第4話 人造人間
と、意気込んでみたものの実際どうすればいい?
前は成長反応ってやつが向こうから勝手にやってきた。
それはまた来るのだろうか?
もう来ないのだとしたら、そいつを待っていても徒労になってしまう。
法則が分からない以上、ここは積極的に探ってゆくべきだと思うのだが……。
俺は意識を自分の内側に向ける。
すると、自分の中に例の三角の形をした熱い流れを感じ取ることができる。
暴れ回っていた時と違って、今はその形で安定しているようだ。
こいつをどうにかすれば、もしかしたら……。
思い立って、あの時と同じようにその流れに意識を集中させる。
直後、俺の意志に反応するように、三角の辺が僅かに湾曲した。
おおっ!?
なんか反応してるぞ。
ほんの少し動いただけだが、ちゃんと意識が連動しているのが分かる。
この方法で三角に手を加えれば、何か変化が起こるかもしれない。
試しに辺の一つを引っ張ってみるか。
意識を更に集中させる。
そして三角の底辺を摘まむ感じで下に引っ張るようイメージする。
すると、ゴムのように伸び始めたのだが……。
う……!?
途端、見ている世界がグニャリと曲がった。
酷い目眩に襲われたのだ。
意識が遠い彼方に持って行かれそうになる。
もしかして……ヤバいものに触っちまった!?
慌てて引っ張るのを止めると、すぐに目眩も治まる。
それだけで、この三角の流れが俺の体と密接に繋がっていることが分かる。
はぁはぁ……し、死ぬかと思った。
こいつはキツいな……。
下手すると命にも関わってきそうだ。
とはいえ、こんな何も無い狭い場所で他にやる事などない。
さっきは一気にやり過ぎた感もあるし、次はかなり弱めで試してみよう。
そんなわけで加減を見極めながら、その三角に毎日触れてみることにした。
するとどうだ。
ギリギリを攻めることで次第に慣れてきたのか、一ヶ月ほど経ったくらいからある程度強く引っ張っても目眩がこなくなった。
これなら行ける気がする……。
確信した俺は意識を集中させ、一辺を思い切り引っ張ってみた。
すると引っ張った場所に新たな角が生まれ、三角が四角になった。
しかもその形で安定しているようだ。
そして、心なしか体が大きくなった気がする。
ぷにぷに感があった手足も少しだけシュッとして、感覚的には一歳くらいの体に思える。
これって成功したってことでいいよね?
成長反応を自分で引き起こし、一ヶ月で約一年分の成長を遂げたのだ。
しかも前にみたいに気を失ったりしなかった。
これも毎日に少しずつ、限界を見極めながら地ならししていったからこそだと思う。
要領は分かった。
この調子で成長を続けていけば、三年もかからずここを出られそうだ。
それに両親が言うには俺は魔力を持っていないらしい。
だったら魔物に負けない体を早く作っておく必要がある。
この場所だって魔物に襲われないって保証は無いのだろうから。
できるだけ大きくなるぞ。
そう意気込んだ直後だった。
室内にカランッという音が響いた。
扉のそばで床に転がる木製トレイ。
そのまま視線を上げると、唖然とした様子で俺を見る母の姿があった。
あれ……? この反応……もしかして……マズった?
俺が少しばかり動揺している最中、母は慌てたように室外へ走り、すぐに父を連れて戻ってきた。
「確かに……大きくなってるな……」
父は俺のことをまじまじと見つめながらそう言った。
「こんなに早く成長するなんてことあるのかしら……?」
「いや……聞いたことがない……。
ん? なんか今、凄く重要な単語を聞いた気がするぞ。
ホムンクルスって、錬金術で生み出された人造人間のことだろ?
普通じゃない生まれ方だっていうのは理解していたけど……俺、ホムンクルスだったのか……。
「理由は分からないが……凄いぞこれは……!」
「ええ、そうね! これなら予定より早く、外に出してあげられるかも。そうなったら真っ先に抱き締めてあげたいわ」
二人の様子を見る限り、ヤバい雰囲気にはなってなさそうだ。
むしろこの状況を喜んでくれている。
良かった。これなら心置きなく成長に勤しめる。
「ネロの生命力には目を見張るものがある」
「ほんと、元気な子で良かったわ……」
俺を見ながら、しみじみと言う母の顔には僅かな寂しさが浮かんでいた。
それには理由がある。
この一ヶ月で分かったことなのだが、俺が産まれる前にも同じようにして作られた者が何人かいたのだそうだ。
俺からしたら兄達……?
彼らは成長反応を超えられず、この世に生を受けることなく消えてしまったそうなのだ。
普通とは違う出自であっても母にとっては掛け替えのない我が子なのだろう。
他にも培養槽の中から観察を続けることで分かったことがあった。
それは、俺が父と母の魔力から作り出された存在であるということ。
この世界の人間は大なり小なり誰しもが魔力を持っている。
そしてその魔力も人それぞれ二つと無い特徴を持っているのだという。
それが魔力の中に存在する遺伝子――魔伝子だ。
特殊な液体で満たされた培養槽に両親の魔力を注ぐことで、二人の魔伝子を受け継いだ細胞が形成される。
この細胞に一度だけ訪れる成長反応を超えた時、人の姿となってこの世に誕生するのだとか。
それがホムンクルスという呼び名だと知ったのは、今し方のことなのだが……。
なので両親の魔伝子を継いでいる俺は、前世での在り方とはちょっと変わった形ではあるけれど二人の子供であることには違いなかった。
ただ、このホムンクルスには大きなデメリットがあって、例外無く魔力を持たずに生まれてくるらしい。
魔力によって生み出された存在なのに魔力が無いとか、どういうこと? って思うかもしれないが、実際そうなのだから仕方が無い。
更にそれに加えて赤子になるまでの生存率の低さがある。
例の成長反応による命の選別だ。
そんな悪条件しかないのだから、ほとんどの人間が普通に子作りするだろう。魔力も受け継げるわけだし。
にもかかわらず、両親はなぜ子を残すという目的に対して、その方法を選択したのだろうか?
それだけは、まだ分からなかった。
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