大洪水

船越麻央

水没の危機!

「水だ、水が来たぞ!」


 誰かが叫んでいるのが聞こえた。

 俺は「まさか」と思ったが確認に向かった。

 今日は朝からいい天気だし、何かの間違いだろうよ。


 しかし間違いではなかった。

 俺たちの地下トンネルに大量の水が入って来ている。

 まるで洪水だ。

 こんなことは初めてだが、流れ込んで来る水の勢いは止まらない。


 このままでは大量の死者が出る。

 俺は水に足を取られながら仲間を探した。


「な、なんだこの水は!」

「知るか! 突然入口から流れ込んで来やがった!」

「とにかく、各部署に連絡して対応しろ。応援も出すんだ!」

「よ、よし分かった!」


 地下トンネルは怒号の飛び交う修羅場と化した。水はどういうわけか容赦なくドンドン入って来る。俺は仲間たちと地下トンネル内を奔走した。手分けしてここから重要物をはこびださねばならない。

 急がねば。このままでは本当に水没する! 俺はまず家畜の飼育室に向かった。この大洪水から大切な食糧を守らなければならぬ。

 俺は飼育室のスタッフと協力して家畜を安全な場所に移した。これで一安心だ。しかし休んでいるヒマはない。なぜか水は流れ込み続けている。この地下トンネルはそう簡単に水没はしないはずだ。だがこのまま水の流入が続けばどうなるか分からない。

 俺は右往左往する仲間を𠮟咤激励して、地下トンネル内の最も重要な部署に向かった。


「急げ! 急ぐんだ! モタモタするな!」


 この地下トンネルの最深部。そこだけはこの奇妙な大洪水から何としても守らなければならない。たとえ俺や仲間の命と引き換えにしてもだ。そこさえ守れれば命など惜しくはない。うむ、幸いにも水はまだ来ていないようだ。

 とにかく水の流入が止まってくれ。俺は祈った……。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「いい加減にしなさーい。いつまでやってるの!」

「はーい、もうやめる」


 ある晴れた日の公園の一角。小学生の男の子が母親に𠮟られていた。


 男の子はバケツにくんだ水をアリの巣に流し込んで遊んでいた。すでに三回ほど繰り返しアリの巣を水びたしにしている。気の毒なアリたちは大あわてで、巣の中から何やら懸命に運び出していた。

 男の子はその様子を楽しそうに観察していたのだ。


 子供は残酷な一面を持っている。


 了




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大洪水 船越麻央 @funakoshimao

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