一章
第13話 世界を管理する者
またか…。何度目か分からない目覚めだ。真っ白な部屋に、フカフカのベッド。病室?何処のだ。
体を起こす。小さな窓を覗く。
「え、空?」
「もう起きたの?なかなかのボロボロ具合でびっくりしたわ。久しぶりね ヤイル君。」
「え〜と…誰ですか?」
「もう忘れたの?…ヤーナよ。」
ヤーナ、ヤーナ…あ!
「中央キャンプの!」
「そうよ。派遣が終わって帰った次の日に襲撃を受けたって聞いたわ。大変だったのね。」
「大変…大変…大変…ヤーナよ。ヤーナよ。ヤーヤーヤー………」
世界にヒビが入り、視界が吸われていく。
「ただ一滴の黒。壊れたデッサン。無知なる画家の集まり。まるで荒々しく描かれた川のよう…」
知らない筈の景色が視界を流れていく。
「また一人迷う迷う。純粋な世へ。知らぬ知らぬが許される。」
脈絡なく世界が変形していく。
「世は写す、本質を。そう、鏡ように……」
視界いっぱいに自分が写る。
「あら、またこうなるのね。メアリーはいつもそう。自分の望みを最上だと思い込む。だから壊れるというのに。」
真っ暗な視界の中、尋ねる。
「今語り掛けているのは誰だ?」
「…自分を捉えられない事が普通なのに、不思議な人形さん。私はミラリス。初めて私を見つけた人がそういう名前だったわ。」
「どういうことだ。」
「それを知る為に私は存在する。それにしてメアリー。また世界を繋げたの。停滞する世界も、私は好きなのに。メアリーは変革を好むそう。とっても不思議ね。」
「何を言っているんだ…」
疑問を続けようとするも、意思が真っ白になり言い切れない。
「人形さんに対話を求めてないわ。知らないのだから。無知を知らぬまま、ただ肯定すればいいの。」
「…」
意識が薄れる。
「最後にこれをあげる。本来は渡すものじゃ無いけどね。メアリーの過ちを正してちょうだい。久しぶりの人形さんだからね。特別よ。」
次に意識が戻った時、またヤーナさんがいた。
「あぁ…ヤーナさん。治療ありがとうございます。」
ヤーナさん…いや目の色が変わっている。まさか…
「さっきぶりね、人形さん。心が無事でなにより。」
さっきの感覚と違い、会話の感覚がある。
「普通に会話してるのが不思議だよ。ミラリスだったか、何者だ。」
「何者かを聞かれても分からない。でもこの体はミラリスを模倣したもの。あなたと同じ人形さんね。それにあなたのいうミラリスは私と違う。私は…まぁ世界の成り立ちを研究していた過程で会っただけの学者よ。」
「もう訳わからんからミラリスでいい。で?ヤーナさんはどこだ。」
「ヤーナ…あぁ素体のことね。雑に説明するけど、私はこの世界への過度な干渉をすることができない。そして生物のように定型を持ってもいない。ミラリスが私を模倣したように、世界へ現れるには素がいる。それが素体。つまりヤーナと呼ばれる存在はもういない。人形さんと私だけが、ヤーナという存在を知っている事になる。」
「尊厳もあったもんじゃないな。人間じゃないか…まるで神様みたいな事しやがるな。」
「似たようなものね。」
「で?メアリー?とやらのせいで今の空船が来たってわけか?」
「…昔観測した人形さんはもっと丁寧だと思ったけど。荒々しいこと。」
「イライラしてるんだよ。わけわからない事の連続でな!なんだ?恋したと思えば、ショタロとかいう警備隊長にボコボコにされて…突然病室だ。で、ミラリスとかいうやつと会ってさぁ!」
「まぁ落ち着いて。」
「落ち着いてるわ!冷静にキレてんだよ!」
「そうねぇ…人形さんの事情から話そうかしら。」
「…って俺の話?」
「ざっくり言うと人形さんは生贄に近い状況なの。」
「生贄…ってなぜ!誰がそんな事を」
「メアリー。さっきから言ってるでしょう。私達が世界に干渉するのは素体…悪く言えば生贄がいるのよ。まず空船の正体を教えてあげる。別世界の住人よ。」
「別世界…」
「そう。この世界とは違う法則で回る世界。もう滅びそうな不安定な世界。メアリーは変革を望んでいるの。だから彼らを利用した。」
「つまりあいつらは利用されてるのか…」
「半分正解。別世界でも私達は過度な干渉はできない。でもメアリーは崩壊寸前の世界を利用した。空船に乗る者たちに言葉を授け、動機と手段を用意した。だから空船はこの世界を侵略している。」
「…」
「あら静かね。大義が無ければ戦えないの?」
「それはそうだ。虐殺に加担した身が何を言うかって話ではある。でも意味も無く殺しは出来ない。」
「大義…ねぇ。言い忘れてたけど今空船が戦ってるの、人形さんの母国よ。」
「は?」
語られぬ異世界戦争 なうなす @nawnas
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