ボクたちを回復してくれたのって————」

「母上だ。血まみれの君たちを見るなり、すぐ回復していたよ。あんな母上は初めて見たね」

「確か君って、王子とか言ってた気がするんだけど、違う?」

「その通り、僕は天界レヴィリンスの王子で、いずれ王の座を継ぐ存在だ!」

 ミリターナは言っていた。かつてのボクの親友のウェルフィアであるユメフィオナは、天界の王妃になったと。

 そして以前にアルギスもその名を口にしていた。

「君の母親の名前は————」

 その時、丁度アルギスとアートゥが同時に目を覚まし、ボクは言葉を一度途切れさす。

「よぉユーリ。俺たちは死んじまったのか?」

「どうやら死んではいないらしいよ。まぁ、危ないところだったみたいだけど」

「そうか。悪りぃな、結局巻き込んじまってよぉ。てか、アートゥもいんじゃねぇかよ、俺のせいでほんとすまねぇ」

 アルギスは立ち上がると、そのまま床に頭をつけて土下座をした。

「オイラたちはついて来たこと後悔してない。だからお前も気にするな」

 アートゥはそう言うと、アルギスの肩にポンッと自分の手を添える。

「アートゥの言う通りボクたちの意思でしたことだよ。だけどアートゥまでついてくる必要はなかったのに」

「オイラはお前たちの親友。親友は見捨てられない」

「感動に浸ってるところ悪いんだけどさ、目を覚ましたのなら僕について来てくれる?目を覚ましたら連れてくるよう父上に言われてるんだ。レヴィリンスの王様にね」

 ボクたちは真っ白で無機質な空間を後にし、周囲が星々で包まれた道のりを経て、無数の輪っかが重なり黄金に染められた球を形作った空間へと連れてこられた。

「ここは天球儀の間と言って、王様とその従者たちが控える場所なんだ。ほら、足元気つけて順番に前へ進んで」

 王様の下までは一つの細長い通路が設けられていて、ボクたちは一列になって天球儀の中心部へと移動する。

 中心部へつくと、まるでそこが異空間のように入り口は既に壁で塞がれていて、巨大で豪勢な空間が広がっていた。

 そして、斜め上の方を見上げると、長方形の板のような物が空中に浮かんでいて、そこにある玉座に座る王冠を被った王の姿と、傍に従者数名が姿勢よく構えている。

「待ってたよ。それじゃあ早速で悪いんだけどそこのちっこい君には死んでもらおうかな。そうそう、そこの君だよ君」

 王の向けた指先は、ボクの隣にいるアルギスを指している。

「それとついでに、そこのイルカみたいなウェルフィアにも死んでもらおうかな」

「おいちょっと待てよ。俺はともかくこいつは関係ねぇだろ!」

 アルギスは体を元の大きさに戻して、王を前にして臆すどころか威圧的な態度を取る。

「たかだかウェルフィアごときがこの僕に意見する気か?これだからウェルフィアは嫌いなんだ。もういいよ、さっさとそいつらつまみ出して処分して来てくれる?」

 王の傍にいた従者たちがボクたちの下まで来ると、アルギスとアートゥの体をがっしりと掴んで外へ連れ出そうとする。

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。例え罰だとしてもいきなり死ってそれはないでしょう。それに、アートゥは何も関係ないはずですよ?」

 ボクは慣れない敬語を使って王に真正面から立ち向かう。

「ん?君はただの人間みたいだね。君はもう帰ってもいいよ、お疲れ」

 王は玉座にあぐらをかきながら、手の甲をボクに向けて二回縦に振り、出ていくように命令してくる。

「ボクは彼らの親友だ。親友の最後を黙って見過ごすわけないだろ!」

 ボクは煙幕を撒いてアートゥとアルギスの手を引き、天球儀の間から一目散に逃げ出そうと試みる。

「甘いよ、こんなんじゃ僕からは逃れられない」

 一瞬で煙幕はかき消され、再びアルギスとアートゥは従者たちによって取り押さえられた。

 そしてボクもまた一人の従者によって地面へと押さえつけられる。

「絶対ボクが殺させない!」

「あーもう、君うるさいなぁ。その人間をさっさと追い出してくれ、そこのウェルフィア二体は一度牢屋に入れておけ」

 

 その後ボクは強引に連行され、星々の景色をしている道のりの途中にある外へ繋がる扉から、外へ放り出されそうになっている。

「いやいやいや、ちょっと待ってよ。流石にここから落とされたら死んじゃうでしょ」

「だから何だ」

 だから何だって・・・・・ボクを外へ落とそうとしているこの従者には心がないのか?

「話し合おう、ね?話し合おうよっ!」

 ボクの言葉なんてお構いなしに従者は力いっぱいボクを突き飛ばし、その後扉はすぐに閉まってしまった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ボクがいたところは地球のように丸く大きな銀色の建物みたいな場所。

 それは宙に浮いていてその下は真っ白な雲が一面に広がっている。

 つまりここは遥か上空。

 こんな高さから地上に落ちたらボクの生命活動は今度こそ終了してしまう。

「焦るな、こんな時こそアレを試す時じゃないか」

 ボクは長方形の一口サイズチョコレートを帽子から取り出して口へと運ぶ。

「クルォォォ!」

 ボクの体は全身が緑色をした首の長く、大きな翼を備えたドラゴン?へと変身した。

 このチョコレートは言うまでもなく、少女のくれたチョコレートのアイデアをモチーフにして作ったもの。

 これには、ランド国にいたウェルフィアの細胞を少しだけ貰ったものを加えている。

 制限時間は約十から十五分程度。

 ボクは翼を必死にバタつかせて何とか球体の建物にしがみついた。

「さて、問題はここからどう中に入るかだ」

 ボクは鋭い自身の爪をツルツルとした球体の表面に突き立てながら、どこかに入る隙間がないかを探していく。

「ダメだ〜全然見当たらない」

 ボクは疲れて球体のてっぺんで寝転がっていると、突然球体に穴が空き、硬い床へと叩きつけられた。

「イッテテテテテテ」

 室内は薄暗く、外の光が入り込むことで少し辺りが照らされる。

 その部屋はあまり広くはなく、物が何一つ置かれていない無機質な空間だ。

「え?」

 だけど部屋の隅に誰かの姿が見える。

 どうやらしゃがんでいるようだけど、その姿は大きく、立ったら高さ五メートルはありそうだ。

 それになんて綺麗な体毛なんだろう。

 暗がりでも分かるほどサラサラとした真っ白な毛並み。

 背を向けているせいで顔は見えないけど、ドラゴンとは少し違うみたいだ。

 虎のような後ろ脚に鷹のように鋭い爪を持つ前脚、まるで王冠を被っているかのような逆立った真っ白な頭の毛に、閉じていても分かるドラゴンのように大きく立派な翼を持っている。

 表すなら、そう、想像上のウェルフィアとして実在しないとされているグリフォンによく似た存在。

 だけど、幼い頃に本で見たグリフォンとはどこか違う。

 このウェルフィアを、ボクは知っている。

「そこにいるのは一体誰、ですか?」

 突然囁かれた一言にボクの体は少しビクつく。

「あっ、いや、そのぉ、決して怪しい者とかではなく、この建物の外にいたらたまたまこの部屋に行きついたんだ」

「・・・・・そうですか」

 何か話したかと思えば、すぐに会話は途切れてしまった。

「あのぉ、一つ聞いてもいいかな?」

 特に反応は返ってこないので、ボクは勝手に質問することにした。

「よかったら、名前を聞かせてくれない?」

 そしてボクの質問からしばらく間をおいた後に、目の前のウェルフィアは口を開いた。

「ユメフィオナ・・・・・お久しぶりですね、パルセノ。いえ、姿が別人ということはもうその名ではないのでしょう」

 やっぱりこの全身が真っ白な体毛で埋め尽くされたウェルフィアは、かつてのボクの最後の親友であるユメフィオナだ。

 でも何でこんなところに王妃であるユメフィオナがいるんだ?

「ボクはそのぉ、昔の記憶がないんだ。だから君が誰かは知っているけど、思い出は忘れちゃってるんだよ」

「そうでしたか。私も、以前の私ではもうありません。貴方はここにいるべきではない、早くこの城から出るのです。アルギスたちは一緒ではないのですか?」

「捕まったんだ、王の従者たちにね。だからボクは助けに行かなくちゃ、親友を失うわけにはいかないよ」

 ボクの言葉を受けて、ユメフィオナがゆっくりと顔を向ける。

 なんて美しいウェルフィアなんだとそう思った。

 まつ毛は少し青みがかったほんのりと薄い水色のような色をしていて、長く。瞳は黒く純粋な色をしていて、ユメフィオナの優しさが垣間見える。

「親友・・・・・なんて懐かしい響きでしょう。貴方と過ごしたかつての日々が愛おしい。ですが、私は協力することはできません」

 ユメフィオナは自身の唇を血が流れるほど強く噛み締める。

「私は、夫である王から洗脳を受けています。そのため、王に逆らう行動、言動、思考はできないのです」

 ユメフィオナはキラリとした涙を一滴垂らし、再びボクに背を向けた。

「大丈夫だよユメフィオナ。ボクは君のことも見捨てはしない。だから待っててくれる?」

「待つ?一体何をです?」

「アルギスたちを助け出して、君のことも必ず救ってみせるよ」

「それは不可能です。王は、魔法で私に呪いをかけたと言っていました。ですから————」

「ボクは君の知ってるボクじゃないかもしれないけど、信じてほしい。約束するよ、必ず君を自由にするって」

 そう言ってボクは、暗がりの中でうっすらと見える部屋の扉へと歩き出す。

「それじゃあ行ってくる」

 ボクは再びマジックチョコレートを口へと放り込み、全長十五センチほどのドラゴンウェルフィアへと変身すると、透明化の力を使って部屋を出た。

 そしてアートゥたちが囚われている牢屋の場所を探し始めた。

 マジックチョコレートは任意のウェルフィアの姿に変身できるだけでなく、そのウェルフィア特有の特別な力も少しの間使えるようになる。

 

 そうして約十分程度アートゥたちが監禁されている牢屋を探していたら、デカデカとしたとてつもなく巨大な存在感を放つ太陽らしき物体が宙に浮いている部屋に辿り着いた。

「ここは・・・・・あれは何をしているんだろう?」

 目の前に広がる景色には、大きな太陽らしき物体を取り囲むようにして青白く光る球体状の物が連結して円を作り、歌いながらぐるぐると回転している。

 そして歌が終わると、太陽らしき物体はガラスのように透明になってしまい、ボクの存在に気がついた光たちがボクの下に集まって来た。

「えー誰誰?」

「見たことない人だ。お兄さんも天界の住人なの?」

「どうして全身赤い服を着ているの?」

 次々と飛んでくる質問に頭がパンクしてしまいそうになる。

「ちょっと待って!」

 ボクが大きな声を上げた途端、一気に静まり返り、続いて老人の声をした光が話しかけて来た。

「もしかして何も知らずに天界に迷い込んでしまった下界の子ではないのか?」

 何も知らずに迷い込んだというのは少し違うけど、現在進行形で道に迷ってしまったのは確かだ。

「ボクそのぉ、友人を探しているんだ。そしたら道に迷っちゃってさ」

「というと?」

「天界に来た途端、突然ボクの友人はここの王に捕まって、早くしないと殺さちゃうんだ」

 光の玉は少しの間黙り込んだ後、何かを思いついた口調で提案を持ちかけてくる。

「その友人というのは、もしかして二体のウェルフィアのことかな?」

「そうだけど、どうして分かったの?」

「王様から先ほど聞かされたんだ。もうすぐ次の仲間が二名追加されるとね。君の話を聞いてみて、もしかしたらその友人のことではないかと思ったんだよ」

「ひょっとして君たちは、死んでしまった魂なの?」

「その通り、私たちは下界での生を終え天界へとやって来た哀れな魂たちだ」

 見たところアートゥとアルギスの魂はない。

 信じているけど、ボクは胸を撫で下ろしてほっとする。

「んん、少し話が逸れてしまったね。要するに君は、そのウェルフィアたちの居場所が知りたいと、そういうことだね?」

「うん、もしかして知ってたりするのかな?」

 ボクは被っていた帽子を胸に当て、食い入るように魂へと顔を近づける。

「まぁ知っているというか、これからそこへ向かうというか」

「向かう?それならボクも連れてってくれるかい?」

「ではこうしよう。私たちは天界へ送られてからというもの、やることがなくてとてもとても暇なんだよ。そこでだ、私たちを喜ばせ、楽しませることができれば君を友人の下へ案内するというのはどうだろう?方法はなんでもいいぞ」

 正直、そんなことをしている場合ではないけど、他に頼れる手段がないのも確か。

 ここは一つ、ボクのマジックを披露するとしよう。

「分かったよ」

 ボクはすぐさまマジックの準備に取り掛かる。

 ついでに中央にある透明な球体の質感と強度もチェックしておく。

 球体はガラスと似たような質感で、叩くとコンコンといった音を奏でた。

「おぉ、これは使えそうだね。よしっ」

 ボクはパッと見、何万といそうな魂達をガラスの球体の前へ集合させ、マジックを開始する。

「さぁさぁではこれより、特別臨時マジックショーを開演いたします」

 ボクは被っていた帽子をガラスの球体の真下へとおくと、あるマジックアイテムを起動させる。

「こちらをご覧ください」

 ボクがガラスの球体へと手を向けると、空間は星々が浮かぶ夜空の風景に包まれ、ガラス内には帽子から飛び出す光によってある映像が投影される。

 映像の内容は、昔本で見たことのある海賊船が豪快に波に揺られるものや、クラゲと呼ばれるウェルフィアがフワフワと水中を泳ぐもの、更にはリンク島で見せたアルギスのファッションショーの様子を映し出したものなどなど。

 このマジックは、小さい頃に父さんと母さんから小さなガラスの中に絵が入っているプレゼントを貰った当時、気に入ってよく自分でも何かガラスの中に絵を入れられないかと試行していたことからヒントを得たもので、時間がある時にお遊び程度にちょくちょくと作っていたものだ。

 正直まだ未完成だけど、披露するには問題ない段階までは仕上がっている。

 そうして一通りのマジックが終わり、空間に広がる夜空は消えて再び明かりを取り戻す。

「以上でマジックショーを終了いたします。ありがとうございました」

 ボクが礼をして顔を上げたと同時に、大勢の魂から喜びの声が溢れ出る。

 表情は一切分からないけど、喜んでもらえたみたいでよかった。

「素晴らしい一時をありがとう。約束通り、友人の下へ案内しよう」

 再び老人の声がする魂がボクの下へ現れると、次第にボクの足場は多くの魂に囲まれて、アルギスたちの下へと導かれていった。

 

 

 そうして連れてこられた場所は天球儀の間。先ほど偉そうに王が座っていた玉座のある部屋へと足を踏み入れて、更にその先の空間へと導かれる。

 そこに広がっていた空間は、大きな円形の闘技場のようになっていて、ボクの視界の先にはうつ伏せで台に体を固定されているアートゥとアルギスの姿があった。その両隣には、光り輝く大剣を天に掲げてアートゥたちの命を狙う従者の姿と、真正面には偉そうに剣を地面に突き立て、その光景を間近で眺める王の姿があった。

 ボクはそんな光景を客席の最後尾から眺めている状態だ。

 客席には遠くの方までびっしりと白い衣服に身を包んだ従者たちの姿が見受けられ、大勢が白目を剥きながら死刑に歓喜の声を上げている。

 気がつくと、ボクを案内してくれた死者の魂たちもバラバラに散って、それぞれが観客として一丁前に客席についている。

「あれ?君まだいたんだ。とっくにレヴィリンスから追い出されたのかと思ってたよ」

 突然横から声をかけられ、多少驚いたボクは即座に視線を向ける。するとそこには、王子の姿があった。

「いい機会だから君に聞きたいんだけど、どうしてウェルフィアを助けようとするの?父上が昔言っていたんだ。ウェルフィアは悪だってね、世界から消す必要がある存在なんだってさ、それなのに君は助けようとしてる。どうしてなんだ?」

「ボクにとっては家族と同じくらい大切な存在なんだよ。出会ってそんなに長い月日は経ってないけど、一緒に旅をしてきた仲間で、親友なんだ。絶対失うわけにはいかないんだよ」

「・・・・・大切な存在、か」

 と、その時、歓声は更にエスカレートしていき、最早叫びに近いものになっていた。

「まったく、父上の洗脳は度が過ぎている。この光景は、僕もあまり気分のいいものじゃない」

 ボクは客席の階段を転げ落ちるように降りると、舞台へと身を乗り出し叫ぶように名前を呼ぶ。

「アートゥ!アルギス!」

 ボクの叫びは大勢の声量に負けて届かない。

 だけど、王が地面に突き立てていた剣を頭上へと振り上げた途端、静寂が訪れた。

「よかった。これから君を探しに行こうと思ってたんだ。手間が省けたよ——————やれ」

 王の指示により、両隣で構えていた従者たちの大剣が遠慮なく振り下ろされる。

「やめろ——————‼︎」

 ボクは声が掠れるほど大声で叫び、気がつくと駆け出した両足からは力が抜けてその場にしゃがみ込んでしまっていた。

 頭の中が真っ白になり、歪んだ視界でボクは捉える。振り下ろされて地面へ食い込んだ大剣の側に何かが転がる光景を。

「あぁ————————————っ‼︎」

 ボクは声にならない悲鳴を上げる。

 心が裂ける、壊れる。

 何もできない無力な自分への怒りと悔しさが一気に込み上げてくる。

「どうして・・・・・こんな、こと」

 ボクは今まで抱いたこともない憎悪を王に対して抱く。

「彼らはいずれ消える運命だったんだ。それが少しばかり早まっただけさ」

「よくもボクの親友を!許さない、許さないぞ!」

 ボクは震える足にできる限りの力を込めて立ち上がろうとしたその時、突如目の前に真っ白な羽がヒラヒラと降って来た。

 上空を見上げると、大きな翼を広げて、きらびやかに上空を舞うユメフィオナの姿があった。

「ユメフィオナ。どうしてここに?」

「しっかりするのです。彼らは生きていますよ」

「そんなはず——————」

 視線をアルギスたちに向けると、またもや言葉を失ってしまった。

「どうして?」

 今さっき首を落とされたはずのアートゥとアルギスは、傷一つない拘束された状態へと戻っている。

「早く逃げるのです」

 王と従者たちの間に動揺が走る。

 ボクはその隙をついて帽子から多くの煙玉を取り出すと、一斉にばら撒いた。

「小癪な」

 ボクは煙幕の中、王の手からアルギスとアートゥを救い出すことに成功し、両脇に抱えて空間の出口へと向かう。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 視界が煙幕で曇る中、神経にまで響くほどのユメフィオナの叫び声を聞いて、ボクは足を止めた。

 次第に煙幕は晴れていき、闘技場の中央には頭を王に踏まれた状態で弱々しく地面に横たわるユメフィオナの姿があった。

「ユメフィオナ!」

「早く、行くのです」

 ユメフィオナは王により洗脳の呪いがかけられ逆らうことができないと言っていた。つまり、ボクたちを助けるために自らが犠牲になったということ。

「そんな・・・・・置いては行け———」

「行きなさい!」

「くっ」

 ボクは溢れる涙を拭い、ユメフィオナに背を向けると、重たい足を前へ前へとがむしゃらに踏み出して天球儀の間を後にした。

 

 そうして無我夢中になって城中を走り回っていると、全体が赤い光で包まれた異質な部屋に辿り着いた。

「ユーリ。まさかあれってユメフィオナか?」

「そうだよ。ボクたちを助けるために犠牲になってくれたんだ」

「あいつも変わってねぇな。普段は他人なんてどうでもいいような面してやがるが、俺たちのことになるとあいつは自分を犠牲にしちまうところがあった」

 アルギスは懐かしむというよりは悲しむようにそう語る。

「助けに行かなくちゃ・・・・・約束したから」

「約束?」

「絶対に助け出すって約束したんだ。ボクはユメフィオナの洗脳を解いて彼女を縛るこの天界から解放する」

「洗脳ってのは一体何の話だ?」

「ユメフィオナは、あの王によって王には逆らえない洗脳が施されているらしいんだ」

「逆らえない、か。それなのにあいつは一瞬でもその洗脳を打ち破って、俺たちを助けてようとしてくれたのかよ」

「次はボクらの番だ。だからアルギスとアートゥにも協力して欲しい」

「あたりめぇだろ」

「・・・・・」

 アートゥからの反応が返ってこない。

 振り返りアートゥの方に視線を向けると、この赤い空間の中心に置かれた漆黒の玉座に何やら意識を奪われている様子。

 ボクはその玉座よりも、この空間の壁に沿って立てられている六本の漆黒の柱の方が気になる。

「アートゥ?」

「ユーリ。この部屋何か嫌な感じがする」

 アートゥの体は小刻みに震えていて、明らかに恐怖を感じている様子。

「なら、一先ず場所を移そうか」

「どこに行くんだい?」

 ボクたちが出口へ向かおうとしたその時、突然背筋が凍りつく声がした。

「どうして、こんなに早く・・・・・」

「僕の目はこの城全体に行き届くんだ。だから君がユメフィオナの下を訪れた段階から気がついてたよ」

 声がだんだんと近づいてくると、次第に王が姿を現す。そしてその後ろには従者が数名控えていて、側にはユメフィオナの姿もあるけど、頭の毛を掴まれた状態でぐったりと地面に横たわっている。

「お前ら、自分が何してんのか分かってんだろぉなぁ?俺たちの親友をそんな扱いしやがって、容赦しねぇぞ」

 アルギスは元の大きさに戻り、目の前にいる敵全員を威圧し始める。

「よりにもよってこの部屋に逃げ込むなんて君たちは本当に運がないね」

 王はそう言うと、軽く指を擦り合わせてパチッと音を鳴らす。

 すると、赤い光で染められていた空間内は一瞬にして青い光で染め上げられる。

 と同時に、王を除くこの場にいる全ての者にとてつもない重力の圧がのしかかった。

「くっ、あっ、アポラ王様・・・・・なぜ私たちまでもこのような扱いをっ」

「ん?君たちはもう消えていいよ」

 直後、王の取った信じられない行動にボクたちは目を疑った。

 王は、自分を慕っていてくれた従者に対して懐に収めていた剣を抜き、その命を一切の迷いなく奪った。

「僕の望みを叶えられない者はいらない。それよりも早速、本題に入ろうか」

 王は地面に寝そべるボクの前まで歩いてくると顔スレスレで足を止め、直接触れずにアルギス、アートゥ、ユメフィオナの三体を周囲にある柱にくくりつけた。

「理解できないって顔だね。それなら特別に教えてあげるよ、僕は魔法が使えるんだ。君なんかの子供騙しとは違ってね」

 王は中央にある椅子に腰掛けると、光を帯びた掌をボクに向ける。

「・・・・・やっぱり君に洗脳魔法は効かないみたいだね。まさかとは思ったけど、確信したよ。また僕の前に現れてくれたなんて嬉しく思うよ———古の魔王であり、ウェルフィアの創造主よ」

 魔王?ウェルフィアの創造主?一体この王は何を言っているんだ。

 ボクはこの体に転生する前はパルセノ・グリーシャという一人の青年だった。ウェルフィアに愛され愛した存在。

「洗脳などの相手にその効果を付与する魔法は、かける相手が格上だと効力を発揮しないことがあるんだ。つまり君は何千年と生きて来たこの僕よりも高次の存在ということになる」

「ボクにはまだ、知らなきゃいけない過去がある?」

「その通りだよ。君はかつて世界を滅ぼそうとした魔王の生まれ変わりで、例え何度転生したとしてもその本質は変わらないってこと」

「貴方はボクの何を知っているの?」

「何でも知ってるさ。お前が一体何者で、過去に何をしたのか、その全てを知っている」

 王の言葉には、僕に対する憎しみの感情が込められているように聞こえた。

「もう何千年と昔のことだ。僕は当時、勇者と謳われ魔王討伐を期待されていた存在だった」

 王はかつて自分が見て来たであろう光景をボクの頭に流し込みながら、淡々と話し始める。

「だけど、魔王である君に何百何千回挑もうと魔王を倒すことなんてできなかった。始めは、魔王軍の数も百かそこらの人数しかいなかったから何度心を折られそうになっても最後に勝つのは僕だと信じて諦めなかった。ところが、いつしか日に日にその数は増え続け、僕の手には負えなくなっていったんだ。その要因が君の作り出したウェルフィアさ」

 どうしてここでウェルフィアという単語が出て来たのか、ボクは一瞬理解ができなかった。

 だけどここから衝撃の事実を知っていく。

「ウェルフィアは動物や昆虫、どこにでもいるような生き物たちが特別な力を持ってしまった存在のことだ。まぁああいう例外もたまにいるけど」

 王はアルギスたちを指さしそう語る。

「真実はウェルフィアとは、かつて魔王が平凡な生物たちに魔力を授けて新しく作り出した改造戦闘生物のことだよ。今では人と共存なんてしているが、かつては魔王軍だった存在だ」

 ウェルフィアは、魔王だった頃のボクが生み出した存在?

 つまり、そのせいで世界は——————

「そして魔王としてお前が消えた後、残されたウェルフィア共は人類に攻撃を仕掛けて来やがったのさ。君も聞いたことがあるはずだよ、人類とウェルフィアが共存する前は互いに戦争していたということを。その原因が全てお前だ!」

 王は重力の圧に押さえつけられているボクの首を鷲掴みにして宙に持ち上げると、掴む力が一層強くなる。

「うぅ」

「レヴィリンスで初めて君を見た時は、君だと気づかず悪かったね。だけどあまりに変わりすぎてたんだ、無理ないだろ?だから君の方から戻って来てくれて嬉しく思うよ」

 ボクは首を力強く締められながら、掠れた声を絞り出す。

「つまり、ボクを・・・・・恨んでいるんだね」

「・・・・・当たり前だろ‼︎」

 王は直後、悲鳴にも似た奇声を上げてボクを地面に叩きつけた。

「かはっ」

「あの漆黒でおぞましい憎悪で満ちた邪悪な姿、今でも夢に出てくることがある。かつての君は自分が犯した悪行に嫌気がさしたとほざき、転生する度に一部の力を失っていく呪いをかけたと言っていた。そして一度目の転生で君は魔王としての記憶と絶大なる力、そして魔族としての血液を失った」

 おそらく一度目の転生はボクがパルセノとして転生し、ミリターナとアルギス、ユメフィオナと親友になった時だろう。

 ボクが忘れてしまっているだけで、パルセノだった頃にも、ボクは王と会っていたんだ。

「二度目の転生はまさに今の君だよ。見た限り今回で魔力を失い魔法が使えなくなったみたいだね。ついでに多くのウェルフィアにも嫌われてしまったのか・・・・・この先更に転生を重ねるごとに次第に五感全てを失い、そしていつか消えてなくなる・・・・・ふざけたことをしやがって、何が嫌気だ後悔だ!戦争の火種を生んだ分際で、一人で勝手に逃げてんじゃねぇぞ‼︎」

 魔王のボクは、きっと普通で平凡な日々を送りたかったのではないだろうか。

 だけど王が話したことが真実なのだとしたら、ボクに世界中の人々を笑顔にする資格なんてないんじゃないかと思ってしまった。

 歴史上では、人類とウェルフィアとの戦争は五百年ほど続いたとされていて、数えきれない多くの命がこの世を去っていった。その戦争の原因がボクなのだとしたら、この命を持ってしても償いきれない。

 ボクはただただ唖然とし、抵抗する気力が徐々になくなり体から力が抜けていく。

「僕はウェルフィアに親を奪われて、大切な者を全て奪われた。だけど諦めずに戦い続けたことで今こうして天界の王になれている。そしてボクの目的はただ一つ、この世から全てのウェルフィアを消し去ることだ」

 そんなことはさせない、そう思う気持ちは言葉になる前に喉につまってしまう。

「何さっきから黙ってやがるんだユーリ!こんな言いたい放題言わせてていいのかよ。お前は、ユメフィオナを助けるんじゃねぇのかよ!」

 アルギスが必死にボクへと言葉を投げかけてくる。

 ごめん、ごめんよアルギス。ボクは君たちを失いたくない。だけど、なぜか思うように体が動かせないんだ。

「君の心は一度壊れた。僕はその隙を利用して君に洗脳の魔法をかけさせてもらったよ。さぁ、ようやく僕の夢が叶う時だ!」

 そう言って王はボクを中央にある玉座へと座らせると、ユメフィオナが拘束されている柱がボクの前へと移動してくる。

「ユメフィオナ、僕を恨んでいるかい?」

「恨んでいない、と言えばそれは嘘になります。ですが、かつて私は貴方に救われました。悲しい気持ちはありますが、貴方の妻になったこと、私は後悔していません」

「洗脳が少し効きすぎたか?」

「いいえ、これは紛れもない私の本心です」

「あっそ、まぁいい。それじゃあこれからユメフィオナの時間を操る力を無理矢理引き出して一時的に君を魔王の姿へと戻す」

 時間を操る力?なるほど、そういうことだったんだね。

 切り落とされたはずのアルギスとアートゥの首が元通りになっていたのは、アルギスたちの時間だけを巻き戻したからだ。そして、巻き戻す前の時間に戻っていないことから同じ時間を辿ることはないということ。

 ボクはそんな力がこれから自分にかけられることに恐怖を覚える。

 同じ時間を辿らないということは、一つ間違えればボクは再び魔王としてこの世界で生きていくことになってしまう。

 もし、ユーリ・アリエスに戻れなければ、ボクは再び世界を滅ぼしてしまうかもしれない。

「そして魔王となった君の力を即座に反転させる。ウェルフィアを作り出したその力を逆転させることでこの世からウェルフィアは消えてなくなる」

「はは、ほざけよクソが。お前さっき自分で言ってただろうが、ウェルフィアは魔王から魔力を与えられた元々普通の生物だとな。そんなことをしても俺らは普通に戻るだけだぜ」

「アルギスと言ったか?バカだね君は」

「ああ?」

「君たちは魔王の実験で生み出されたウェルフィアの子孫に当たるウェルフィアたちだ。元々普通でない君たちが普通の生物になれるはずがない」

 と、その時、ガチャリと部屋の扉が開かれて青く染められていた空間は、再び赤い光で染められる。

「父上・・・・・父上は、本当にこの世界からウェルフィアを消すおつもりなのですか?」

「ラグウェロ————どうしてここに」

「父上は母上にも、洗脳の呪いをかけられていたのですか?」

 王子は瞳と体を震わせながら父親である王へと近づき、その手を取る。

「僕は父上からウェルフィアは悪だと教えられて来ました。ですが、本当に悪なのでしょうか?」

「ラグウェロ。お前は一体何を言っているんだ?話を聞いていたなら分かるはずだ」

「ですが父上、母上もまたウェルフィアです。母上は僕が小さい頃、毎日のように僕に愛情を送ってくれました。そんな優しい母上のことが大好きでした。父上が母上との接触を禁じて以降母上と関わる機会がなくなり、僕の母上への思いが次第に麻痺していくようになりました。だけど、彼のウェルフィアを助けたいという必死な思いを目の当たりにして、僕は母上の大切さを思い出せたのです」

 王は王子の手を払いのけると、一言投げ捨てる。

「ラグウェロ。僕は君のことは愛している、だけどユメフィオナのことはこれっぽっちも愛してはいない。始めからただ利用していただけだ」

「父上、母上のことを殺さないでください。お願いです」

 王子は王へと頭を垂れ、必死な思いで説得を試みようとする。

 王子はまだ、ボクと同じくらいの幼い見た目をしている。そしてそれは心も同様に。

 そんなまだ幼い王子から母親を奪うとなると大きな心の傷を負う可能性は十分にあるだろう。

 王は、例え愛する息子を傷つけてまで自分の目的を果たそうとしている。

 まさに修羅だ。

「僕のことを怒らせないでくれラグウェロ。今すぐここから出て行け・・・・・行け!」

 王子は体をビクつかせると、王へと背を向け自身の唇を血が出るほど力強く噛み締め、悔しさを含んだ涙を大量に浮ばせながら部屋を後にした。

「さて、邪魔も消えたことだし早速始めようか」

 すると、王はモゴモゴと何かを唱え出し、柱が黄金の輝きを帯び始めるに連れてユメフィオナが苦痛の表情を浮かべ始める。

「くっ、あっ・・・・・」

「そうだ、もっと苦しめぇ・・・お前の苦痛が時代を変える糧となる!」

 その瞬間、ユメフィオナから発せられた電磁波のようなエネルギーの塊が、ボクの体へと飛び込んで来た。

「うぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 全身の骨が粉砕されて、内側から火で炙られるようなものすごい苦痛がボクを襲う。

「・・・・・・」

 次第に意識が朦朧とし始め、ボクはそのまま気を失った。

 

 ここは・・・・・

 気がつくとボクは、周囲がくじゃくの羽のような模様をした風景の、無数に地面から光り輝く円錐状の柱が生えた空間にいた。

 これらは彼方先の方まで永遠と広がっている。

「これは一体・・・・・」

 興味本位で柱の一本へと手のひらを触れてみると、その瞬間、ボクの前世の記憶と思われる映像が頭の中へと飛び込んできた。

「パルセノだった頃の記憶だ!」

 ボクは次々と光の柱へと触れると、触れた先から徐々に空間から光が失われていく。

 忘れていたはずの前世の記憶を思い出していく。

 ミリターナ、アルギス、ユメフィオナと出会い、長きにわたる旅をした記憶。そしてボクたちが人類とウェルフィアとの戦争を終焉させるカギとなった、両者共存の意味を世界中に広める役を担った記憶。

 

 そして次の光の柱に触れた瞬間、見覚えのある少女の記憶が飛び込んできた。

 確か、リンク島のジェド国でウェルフィア化するチョコレートをばら撒いていたあの少女だ。

「魔王様、転生とはどういうことですか?」

「私は魔王であるべきではないのだ。もう、魔王ではいられない。許せアウロラ。例え転生しても私はお前のことを愛している」

「いやです。行かないでください・・・・・私を置いて行かないで!」

「後のことはお前に任せるぞアウロラ」

 記憶は短く、そこで途切れた。

「ボクは、最低だ。彼女はボクにとって—————」

 僕がどんな思いを抱いて転生したかなんてどうでもいい。

 なぜ彼女を残して来てしまった、なぜもっと近くにいてあげられなかった。

 戦争を起こしたウェルフィアをアウロラが先導したのかは分からないけど、これだけは言える。

 アウロラは、あの頃のボクとの日々をもう一度送るため、ボクの帰りを待ちながら魔王軍とするウェルフィアたちを作っていたんだ。

「全部ボクのため、ボクのせいだったんだ」

 全部全部ボクのせいだったんだ。

 ラグロク島のことだってそうだ。

 ウェルフィアを作り出さなきゃアルギスたちと旅をすることもなかったかもしれないけど、アルギスが天界から命を狙われることもなかった。もしかしたらミリターナも死なずに済んだかもしれない。ユメフィオナも苦しまずに済んだかもしれない。勇者のこともあんな風に変えてしまったのはボクなんだ。

 償いきれない罪の重さがボクを襲う。

「ごめん、ごめんみんな」

 ボクは溢れ出る涙を止められずに地面にしゃがみ込むと、そのまま腕に顔を沈めて小さな子供みたいに泣きじゃくった。

 

 しばらくすると気分も多少は落ち着いた。

「ボクにみんなを幸せにする資格があるか、じゃないな」

 今更世界の時間なんて戻りはしない。

「今のボクにはマジックがある。これまでボクのせいで生んでしまった悲しみの分、いやそれ以上に、ボクは世界に、ボクのマジックで笑顔を幸せを届けよう」

 ボクの旅の目的はボクのマジックを世界に広めてみんなを幸せにすることだった。

 そしてこれから先は、更に強い決意と覚悟を持ってその目標へ進んで行こう。

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