第5話 私のハジメテ
「いや〜くつろいでるとこ悪いけど、同志達はすることがあるんだよ。」
アルツァーが寮の部屋にやってきた。
「すること?」
「そうさ!我ら同志は仲良しクラブではない。早速説明に入ろうか。我々は今回エンザート連合王国とエルフーン国の戦争で最重要の拠点を落とす。イーツィ港だ。ここを落とせばエンザートの援軍、及びほぼ全てのエルフーン内の部隊が停止する事になる。」
イーツィ港はエンザートの第三隊〜第十三隊までのおよそ4000が防衛を行う。まさに最重要拠点だ。
「その顔…もしかして怖いか?」
ニヤケ顔でアルツァーが煽ってくる。
「そんなことはない。エルフーンではなくエンザートとは…俺への配慮か?」
思わず強がってしまう。
「配慮なんてしない。まぁ…楽しむと良いよ、しかし数千はいるであろう防衛戦力は正面からじゃ崩せる訳が無い。それはそうだ。と、いうことで君は斥候だ。見て伝える大事な役割だ。喜ぶと良い!」
「…それは俺にカナリアをやれと?」
「ほぉ〜。察しが良いな。そうだ!いきなり大仕事だ!ここで戦果を上げれば私のハジメテをくれてやってもいいぞ!」
「は?…俺にそんな趣味はない」
「ハッ。何を想像したんだ敗残兵。勲章をくれてやるということだ。誰にも渡さなかったからな。君が私のハジメテだ。」
「私の勘違いか…。」
恥ずかしいな。
「さっ!話は終わりだ。荷物をまとめたまえ。明日には出るぞ。」
「メンバーは?作戦は?いきなりすぎないか?」
「君がもっと早くこちらにいれば、ミーティングには参加できただろうが…それはだいぶ前だ。まぁ…頑張りたまえ。命は大事にな。あっ!後で工房に寄っていくといい。ではな」
工房…?寮の隣のアレか。
部屋から出て、寮の隣りにある建物のキイキイなる木の扉を開けて中に入る
「失礼する。」
「おお〜お前が新入りか!自殺志願者にしては凛々しい顔してるんだなぁ…」
「自殺志願者ではない。アルツァーに寄れと言われただけだ。」
「アルツァー……あ〜あ〜!剣だよそうだそうだ!剣渡すようにって言われてたんだったよ。ほいっ」
ガシャン!雑に投げられた剣をみてみる。しっかりと研がれており、なかなか良い剣だと思う。
「しかし…お前なかなかの胆力だ。わしはアルツァーが苦手でね。お前も気をつけると良い。あっ…」
「他になにか?」
「お前さん何処で戦う予定なんだ?」
「斥候だ。」
「あ〜。なら本部にいるカトウに会っておくと良い。作戦の重点くらいは教えてくれるだろう。ではな。」
「ありがとう。あ〜」
「わしはヘルトーだ。ここで鉄を打っている。生きて帰ってくれるなら…また剣くらいは打ってやるさ」
「ありがとう、ヘルトー。色々教えてくれて。」
たらい回しにされてる気がして少しイライラする。工房を出て、本部へと歩いていくと。
「ふぅむ。ふ〜む。」
顎に手を当ててふむふむ言ってる男を見つけた。あの顔の感じはハルア国の者か?…それにしても近付くだけで体が震える。あれは恐ろしい程強いだろうな。
本部のドアを叩き大きな声で言う。
「すいませ〜ん!カトウという男探してるんだが〜」
「なんの用だ。……新入りか。改めてなんの用だ?」
「いや、作戦の詳細を共有してほしくて…」
「ふむ、ふむふむ。良いだろう同志。イーツィ港攻略戦とでもいうか…今回の作戦は少なくとも大成功はしないだろうな。その上で、君担当は?」
「斥候だと言われている。」
また顎に手を当ててふむふむし始める。暫くしたら口を開いた。
「斥候か…確か遠距離部隊の攻撃を確認後、イーツィ港の東から作戦が始まる。そこで撹乱と他部隊と協力し、イーツィ港の全ての機能を停止させる、だったな。そうだ新入り。確認だがエンザートの元軍人なんだよな。」
「あぁ…それがなにか?」
「さらに詳しく聞くが、特殊開拓戦力第一隊ノース分隊に所属していた。」
「そうだ。」
「なら…顔は隠しておけ。絶対に良くない事に利用されるだけだ。」
「良くない事だと?」
「そうだ。下手したら全面戦争の引き金になりかねない。それなりに本国で認知されている組織の軍人が、他国に協力している。イーツィ港で死亡したことにすれば、エルフーンどころか、ふむふむふむ。まぁ…今日は休みたまえ。疲れていたら作戦進行に支障が出る。ではな」
そうしてカトウとの話が終わった後、寮に戻って布団に入る。顔を隠すか…それに最後の言葉。不安になってきたな。明日はまた戦場に帰ることになるだろう。今度は逆の立場として。
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