第10話 ヒロインレース

「聖樹の導きを信じよ。我ら教会の裁きを受けよ。」

 一番前に居た灰色のローブの男がそう唱えた後、周りのパンドラらしき連中と、同じく灰色のローブを着た奴らが、襲いかかってきた。

 ジャンジャン団の奴らは思ったより強く、一対一ならまだしも、二対一なら負けそうだ。喧嘩を売らないようにしよう。数はジャンジャン団の方が遥かに多く、パンドラ連中は、押されている。しかし、一箇所だけ、ジャンジャン団が負けている。あれはパンドラの戦闘員か、多対一を避け、一体一体を丁寧に倒している。あれは多分勝てない。カトウの用な感じの幹部か?にしても手慣れている。オリフ隊長の様な堅実な戦い方だ。

 幹部?の活躍で、ジャンジャン団が若干劣勢になった。私はそのへんの箱の裏から、戦場を観ていたが、そろそろ限界か?

 戦いの限界を感じ、逃げる準備をしていたら、さっき私を案内したクレシーが死にかけてる。助ける…いや待て、幹部にも勝てないんだ。助けるどころではない。…助ける?何故私が初対面同然のクレシーを助けようとしている。なんだ、クレシー助けるのか…自分に問い掛ける。

 疲れてるのか…命は大事。まず…もういい。助けてから考えよう。なんか変だ。剣を構え、箱の裏から飛び出す。まずクレシーを抱き抱え、拠点の外に飛び出す。

 走りながらクレシーの顔を見る。可愛いな、いや違う!私は善意で助けたんだ。下心じゃない。決して惚れたとか無い。見苦しい言い訳は風に乗って消える。

 産まれてこの方特に恋愛してない私が、恋?盗賊に。なんなんだよ。やっぱり疲れてるのか…最近色々あり過ぎてるしな。当てもなく走る。街も、村も、集落も、付近には見当たらない。でも止まりたくなかった。ただ、クレシーを抱えて走る。

 しばらく走っていると、クレシーが目を冷ました。相変わらず、私は走っている。

「なんだい…私を助けたのかい?……取り敢えずありがとう。でも何処に走っているんだ?見た所こっちは山しか無かったと思うが…ってなんか言え!黙って走りやがって、人攫いか?人攫いなのか?」

「違う。走るのに集中してただけだ。」

「…変な奴だな。もう死んだと思ったんだがな。お前に貸しが出来ちまったな。返す方法は何が良い?」

「別に、返さなくてもいい」

 一瞬良くないことが頭を過ったが、振り払った。

「返さなくてもいいって…腐っても命の恩人なんだ。きちんと返す。そうだな…何でも一つは頼みを聴いてやる。これでどうだ?」

 何でも……………

「クレシー…す、す、」

「す?」

「スケベ!」

「あ?喧嘩売ってんのか…」

「ち、違う!間違えただけだ。近くの街への案内を頼みたい。」

 だめだだめだ。このままじゃ頭がおかしくなる。

「…変な奴だな。ヤイル?だったか。街なら別に頼まなくても、行かないとだから案内位したのによ。まぁいい、取り敢えず、右後ろだ、右後ろの方にエニクス街道がある。そこを上がってけば、都市フィーレがある。私はこの程度しかしか知らん」

 フィーレか…服が有名だな。…クレシーのドレス姿が頭に浮かぶ。ブンブンと頭を振って、下品な妄想を振り払う。フィーレまで走る。フィーレまで走る。そして心を無にして走る。そんな事を頭の中で繰り返していたら、エニクス街道が見えた。そのまま道に沿って走る。

 日もそろそろ落ちそうだ、取り敢えず街道沿いで泊まるか。

「一旦ここで泊まるか。食べ物は…」

 ガサガサと持ってきたカバンを漁る。七つの携帯食料があった。今夜はこれで凌ぐか。

「携帯食料がある。食べるか?」

「くれるのかい?優しい奴だな。ありがとよ!」

 クレシーがニカッと笑う。胸が高鳴る。

「お礼は大丈夫だ。さぁ俺は燃やせそうな物を集めて来る。」

「なにから何まですまないね。怪我はあんたの包帯で、マシにはなったんだが、動けそうに無い。頼むよ。」

 クレシーの一挙手一投足が、私の心の奥底を掻き混ぜる。こんな事を認めたくない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る