第10話 魔角等級
クルトは立て続けに言う。
「第七魔角級は魔角の中でも最上位。しかも、その魔角はここ数百年の魔壊士の歴史の中でも数人しか存在していない伝説級の魔角だ。まさか……ネロにこれほどの才能があっただなんて……」
「え……」
そんなに凄い魔角なの?
もしかして……調子に乗ってやり過ぎてしまった??
「やっぱり、お前は天才だーっ!」
クルトは俺のことを痛いくらいに抱き締めてくる。
そんな中、俺が呆然としていることに気づいた彼はその腕を緩める。
「っと……すまない。そういえば、ちゃんと説明していなかったな」
「ううん」
こうなるなら、どうにかして先に七角形であることを伝えておけばよかったなと今更ながらに反省する。
「魔角というのは、その角数で魔力の強さを示しているんだ。魔壊士としてやって行くには最低でも第三魔角級以上の魔角が必要になる。第四で秀でた存在、第五でエース級の存在、第六に至っては英雄のような存在になっている」
それをも超えている俺って一体……。
自分自身に違和感を覚えつつも気になることがある。
「第一と第二は魔壊士になれないの?」
「そうだな……魔力が無いわけではないんだが、生活魔法が基本で戦いには向いていない。魔力判定では角が無いので、それぞれ点と線で表示されるのだが、大半の人間がこの第一と第二魔角級なんだ。そういう意味では魔壊士というのは限られた人間にしかできない仕事と言える」
なるほど、そうなのか。
自身で魔物から身を守れる力を持っている。それだけでラッキーだと思わないとな。
「そして魔角は血統に寄る所も大きい。強い魔角を持つ両親からは、相応の魔角を持った子が産まれやすいということだ。だからこのフェルガイアでそれなりの地位を持つ者達は代々、強い魔角を持っている。ネロも立派な俺の息子だ。ちゃんと俺達の血を受け継いでるってことだ。はっはっはっ」
クルトは誇らしげに笑った。
魔角も遺伝ってことか。
でも俺、ホムンクルスなんだけど、そこの所はどうなんだろうか?
一応、魔伝子は受け継いでるっぽいけど……。
それに魔角だけでいったら父よりも上。
ってことは、クルトよりも強いのか? 俺……。
いや、そんな感じは全くしないぞ……。
俺にはクルトのような魔法は使えないし、彼が魔物を倒した時のような技もできる気がしない。
「でもボク……パパみたいなことできないよ?」
「はっはっはっはっ、そいつは当たり前だ」
クルトは慈しみをもって笑った。
「?」
「いくら強い魔角があっても魔力の使い方が分からなければ宝の持ち腐れ。それにひとえに使い方といってもその方法は多種多様だ。教えればすぐにできるというわけでもない。それには地道な鍛錬と深い理解が必要なのだ……って、ネロにはちょっと難しい話をしすぎたかな……?」
「ううん、そんなことないよ。良く分かった」
「おおーっ! さすがは我が息子! 賢すぎるぞ!」
クルトは再び俺を抱き締め、頬を擦りつけてくる。
髭がジョリジョリするっ!
そんな俺達のことを圧巻の様子で見ていたアイラも、ようやく我に返ったようで、クルトに声をかける。
「とんでもない才能の息子を授かったな……」
「ああ」
クルトはにんまりとした笑みを返した。
「人類の未来にとって明るい話だが、ホムンクルスという存在にも光明が差したのではないか?」
そうだ。
アイラが言うように魔力を持ったホムンクルスを人工的に生み出すことができるなら、優秀な魔壊士を量産して魔物に打ち勝つことができる。
そう考えるのも当然の流れだ。
「それが俺にも良く分からないんだよな」
「は?」
クルトが苦笑いを浮かべる。
「錬金術の書物の通りに錬成を行っただけで、今回だけ特別何かをしたというわけじゃないからさ……」
「そうなのか……」
「強いて言うなら俺とディアナの愛の成せる技ってやつかな? はは」
「……」
アイラは肩を竦めて呆れ顔だった。
実際、クルト達は何回かホムンクルス錬成に挑戦して失敗しているみたいだし、その度にやり方を変えたわけではない。
たまたま、その中の一つに俺が転生してしまったことがイレギュラーなのだと思う。
俺と同じようなホムンクルスを作るには、誰かに転生してもらわないと再現できないだろう。
しかも成長反応の存在に気づいて、それを何度も乗り越えなくてはならない。
なかなか難易度高そうだ。
そんな事を考えていると、腰を抜かしていた神官が今やっと身を起こした。
「大変失礼いたしました……。素晴らしい才能に期待しております。御子息様が健やかに育たれますようお祈りいたします」
そう言って深く頭を垂れた。
これで俺は魔壊士としてスタートラインに立ったのか?
でも今のままじゃ、魔物に食われて死ぬのがオチだ。
俺は前世の死に際を思い出す。
もうあんな苦しくて痛いことは御免だ。
そうならない為にも早く魔法の使い方を覚えないと。
そう思ったら自然と言葉が口を突いて出ていた。
「ねえパパ、ボクに魔法を教えて!」
クルトは一瞬、目を丸くしたが、すぐに満面の笑みを浮かべる。
「おっ、やる気充分だな! 素晴らしい! いいぞ、パパが持ってるもの全部教えてやる!」
「やった!」
斯くして、俺の魔壊士としての人生が始まった。
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