第12話 限界
「何が…起きてる。」
「知らないわよ。でも、ピンチなのはわかるわ。」
「そらまぁ…空に黒い渦あるし、異常だな。」
「あんた喋り方変わったね。どっちが素だい?」
顔が焼けそうなくらい熱くなる。
「いつもこっちだよ。」
「答えになってないよ。さっ!ここを離れようか。お前のおかげでもう走れるし。」
「わかった。」
街道沿いを走り始める。すぐ正面に空を見てる薄緑髪の女性?がいた。
「この空は何だ?不思議な渦。巨大な魔力反応、それに目の前で俺に気づかない男女。君たちは敵か…味方か。片方はジャンジャン団の識別。」
私の方を見ながら喋っている。
「俺はエンザート国軍のヤイルだ!こっちは…」
彼女のジャンジャン団の言い方が少し引っかかる。敵意を含んでいるような。思わず口をつぐむ。
「まぁエンザート国軍なら…と言いたい所だが、ジャンジャン団と仲間の国軍が居るのか?いや居ないな。裏切り者か、それ以外か…聞かせて貰おう。」
「今更だが知らない人間に名乗るのは変だな。お前は誰だ!」
「…確かにな。ではこちらも名乗ろうか。コア帝国派遣警備隊隊長、ショタロだ。これで君の詳細を聞く理由は分かるだろう?」
ジャンジャン団と敵対する組織じゃ最大級だな。クソッ逃げ切れるか?クレシーを守りながらじゃ…クレシーには引いてもらうか。なら選択肢は一つ!
「決闘だ。一対一、対等な対決。それで勝ったらお前の話を受け入れよう。」
「…大した覚悟だ。たまにはそういう戦いも悪くない。そこの女が逃げぬと言うなら、その決闘受けてやる。」
「別にあたしは逃げないよ。」
まじかよ。逃げて貰うつもりが、ただの決闘になってしまった…まぁ俺も鍛錬はした軍人だ。剣を構える。相手も剣を構えた。似たようなサイズの直剣。
力を込め剣を振るう。しかし普通に受けられる。
ガァン!ガァン!
何度剣を振っても、相手の体には届かない。どんなに力を込めようと、最小限の力で流される。そういえばいつも負けてばっかりだな。最初は不意打ち、次にカトウの覇気に押されて、不戦とは言え勝てないと悟った。パンドラの幹部らしきやつにも、きっと私は負けるのだろう。オリフ隊長にも、何回か庇ってもらったな。
息が切れ、意識がフワフワし始める。また…また負けるか。特殊戦力とは名ばかりで、裏切り者の小間使いだった。昔はエンザートの英雄で、通称黒翼、バルリーア。私は彼女に憧れた。人の域を超えた速度の戦闘に、洗練された剣に。
…一目惚れとは言え、私は何も無いまま負けるのか?傷もつけないまま、負けるのか…。
いいや、もう負けない。どうせ負けそうなんだ。命なんざ差し出してやる。世界に食らいついてやる。本来出してはいけない速度を遥かに超える出力で動き出す。
「いいな!やはり命のやり取りだ。やっぱり緊張感が無ければ戦ってる気がしないんだ。来い、戦士よ!」
速度の限界値を超え、脳が震える感覚がする。振動が、衝撃がそのまま死に繋がる状況。少し楽しいな。これが戦いか。速度限界値を超えたまま動くと、体の末端から青くなる。まるでおとぎ話の悪魔のようだろう。
「おらぁぁぁ!」
視界が赤くなっていく。全身が熱い。苦しい戦闘の最中。奴が光って見える。ここだ…足に全力で力を込める。ここで決める。
ズガァン!渾身の剣を受けられる。それじゃあ止まらない。受けられた剣を手放し、その勢いのまま相手の首筋を蹴る。
ゴッ!と鈍い音が鳴り、奴が白目を剥いてる。ハハッやった…視界が黒く染まった。
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